杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第83回

台木のような空間


Img01
「古いものと新しいものをどうやって紡いでいくことができるだろうか」ということを最近考えています。

目の前にあるものがまるで骨董品のように保存すべき、愛でるべき対象である場合には、割と簡単な問いかけに聞こえるけれど、対象が中途半端に古かったり、個人的にちょっとしたノスタルジーを思い起こさせるものあればあるほど、一体どう扱っていいのか宙ぶらりんになってしまいます。

仮にそれなりに値段の張るものが壊れてしまった場合、修理に出すよりも似たものを新しく買い替えてしまった方が結果的に安く、早く手元にやってくる現状がある。そうしていつからか、そのものへの愛着や尊敬みたいなものが剥がされてしまったんじゃないか。と自分の行動を振り返って思うことがあります。

値段の高いものは大切にする。思い出の品はそっとしまっておく。その判断から外れたものも同じような気持ちで扱うことができたとしたら、一体どういう風に世の中が見えてくるのだろう、と。

古いものに新しいものをアクセントとして加える。というのではなく、古いと新しいの二項対立の問題にしてしまうのではなく、今あるものをどれだけ残して新しいものに置き換えるのか。
その判断を今よりも少しだけ曖昧にして、何でもないものも修復する手間を許す。

手間をかけ積み上げていった時間を、出来上がったものの中で声高に表現するのではなく、むしろ当たり前の風景の一部にする。もっと建築空間を弱く、生活の背景にしていくことができるのではないか。

結果的にできあがる空間は、全てのものと一体化して見えてくる。接木の台木のようにいつもそこにあって、次の穂木を待ってるんだと思う。

(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントーにて研修、2021年まで同アトリエ勤務。
2021年秋からスイス連邦工科大学デザインアシスタント。建築設計事務所atelier tsu。
2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展 スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

杉山幸一郎作品のご紹介
杉山幸一郎 Museum 01杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
"Museum 01"
2019年
MDF、アルミ
55.0x18.0x25.0cm
Ed.1
サインあり
制作は家具職人Serge Borgmannと協働
Photo © Serge Borgmann & Koichiro Sugiyama
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

◆「春の小展示/松本竣介と駒井哲郎
会期:2023年2月15日(水)~2月25日(土)*日・月・祝日休廊
松本竣介と駒井哲郎展1280

松本竣介と駒井哲郎展_宛名面1280

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