小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第64回
⚪︎月⚪︎日
東京の古書組合には現在会館が神保町の本部会館以外に、北部、西部、南部の3つがある。現在停止中の北部を除き、会館では、組合員のための業者市のようなものと、週末に開催される一般のお客さんを入れる会館展と言われる古書市が行われる。
この会館展のひとつ、南部会館で行われる五反田遊古会にゲスト参加してきた。
会館展というと、なんというか、古書の猛者たちがせめぎ合う、というイメージだったが、意外や意外、目黒や自由が丘を抱えた南部という土地柄なのか、若い方の参加も目立った。しかも、みなさん本を買っていく。
かねてより古本屋=ヒントマーケットという説を唱えている私としては「うれしい!」となった。
会館展の良さの一つは、参加店のそれぞれ本を持ち寄ってひとつの売場を作るので、本当にさまざまな本に出会えることだと思う。しかも、これが店ならある程度ジャンルわけされたり、何らかの規則があるものだが、会館展はその要素が、皆無とは言えないまでも、かなり薄まっている。だからこそ、さまざまな本を見ているうちに、自然と何かのヒントを拾い上げてしまうのだ。
願わくば、会館展から店へ、ネットへ、目録へ、その環流が起こって欲しいと思う。

⚪︎月⚪︎日
太郎次郎社さんのウェブサイトで、恥ずかしながら、わたしの連載が始まった。
まだ開業前の7年前、浅草のファミレスで編集の尹さんから依頼された原稿を、全く進めない私に業をにやして、強制的に始まったとも言える連載。
書いている時に常に頭にあるのは『本を売る技術』(本の雑誌社)の著作もある矢部さんの言葉。
「書店の未来?そんなものは今日バックヤードでブックトラックを引いている彼らに聞け。」
そんな「彼ら」が読んでくれればいいな、と思います。
⚪︎月⚪︎日
この二ヶ月間で印象に残っている読書は『多数派の専横を防ぐ 意思決定理論とEBPM』という本だ。ちゃんと理解できているのかわからないけれど、本書では「医療」と「公共政策」のまったく異なるように思える分野で、どのように意思決定を行なっていくか?という点で非常に似通った問題が提起される。医療は、例えば治療法を決めるにしても、たしかにエビデンスが重要なのだけれど、もちろんそれだけで患者や家族の意思決定が行われるわけではない。様々な感情や思惑が入り乱れるからこそ、それをエビデンスだけでねじ伏せることはできないのだ。そしてそのような局面は、公共の場でも多く発生する。では、その時に大事なのはなんなのか?
それが非常に丁寧にかつスリリングに書かれている。
結局は「個々人のリテラシーをどのように上げていくか」に向かっていくわけだが、時代としてはだんだんと力のあるものの専横が許されて、逆にないものは先鋭化していくような日々に、熟議とリテラシーをあげるという、一見まどろっこしい作業の大切さを、ずしんと感じた一冊だった。
(おくに たかし)
●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は隔月、奇数月5日の更新です。次回は9月5日です。どうぞお楽しみに。
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
⚪︎月⚪︎日
東京の古書組合には現在会館が神保町の本部会館以外に、北部、西部、南部の3つがある。現在停止中の北部を除き、会館では、組合員のための業者市のようなものと、週末に開催される一般のお客さんを入れる会館展と言われる古書市が行われる。
この会館展のひとつ、南部会館で行われる五反田遊古会にゲスト参加してきた。
会館展というと、なんというか、古書の猛者たちがせめぎ合う、というイメージだったが、意外や意外、目黒や自由が丘を抱えた南部という土地柄なのか、若い方の参加も目立った。しかも、みなさん本を買っていく。
かねてより古本屋=ヒントマーケットという説を唱えている私としては「うれしい!」となった。
会館展の良さの一つは、参加店のそれぞれ本を持ち寄ってひとつの売場を作るので、本当にさまざまな本に出会えることだと思う。しかも、これが店ならある程度ジャンルわけされたり、何らかの規則があるものだが、会館展はその要素が、皆無とは言えないまでも、かなり薄まっている。だからこそ、さまざまな本を見ているうちに、自然と何かのヒントを拾い上げてしまうのだ。
願わくば、会館展から店へ、ネットへ、目録へ、その環流が起こって欲しいと思う。

⚪︎月⚪︎日
太郎次郎社さんのウェブサイトで、恥ずかしながら、わたしの連載が始まった。
まだ開業前の7年前、浅草のファミレスで編集の尹さんから依頼された原稿を、全く進めない私に業をにやして、強制的に始まったとも言える連載。
書いている時に常に頭にあるのは『本を売る技術』(本の雑誌社)の著作もある矢部さんの言葉。
「書店の未来?そんなものは今日バックヤードでブックトラックを引いている彼らに聞け。」
そんな「彼ら」が読んでくれればいいな、と思います。
⚪︎月⚪︎日
この二ヶ月間で印象に残っている読書は『多数派の専横を防ぐ 意思決定理論とEBPM』という本だ。ちゃんと理解できているのかわからないけれど、本書では「医療」と「公共政策」のまったく異なるように思える分野で、どのように意思決定を行なっていくか?という点で非常に似通った問題が提起される。医療は、例えば治療法を決めるにしても、たしかにエビデンスが重要なのだけれど、もちろんそれだけで患者や家族の意思決定が行われるわけではない。様々な感情や思惑が入り乱れるからこそ、それをエビデンスだけでねじ伏せることはできないのだ。そしてそのような局面は、公共の場でも多く発生する。では、その時に大事なのはなんなのか?
それが非常に丁寧にかつスリリングに書かれている。
結局は「個々人のリテラシーをどのように上げていくか」に向かっていくわけだが、時代としてはだんだんと力のあるものの専横が許されて、逆にないものは先鋭化していくような日々に、熟議とリテラシーをあげるという、一見まどろっこしい作業の大切さを、ずしんと感じた一冊だった。
(おくに たかし)
●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は隔月、奇数月5日の更新です。次回は9月5日です。どうぞお楽しみに。
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
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