静岡のバー「CoMbLe」での連続トークイベントの第3回に参加しましたので、ご報告致します。
2024年2月4日(日)
「倉俣史朗と静岡 プレ企画」第3回「倉俣史朗のショップ・インテリア」
講師:橋本啓子(近畿大学建築学部准教授)


私はこれまでに、大学で倉俣史朗のデザインを学んだり、ときの忘れもののアートフェアや画廊の展示で倉俣作品を見たりしてきました。しかし、今回のように倉俣史朗のデザインした空間に身を浸したのは初めてです。現存する倉俣史朗デザインの空間は少ないため、今回の体験は非常に貴重なものだと感じました。
バーCoMbLeは、静岡の街角にある小さな建物の2階にあります。建物の外側に特に看板はなく、初めは見落としてしまいそうになりました。

2階へ向かう階段には、2つの看板があります。バーの名前やロゴも、倉俣史朗が決定しデザインしたのだそうです。ロゴのデザインはシンプルですが、ローマ字の大文字と小文字の組み合わせが、ささやかな楽しさと活力をもたらしています。



CoMbLeは想像していたよりもコンパクトな場所でした。空間の左右にはガラスがあり、厚い木製のドアが一つ配置されています。ガラスにはロゴが貼られていますが、そのほかには特に入口を示す標識がないので、初めてこの場所を訪れた自分は入口を見つけるのに苦労しました。

入り口を入ってすぐの場所には、Oba-Qランプが置かれていました。

縦長の空間には、奥行きのあるアーチ型の天井があり、まるでSF世界のタイムトンネルに入ったかのような感覚になりました。

室内空間に別の天井を構築するデザインはあまり一般的ではありませんし、特にこのような形状のアーチ型天井はめったに見られません。この非常に大胆なデザインは、空間全体に新鮮な雰囲気をもたらしています。


空間内でもう一つ目を引くのは、ピンク色の波型の壁です。その色合いと金属感は、倉俣史朗の過去のデザインを彷彿とさせるものでした。

この壁には2つの白いくぼみがあり、大きな食器棚と倉俣史朗デザインの花瓶が飾られた台があります。食器棚の前には、鮮やかな黄色のプラスチック製のバーカウンターが。



倉俣史朗は、ドアや入口に対して非常に特別な姿勢を持っていたのかもしれないと感じました。重厚で丈夫な木製のドアと透明なガラスの組み合わせもさることながら、収納室のドアも、周囲の壁と同じ素材を使いつつ、巨大なS字形のデザインによってその存在を際立たせています。トイレのドアでは、同様のアプローチがさらに誇張されているようでした。壁から突き出た扇面は、銀色と周囲のピンクとの強烈なコントラストを生み出しています。曲面は平面を破るために、異なる色は個人と公共の機能を区別するために、それぞれ用いられているのでしょうか。やはり倉俣史朗にとってドアは重要な要素であるように思います。


また、床にはLEDがたくさん埋め込まれていました。形状は大体3種類です。



CoMbLeには多くの視覚的な装飾が施されており、まるでグラフィックデザインのような面白さも感じました。さまざまな視覚的要素が互いに呼応し合い、自由に組み合わさり、マッチングしているのです。



透明な椅子の背もたれと三脚の椅子。

飛行機の中にあるような独特の形状のトイレ。中には横尾忠則がデザインした「倉俣史朗の世界」のポスターが掛かっています。



今回のイベントでは、近畿大学の橋本啓子先生を講師に迎え、倉俣史朗氏の静岡での仕事を中心にインテリアデザインに関するトークが行われました。

また、倉俣史朗の静岡での仕事をまとめたアーカイブ展のプレ企画として、静岡市美術館のエントランスホールではパネル展示も行われており、そこには倉俣史朗が静岡で手がけた15店舗のリストと写真が展示されていました。


倉俣史朗が静岡に深い縁を感じているのは、沼津にいる親戚の農家に預けられた経験が一因である可能性があります。1991年の書籍『未現像の風景』の半分以上が静岡に関連する内容であることからも、この地域との強い結びつきが見て取れます。また、静岡には彼の仕事を記憶している人々がおり、例えば過去に倉俣史朗作品の制作に関与した女性は、今も木工場に勤務しているそうです。
倉俣史朗は株式会社三愛に所属していた際、レンダリングの仕事も行っており、グラフィックデザインにも親しみを持っていたといいます。特に《タカラ堂》のプロジェクトでは、天井から吊るされたグラフィックが特徴的でした。彼は長友啓典氏と黒田征太郎氏の事務所であるK2とも関係が深く、長い交友関係を持っています。
《ティールーム・アンカー》では、オーナーの船好きを反映して船をテーマに取り入れ、船舶照明を含むキャビンの要素が取り入れられたのだそうです。壁に世界地図を貼るなど、余計な装飾を排除したシンプルなデザインが特徴的でした。
倉俣氏がデザインした《トンボヤ》の天井には、宇野亞喜良のグラフィックが。オーナーが倉俣の考えをよく理解していたからこそ、そうしたチャレンジが可能になったのだそうです。《スナック田園》、《ティールーム・アンカー》、《トンボヤ》の天井にもし宇野亞喜良の絵がなければ、それらはただの北欧風な空間になっていたでしょう。
倉俣史朗は常に違和感を取り入れることを重視しており、例えば《サパークラブ・カッサドール》では、壁に描かれた影によって違和感を演出しました。この壁を高松次郎が描いたきっかけは、東京画廊での高松次郎展だったのだそう。
また、透明なショーケースに顕著なように、1970年代頃からのデザインには浮遊、光、表情というキーワードがあります。1970年代には浮遊からミニマルなデザインに移行し、白だけの空間をデザインするなどの試みが行われました。倉俣史朗は嗅覚も大切にしており、作品を通じて昔の記憶を呼び起こすことを目指していたといいます。
倉俣史朗がさまざまな場所でデザインした空間の多くを、初めに試作したという静岡。静岡は彼にとってデザインの試験場であり、一瞬を永遠に変えるような体験を提供する原点の土地なのかもしれません。
静岡市を訪れたのは今回が初めてでしたが、またゆっくりとコンブレの空間を体験し、静岡市に倉俣史朗が残した跡を見つけに行きたいと思います。

