新連載・中村潤のエッセイ「さまざまいま」第1回
「うろうろをへて こつこつのはて」
pique(ピケ) 02
2021
糸くず、紙
H10x W14 x D11(cm)
糸くずや紙など、その辺にあるものを見て「なんとも言えへんねじれ具合!」とうっとりしたり、「ぺらぺらの紙が1回折るだけでしゃんと立つってすごいわあ」と感心したりする時間が、形を作り出すきっかけになる。生活の中で何度も感じ直す『きれい』『ほう』『どうなってるの』といった実感を形にできないかと、あーでもないこーでもないと試し続ける。ちゃうな、いける?、あかんわ、保留、と作品になりきらない形のようなものが、部屋中のあちこちに転がっている。いつかどうにかなったらいいなあと、チラチラ目に入る場所に置いて、気にしている。要はあきらめが悪いのだろう。
7年程前から『千切りごぼうと人参のかき揚げ』や『水饅頭』のような、細い線状のもの・細かい粒子・透ける素材などが重なり合って成り立つ形が気になっていて、最近ようやく作品にできそうな気がしてきた。あきらめが悪いのも良く言えば、「しぶとい」とも言えるか。
テレビのグルメ番組で見る高級天ぷらの映像、デパートのお菓子売り場、工事現場の重機、街路樹の剪定作業……、暮らしながら何かしら目に入って、見て、ハッとすると同時に「こんな風に作れへんかなあ」と頭の中で作り始める。いけそう!となったら作り方をメモして忘れないようにして、頭の中の材料で作り続ける。歩きながら、バスに乗りながら、どこでもいつでも。
私の生活の中に作ることはあって、日常を面白いものにしてくれている。
2つの輪の仕組み(部分)
2022
紙、刺繍糸
H65 x W90 x D90(cm)
一度、作品を見た人に「我慢強い子どもみたいな作り方ですね。」「ただの子どもだと『飽きた』『もういい』と投げ出しそうだけど、中村さんは『こんなん見たい』ってだけでずっと作り続けられるんですね。しかも楽しそう。」と言われたことがある。私の好奇心から成る形への欲求が少し伝わったのかもしれません。(しかし、思い出して改めて文章にしてみると、呆れられていたのではとも思う。)
重なる、からまる、折る、立つ、といった単純な現象から成る、構造と重力を面白がる形をこれまで作ってきた。大きさは大小に変化し、その大きさに伴って変化する空間を楽しんできたように思う。折ったら立つ、積もったら大きくなる。長細いものは編める。編んだものは解ける。生活の中にあるやり方で仕組みが生まれ、構造物が出来上がる。
「どうやって作ってるんですか?」と聞かれ「こうやって作ってるんですよ。」と、作り方を言葉にした時、年齢や性別、職業を問わず、大体の人に伝わる。分かるんだけどあまり見た事のないもので、ちょっと愉快。
誰にでもわかる仕組みで、でもワンダー。そんなものを見ていたいと作り続けている。
私が作ったものには違いないけれども、他の誰かが作ろうと思えば作れる方法である。
世の中に溢れる素材の中から私が選んで組み立てた形だけれど、初めからそんなものがあったかのような当然の形をしている。
目的を持たず、ただ、形や構造、空間のおかしさがその場に生まれたら、こんなに嬉しいことは無い。
今回の展覧会の名前は『うろうろをへて こつこつのはて』と言う。これまで「お!」「あら」「ちゃうか」と思考も身体もうろうろさせて、こつこつ作ってきたものを展示できればと思っている。
(なかむら めぐ)
・ときの忘れものでは今春4月に個展「中村潤展 うろうろをへて こつこつのはて」を開催します。
中村潤さんのエッセイ「さまざまいま」は毎月15日更新、全3回(2022年2月~4月)の連載です。
■中村潤 Megu NAKAMURA
1985年生まれ。京都府在住。2011年京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。
主な展覧会に 個展「さやかなり」(gallery morning kyoto,2022,京都),「「市」@ ACG Villa Kyoto」(ACG Villa Kyoto,2021,京都),「HOME PARTY 06 –蝶や花や(ちやほや)-」(みずのき美術館,2020,京都),「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」(ギャラリー ときの忘れもの,2019,東京),個展「さて」(gallery morning kyoto,2019,京都),「ART OSAKA 2019」ホテルグランヴィア大阪(大阪),個展「Showcase Gallery 2018-2019」(横浜市民ギャラリーあざみ野エントランスロビー,神奈川,2018),「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE2017」(岐阜県美術館,岐阜,2017,入賞),個展「めいめいの重なり」(アートスペース虹,2017,京都),「Art Court Frontier 2014 #12」(アートコートギャラリー,2014,大阪),「ゲンビどこでも企画公募2011展」(広島市現代美術館,2011,広島,審査員特別賞)など。ほか、ワークショップも多数実施。
メディア:2014年「シャキーン!」NHK Eテレ (番組内コーナーで作品紹介)
https://www.instagram.com/nakamura_megu/
●本日のお勧め作品は長谷川潔です。
長谷川潔 Kiyoshi HASEGAWA
《樹と村の小寺院》
1959年
エッチング
イメージサイズ:33.5×24.0cm
シートサイズ:51.5×38.0cm
Ed.100
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
