千葉市美術館「『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄」展レビュー 後編

土渕信彦


 7階の第2会場に入り(図22)、手前の右側に「日常を撮ること」として、私家版写真集『日々』など、1960年代後半から70年にかけての写真が展示されています(図23)。多木浩二は「あまりにも素朴であり『牙のない若者たち』である」と評したそうで、牛腸が手帳に遺していたという反論も、パネルに紹介されています。

図22
図22
図23
図23

 奥の正面に写真集『SELF AND OTHERS』、左手には同『見慣れた街のなかで』の作品が展示されています(図24,25)。いままでも何点か断片的に拝見したことがありますが、これだけの点数を目にするのは初めてです。

図24
図24
図25
図25

 左手手前は「紙上に浮かび上がるかたち―牛腸茂雄と瀧口修造」のコーナーで、牛腸のインクプロットと瀧口のデカルコマニーが展示されています。インクプロットとは、紙の上にインクを落とし、紙を二つ折りにしてできる左右対称の不定形な図形のことで、桑沢デザイン研究所時代に課題として牛腸が制作したもの(図26)。デカルコマニーは、富山県美術館蔵の連作100点「私の心臓は時を刻む」から第1部が紹介されています(図27)。

図26
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図27
図27

 10年ほど前でしたか、東京国立近代美術館で牛腸のインクプロットを拝見したことがあり、解説パネルで瀧口に対する牛腸の敬意について触れられていたと記憶していますが、今ひとつ腑に落ちませんでした。この展覧会を通じ、瀧口、阿部、大辻、牛腸という系譜を知ることができて、ようやく理解できたような気がします。

 以上、駆け足でご紹介しましたが、たいへん展示点数の多い、充実した展覧会です。千葉市美術館の後、富山県美術館、新潟市美術館、松濤美術館に巡回するようですが、千葉市美術館では常設展示室に、実験工房の山口勝弘、北代省三、福島秀子らの素晴らしい作品も展示されています(図28,29,30)。本展と併せて是非ご覧になるようお勧めします。

図28
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図29
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図30
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(つちぶち のぶひこ)

『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄
主催・会場:千葉市美術館
会期:2023年4月8日(土)~5月21日(日)