杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第94回

ワークショップ

新年明けましておめでとうございます。

昨年は大変多くの方々にお世話になりました。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。



このエッセイを綴っているのは2023年の暮れも近づいてきた頃。少しだけ一年を振り返っている最中です。僕は2022年に独立して事務所を作って、スイスと日本の両方で活動し始めたのですが、そのぶん二倍の雑務があり、仕事を進めていくリズムもうまく掴めずにフラストレーションがありました。そんな中、二年目の今年は少しずつなんとか形になりつつあるという実感を得ることができた一年でした。

昨日できなかったことを明日はできるようにしていこう。一日ひとつ新しいことにチャレンジしていこう。そう目標を定めて、何かを成し遂げるための大きな目標ではなく、一日少しずつ積み重ねていける小さな目標から設定していくことにしました。実際には、日々の生活は繰り返しの部分が大半で、新しいことを見つけて試すことすら難しい時もありました。どんなことができていたのかはわからないけれど、ふと振り返ったときに何か大きなものになっていて欲しいと思いながら生活していました。

独立してからずっとやりたかったことのひとつは、オフィス内に工房を作ることでした。

以前勤めていたピーターズントー事務所では、工房が設計プロセスの中心にあって、素材を確かめながら、手探りで形を作り、そこに具体的なスケール(寸法)や意味を与えながら、一つ一つの空間を設計し、建築全体を作り上げていく。結果、必然的に身体的な感覚が設計に埋め込まれていました。それは同時に、論理的に説明することが難しいものであったとも言えます。

また、そうした仕事の仕方は時間も材料費もかかり、大きな作業スペースも必要なので、新しく始める僕にとっては、どうしても初期投資には見合わないものでした。

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そんな工房なしで始めた事務所だから、仕事の仕方とアウトプットのクオリティがうまく合ってこないことに苛立ちすら感じていた時もあったけれど、まずは自宅の地下に、そして次はオフィスのニッチスペースに少しずつ工具を買い揃え、他の事務所と共有しながら、少しだけ工房らしくなってきました。

まだ頭の中に思い描いているものには敵わないけれど、心躍るものがある。来年はプロジェクトを増やし、スペースをどうにか拡大しながら、アトリエをダイナミックな軌道に乗せていきたいと考えています。
(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●本日のお勧めは杉山幸一郎です。
sugiyama-92≪Land & Water 12≫
2023
紙に水彩
29.7x21.0cm
Signed
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●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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