「うろうろをへて こつこつのはて」
pique(ピケ) 022021
糸くず、紙
H10x W14 x D11(cm)
糸くずや紙など、その辺にあるものを見て「なんとも言えへんねじれ具合!」とうっとりしたり、「ぺらぺらの紙が1回折るだけでしゃんと立つってすごいわあ」と感心したりする時間が、形を作り出すきっかけになる。生活の中で何度も感じ直す『きれい』『ほう』『どうなってるの』といった実感を形にできないかと、あーでもないこーでもないと試し続ける。ちゃうな、いける?、あかんわ、保留、と作品になりきらない形のようなものが、部屋中のあちこちに転がっている。いつかどうにかなったらいいなあと、チラチラ目に入る場所に置いて、気にしている。要はあきらめが悪いのだろう。
7年程前から『千切りごぼうと人参のかき揚げ』や『水饅頭』のような、細い線状のもの・細かい粒子・透ける素材などが重なり合って成り立つ形が気になっていて、最近ようやく作品にできそうな気がしてきた。あきらめが悪いのも良く言えば、「しぶとい」とも言えるか。
テレビのグルメ番組で見る高級天ぷらの映像、デパートのお菓子売り場、工事現場の重機、街路樹の剪定作業……、暮らしながら何かしら目に入って、見て、ハッとすると同時に「こんな風に作れへんかなあ」と頭の中で作り始める。いけそう!となったら作り方をメモして忘れないようにして、頭の中の材料で作り続ける。歩きながら、バスに乗りながら、どこでもいつでも。
私の生活の中に作ることはあって、日常を面白いものにしてくれている。
2つの輪の仕組み(部分)2022
紙、刺繍糸
H65 x W90 x D90(cm)
一度、作品を見た人に「我慢強い子どもみたいな作り方ですね。」「ただの子どもだと『飽きた』『もういい』と投げ出しそうだけど、中村さんは『こんなん見たい』ってだけでずっと作り続けられるんですね。しかも楽しそう。」と言われたことがある。私の好奇心から成る形への欲求が少し伝わったのかもしれません。(しかし、思い出して改めて文章にしてみると、呆れられていたのではとも思う。)
重なる、からまる、折る、立つ、といった単純な現象から成る、構造と重力を面白がる形をこれまで作ってきた。大きさは大小に変化し、その大きさに伴って変化する空間を楽しんできたように思う。折ったら立つ、積もったら大きくなる。長細いものは編める。編んだものは解ける。生活の中にあるやり方で仕組みが生まれ、構造物が出来上がる。
「どうやって作ってるんですか?」と聞かれ「こうやって作ってるんですよ。」と、作り方を言葉にした時、年齢や性別、職業を問わず、大体の人に伝わる。分かるんだけどあまり見た事のないもので、ちょっと愉快。
誰にでもわかる仕組みで、でもワンダー。そんなものを見ていたいと作り続けている。
私が作ったものには違いないけれども、他の誰かが作ろうと思えば作れる方法である。
世の中に溢れる素材の中から私が選んで組み立てた形だけれど、初めからそんなものがあったかのような当然の形をしている。
目的を持たず、ただ、形や構造、空間のおかしさがその場に生まれたら、こんなに嬉しいことは無い。
今回の展覧会の名前は『うろうろをへて こつこつのはて』と言う。これまで「お!」「あら」「ちゃうか」と思考も身体もうろうろさせて、こつこつ作ってきたものを展示できればと思っている。
(なかむら めぐ)
・ときの忘れものでは今春4月に個展「中村潤展 うろうろをへて こつこつのはて」を開催します。
中村潤さんのエッセイ「さまざまいま」は毎月15日更新、全3回(2022年2月~4月)の連載です。
■中村潤 Megu NAKAMURA
1985年生まれ。京都府在住。2011年京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。
主な展覧会に 個展「さやかなり」(gallery morning kyoto,2022,京都),「「市」@ ACG Villa Kyoto」(ACG Villa Kyoto,2021,京都),「HOME PARTY 06 –蝶や花や(ちやほや)-」(みずのき美術館,2020,京都),「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」(ギャラリー ときの忘れもの,2019,東京),個展「さて」(gallery morning kyoto,2019,京都),「ART OSAKA 2019」ホテルグランヴィア大阪(大阪),個展「Showcase Gallery 2018-2019」(横浜市民ギャラリーあざみ野エントランスロビー,神奈川,2018),「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE2017」(岐阜県美術館,岐阜,2017,入賞),個展「めいめいの重なり」(アートスペース虹,2017,京都),「Art Court Frontier 2014 #12」(アートコートギャラリー,2014,大阪),「ゲンビどこでも企画公募2011展」(広島市現代美術館,2011,広島,審査員特別賞)など。ほか、ワークショップも多数実施。
メディア:2014年「シャキーン!」NHK Eテレ (番組内コーナーで作品紹介)
https://www.instagram.com/nakamura_megu/
●本日のお勧め作品は長谷川潔です。
長谷川潔 Kiyoshi HASEGAWA《樹と村の小寺院》
1959年
エッチング
イメージサイズ:33.5×24.0cm
シートサイズ:51.5×38.0cm
Ed.100
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
コメント