中村潤のエッセイ「さまざまいま」第3回

書くこと をへて、こつこつ つづく


 「展覧会の予告編になるようなエッセイを」とお話をいただき、このブログを書いている。せっかく書くなら、誰が読んでもわかる文章にしたいなあと、まずは勉強。長嶋有さんや津村記久子さん、山崎ナオコーラさんのエッセイをもりもり読み、『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』(新潮文庫)を教科書にしてこの数ヶ月を過ごした。『作文教室』の本は原稿用紙の使い方から句読点の役割、読み手に届くとはどういうことかなど、一から教わった。

unnamed_2


自分は何を書きたいか。なんのために、なにを、どのように。

内容を他者に届けるには、どう言葉を連ねるか。

『自分にしか書けないことを、誰にでもわかる文章で書く』にはどうしたらいいか。

うんうん唸りながら毎回締め切りを迎える。

unnamed_1


 前の2回、自分以外の人に向けて展覧会の予告編のような、自己紹介になるようなエッセイを書いてみた。「わたし以外の誰かが読んでわかるように」と書いたものが、結局、自分自身が作品の作り方や、素材の取り組み方を確認する機会になった。「こうやって作っていくと、わたしは納得するし、気持ちがいいんやなあ」と改めて思ったわけだ。展覧会のための作品を作りつつ、作る自分の様子を実況するように文章を書くことは、正直なところ苦しい。でも、「わたしはこんなことがしたい。これは譲れへんのやで!」と作りながら実感できた。大事にしたいことや面白いと思っていることに一つ一つ旗を立てて、自分で自分を応援しながら山を登っているような気分である。

unnamed_3


 普段、作る日々の中で扱う言葉はメモ程度の『他人に読んでもらう必要のない文章』がほとんどだ。しかし、「わたし以外の誰かが読んでわかるように」と形の残る文章を書くと、物理的に距離を持もって文章を目で追うことになる。客観的に文章の内容に向き合い、自分のことを感じ直すことになる。

 作品制作は「これ見てみたい」「思いついた気がする」といったわくわくを原動力に、とにかく手を動かして形にする。目で見えるようにして、離れて、色・形を見て「できてるか」と確認する。見てわかることを信じてやってみる。この繰り返しだ。さて、文章はどうか。自分は何を書きたいか。なんのために、なにを、どのように、と自分に問うて、ひたすら書く。書いて書いて、目で読めるようにして確認して、判断する。いらないところを削って、並び替えて、初めの姿なんか無くなって、その時の言いたかったことだけが紙の上に残るようにする。見てわかるようにして、何をしたかったか感じ直す、という制作にまつわる一連の流れは、作品も文章も似たようなところがある。

 結局、作ってみんとわからへんし、書いてみいひんとわからへん。作ってる途中(書いている途中)は全貌が見えないからすごく不安。でも面白くなりそうな予感を信じてとにかく作ってみる(書いてみる)。できたものを見て(読んで)、初めて納得いくかどうかの判断をする。逆にいうと、頭の中で完成しないものを作っている(書いている)とも言える。

 作品を作ることは、わからへんものが見える形になる。それが面白くってやめられない。文章を書くことも同じように、頭の中の実感を読めるようになるのが面白い。そんな数ヶ月を経て、展覧会はいよいよ始まる。どうぞよろしくお願いします。(完)
なかむら めぐ

中村潤  Megu NAKAMURA
1985年生まれ。京都府在住。2011年京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。
主な展覧会に 個展「中村潤展 うろうろをへて こつこつのはて」(ときの忘れもの,2022,東京),「さやかなり」(gallery morning kyoto,2022,京都),「「市」@ ACG Villa Kyoto」(ACG Villa Kyoto,2021,京都),「HOME PARTY 06 –蝶や花や(ちやほや)-」(みずのき美術館,2020,京都),「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」(ギャラリー ときの忘れもの,2019,東京),個展「さて」(gallery morning kyoto,2019,京都),「ART OSAKA 2019」ホテルグランヴィア大阪(大阪),個展「Showcase Gallery 2018-2019」(横浜市民ギャラリーあざみ野エントランスロビー,神奈川,2018),「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE2017」(岐阜県美術館,岐阜,2017,入賞),個展「めいめいの重なり」(アートスペース虹,2017,京都),「Art Court Frontier 2014 #12」(アートコートギャラリー,2014,大阪),「ゲンビどこでも企画公募2011展」(広島市現代美術館,2011,広島,審査員特別賞)など。ほか、ワークショップも多数実施。
メディア:2014年「シャキーン!」NHK Eテレ (番組内コーナーで作品紹介)
https://www.instagram.com/nakamura_megu/

●「中村潤展 うろうろをへて こつこつのはて」
会期=2022年4月15日(金)~24日(日)11:00-19:00 ※会期中無休
340a340b
2019年に「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」にて展示をした中村潤(b.1985)のときの忘れもの初個展。トイレットペーパーを編んで造形した作品や方眼紙を針と糸で刺したオブジェ作品を京都で制作しています。不思議なカタチ、細やかな編みこみ、作品は柔らかな雰囲気を持ちながらも、一度見たら忘れられない強烈な印象を与えます。
作家在廊日は4月15日(金)、16日(土)、17日(日)、23日(土)、24(日)の予定です。変更になる場合もございますので、HPでご確認ください。
【ステートメント】
紙や糸くずなどを素材に大,小,様々な立体物 をつくります。
気になる素材を手に取り,手触りを確かめたり, 光にあてて眺めたり。手の中で遊ぶように始まる作品制作の主な技法は,編む,折る,ねじる,縫う等,生活に親しみにある手の技法です。
積み重なり,繰り返されるだけでふつふつと沸くおかしみのような色や形を期待して,手を動かします。
無理矢理ではない「へー」とか「ほー」とか「きれい」とか「なんでー」の形を見たいのです。
何かを表すためでも,考えるためでも無い色や形の結実がポンと置かれると,空間がすっと広がってのびやかになる。
そんなことになればいいなと思います。春を楽しみに,こつこつと冬を過ごします。

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊ですが、4月15日(金)~24日(日)「中村潤展 うろうろをへて こつこつのはて」は会期中無休です。