杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第92回

環境を受け入れる建物


02

僕の住んでいるクールの街は、11月に入ると風がひんやりと冷たくて、朝起きて窓を開けるともう秋を通り越して冬の空気と匂いがします。寒いけれども、身体が引き締まるような心地良い清々しさです。

街は山とその木々に囲まれているので、朝霧のかかった深い緑の間から、赤や黄色の迷彩模様が現れてきました。部分的な見え方だけではなく、街全体の印象までもがガラッと変わって、突然違う世界に来てしまったようです。

img01

今月の3日から明日の11日までときの忘れもので開催されている企画展に参加しています。僕は、与えられたテーマ、牧野富太郎さんの仕事からインスピレーションを受けて制作したドローイングと小さなオブジェを展示します。

東京に住んでいた時に感じていた自然は、外から捕まえてきたり、取り込んできたりする、どちらかというと意識して自分の周りに持ってこないといけないものでしたが、ここスイスでは僕たち人間が完全にマイノリティで、自然の中で尊敬の気持ちをもって、その恩恵を享受しながら生活しています。

地球温暖化で数十年後にはスイスも今のインドの気候のようになる。そんな誰かの憶測を耳にしながら、過酷にもなりうる自然から環境的に切り離された建物を設計し、その中で完結する空調システムをつくるのが正解なのか。快適な住環境というシェルターの中で暮らすことが僕たちの目指すべき持続可能であるのか?

それともオープンなシステム、つまり場所の気候環境(それがいつも快適なものであるとは限らないけれども)とうまく折り合いをつけながら、素朴で自然に歩み寄った建物を作っていくのか?

そんなことを考えながら描いています。ぜひ足を運んでいただければと思います。
(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
Land & Water Relief 01-aLand & Water Relief 01-b杉山幸一郎 "Land & Water Relief 01" 
2023年 リサイクルプラスチック、ワックス 
9.8x11.3x2.cm サインあり

IMG_7615杉山幸一郎 "Land & Water 11" 
2023年 水彩 
42.0x29.7cm  サインあり

IMG_7633杉山幸一郎 "Land & Water 12" 
2023年 水彩 
29.7x21.0cm サインあり

IMG_7627杉山幸一郎 "Land & Water 14" 
2023年 水彩 
29.7x21.0cm サインあり

IMG_7621杉山幸一郎 "Land & Water 15" 
2023年 水彩 
42.0x29.7cm サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
photo (2)