小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第55回

2月×日
暇である。
最近は店の雰囲気がゼロか百か、という日も多い。つまり高単価の本が売れて、お客さんは10人でしたが売上は良いです、みたいな?それはそれでありがたいが、博打感もあって胃には悪い。
5,000円の本が1人に売れるのと500円の本が10人に売れるのとどっちが良いって、そりゃあ5,000円の本が500人に売れるのが1番ですよ。

2月××日
業者の大市の開札手伝いに行く。
とにかくすごい量の本が売れていく。業者市なので一般のお客さんに売れていく訳ではないが、古本屋が買うってことは、それだけ店やネットにも本が並ぶ訳で、つまり古本市場はまだまだ元気ってことかな。油断はできないが、今のうちになんとか頑張りたいと思った。

2月△日
休日。久しぶりに都内有数の大型書店に行く。文庫の新刊をじっくり眺めて、棚をみる。
講談社で好きな作家の単行本が文庫化されていて、でもそれが文芸文庫のレーベルからで、値段は高い。安価な文庫でたくさん作るという戦略、単なる単行本のフォーマット違いを作るということではなく、解説や収録作品の組み合わせで付加価値をつけて、部数も抑える。というよりそもそも単なる文庫で刷り部を多くして低単価にして返本を受けるよりは、単価は高くして印税や製作費を確保するというほうが賢明。高価な文庫になる文芸文庫と、通常の講談社文庫と使い分けるのはとても納得がいった。文庫の価値が、解説にあるとするなら(文芸文庫の場合は多くに付される自著解説も)決して高くはないだろう。まぁ、問題はメジャーを捨てるという一点だろうな。講談社文庫と違って全国どの書店にも届く訳ではないし。
それよりも衝撃だったのは、法蔵館が文庫を出していて、その置き場所が、「その他文庫」と雑に括られていたこと。並びのとなりは官能小説でした。法蔵館と官能小説が並ぶ棚。なんか、一周回って顧客マーケティングができているのかもしれない。

2月■日
古本屋にとって読書家の存在は心強いものだ。
読書家がいるからこそ、本が売れ、また本を買える。
しかし唯一、読書家に本を読むのをやめて欲しいと思う時がある。それはえんぴつで書かれたラインを消している時だ。
ボールペンや蛍光ペンなら諦めがつく。しかしえんぴつだと、古本屋たるもの、できれば消してより高く売りたいと思う。それがあまり見ない本であれば尚更だ。自ずと一ページずつめくって、ゴシゴシと消しゴムをかけていく訳だが、この時ばかりは「頼む!このページで読書をやめてくれっ!」と思う。後半に向かえば向かうほどラインの量が増えて行ったりすると「やめて!盛り上がらないで!」と思う。
いや、すみません。わがままです。買われた本はご自由に読んでくださって構いません。

2月☆日
市場で買ってきた料理の本を1冊ずつ磨いてコーナー化。
このころの料理本は、本当に楽しいものが多い。情報量の詰め込みかたが、今の本では考えられないくらい濃い。今回は中華料理と東洋医学関係を中心に棚を作ってみた。

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おくに たかし

小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。

■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。

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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