<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第109回

Photo17 ときの忘れ物 72dpi(画像をクリックすると拡大します)
一目瞭然、男子トイレである。
いまどき珍しいアサガオ形の便器だ。
アサガオの花に似ているためにこの名があるらしいが、
朝顔よりも間延びした形でグラジオラスに近い。

さっきからふたつの便器のあいだの長細い窪みが気になっている。
便器以上にこちらが目立つのだ。
内側に黒っぽいタイルのようなものが貼られ、
その上の壁にも同じようなタイルを貼った箇所がある。
どちらも意味不明。
装飾、だろうか。

その壁には、人が立つとちょうど目がいく高さに平らな部分があり、
二本の栄養ドリンクが立っている。
隅っこに身を寄せる姿が番人のようだ。

床に目を移すと、ここにも律義にデザインされた跡がある。
人が立つ位置には明るい色の、その横には濃い色の石材プレートが敷かれている。
広い床のほうとは素材がちがう。そちらはタイル貼りなのだ。

つづいて注目したいのは入口の壁である。
胸の高さあたりに細い溝が横に切られている。
便器のところにはその溝はなく、画面右手前の壁にはそれが写り込んでいる。
ということは、入口からここまでぐるりとこの凹みがまわされているのだ。
溝の上と下では、下のほうの壁はかすかに色が濃いように見えるので、
ツートンカラーになっている可能性もある。

ところで、内部はこんなにもデザインされているのに、
入口にはドアがない。
ただ壁を矩形に切り抜いただけという大雑把さ。
意匠に凝り過ぎてドアを付けるのを忘れたのだ!
ぽっかり開いた空洞には不吉な気配が漂っている。
奥の闇からぬっと手が出てきそうで危ない。

どんな生き物も排泄のときは無防備になるものだ。
万人がひとしく弱味を握られる空間、それがトイレなのである。
急務を果たせば一瞬の解放感を味わうが、不用意に出るのは剣呑である。
なにしろ、入口のむこうには異界が待っているのだ。
どんなことになるかわかったものではない。
大竹昭子(おおたけあきこ)

●作品情報
タイトル:untitled from the series of My name is My name is ...
クレジット:photography koki Daido

●作家紹介
大道兄弟(だいどうきょうだい)
1994年山梨県生まれ。大阪府堺市育ちの双子の兄弟(兄yukiと弟koki)。2002年、当時19歳のyukiがイギリスに留学。アンティークショップでソファに乱雑に置かれたフィルムカメラを手に取り、シャッターを切った際、体に電流が走る様な体験をし、写真を撮り始める。一方kokiは、同年にyukiに会いにイギリスに行き、yukiが撮り溜めた大量のプリントを見て衝撃が走り、写真を始める。現在は大阪や京都を中心に活動し、普段から別々にカメラを持ち写真を撮る。19歳から27歳までの8年間の間に2人ともzineを約40冊づつ作る。写真家の石川竜一に直接会う為に沖縄に赴いたり、出版社赤々舎でアルバイトをしたりと精力的に活動している。
2021年9月16日に写真集『My name is My name is…』が兄弟名義で私家版として刊行された。

●写真集について
『My name is My name is…』
発売日:初版2021年9月16日 著者:大道兄弟
企画・編集:大道兄弟 発行:桜の花本舗
印刷・製本:株式会社日本写真印刷コミュニケーション
ページ数:64ページ
仕様:252×227mm、上製本、限定100部
本体価格:¥3500(税込み)
以下の本屋にて販売しております
youbooks
大阪府大阪市城東区鴨野西1-3-27

nice nonsense books
〒733-0035 広島県広島市西区南観音1丁目11-43 

大道兄弟のinstagramのDMからでもご購入できます。@daidobro1201

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
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