●本日のお勧め作品は倉俣史朗の名作"Cabinet de Curiosite(カビネ・ド・キュリオジテ)"です。
倉俣史朗
"Cabinet de Curiosite(カビネ・ド・キュリオジテ)"
1989年(1989~2014年製造)
アクリル
46.0×46.0×190.0cm
Ed.40
*倉俣美恵子夫人の証明書付
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●『倉俣史朗 カイエ4集』の予約受付を開始しました。
特別価格での予約受付は5/31まで。
〇A版 シルクスクリーン 10点組/44万円
予約特別価格:35万円(税込)
〇B版 《68.ミス ブランチ(1988)》入り11点組/55万円
予約特別価格:45万円(税込)
監修:倉俣美恵子、植田実(住まいの図書館出版局編集長)
製作 2024年
技法 シルクスクリーン
用紙 ベランアルシュ紙
用紙サイズ 37.5×48.0cm
刷り:石田了一工房・石田了一
たとう製作 小林薫
発行 ときの忘れもの
*詳細については、2024年3月8日ブログをご参照ください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
2024年2月4日(日)
「倉俣史朗と静岡 プレ企画」第3回「倉俣史朗のショップ・インテリア」
講師:橋本啓子(近畿大学建築学部准教授)


私はこれまでに、大学で倉俣史朗のデザインを学んだり、ときの忘れもののアートフェアや画廊の展示で倉俣作品を見たりしてきました。しかし、今回のように倉俣史朗のデザインした空間に身を浸したのは初めてです。現存する倉俣史朗デザインの空間は少ないため、今回の体験は非常に貴重なものだと感じました。
バーCoMbLeは、静岡の街角にある小さな建物の2階にあります。建物の外側に特に看板はなく、初めは見落としてしまいそうになりました。

2階へ向かう階段には、2つの看板があります。バーの名前やロゴも、倉俣史朗が決定しデザインしたのだそうです。ロゴのデザインはシンプルですが、ローマ字の大文字と小文字の組み合わせが、ささやかな楽しさと活力をもたらしています。



CoMbLeは想像していたよりもコンパクトな場所でした。空間の左右にはガラスがあり、厚い木製のドアが一つ配置されています。ガラスにはロゴが貼られていますが、そのほかには特に入口を示す標識がないので、初めてこの場所を訪れた自分は入口を見つけるのに苦労しました。

入り口を入ってすぐの場所には、Oba-Qランプが置かれていました。

縦長の空間には、奥行きのあるアーチ型の天井があり、まるでSF世界のタイムトンネルに入ったかのような感覚になりました。

室内空間に別の天井を構築するデザインはあまり一般的ではありませんし、特にこのような形状のアーチ型天井はめったに見られません。この非常に大胆なデザインは、空間全体に新鮮な雰囲気をもたらしています。


空間内でもう一つ目を引くのは、ピンク色の波型の壁です。その色合いと金属感は、倉俣史朗の過去のデザインを彷彿とさせるものでした。

この壁には2つの白いくぼみがあり、大きな食器棚と倉俣史朗デザインの花瓶が飾られた台があります。食器棚の前には、鮮やかな黄色のプラスチック製のバーカウンターが。



倉俣史朗は、ドアや入口に対して非常に特別な姿勢を持っていたのかもしれないと感じました。重厚で丈夫な木製のドアと透明なガラスの組み合わせもさることながら、収納室のドアも、周囲の壁と同じ素材を使いつつ、巨大なS字形のデザインによってその存在を際立たせています。トイレのドアでは、同様のアプローチがさらに誇張されているようでした。壁から突き出た扇面は、銀色と周囲のピンクとの強烈なコントラストを生み出しています。曲面は平面を破るために、異なる色は個人と公共の機能を区別するために、それぞれ用いられているのでしょうか。やはり倉俣史朗にとってドアは重要な要素であるように思います。


また、床にはLEDがたくさん埋め込まれていました。形状は大体3種類です。



CoMbLeには多くの視覚的な装飾が施されており、まるでグラフィックデザインのような面白さも感じました。さまざまな視覚的要素が互いに呼応し合い、自由に組み合わさり、マッチングしているのです。



透明な椅子の背もたれと三脚の椅子。

飛行機の中にあるような独特の形状のトイレ。中には横尾忠則がデザインした「倉俣史朗の世界」のポスターが掛かっています。



今回のイベントでは、近畿大学の橋本啓子先生を講師に迎え、倉俣史朗氏の静岡での仕事を中心にインテリアデザインに関するトークが行われました。

また、倉俣史朗の静岡での仕事をまとめたアーカイブ展のプレ企画として、静岡市美術館のエントランスホールではパネル展示も行われており、そこには倉俣史朗が静岡で手がけた15店舗のリストと写真が展示されていました。


倉俣史朗が静岡に深い縁を感じているのは、沼津にいる親戚の農家に預けられた経験が一因である可能性があります。1991年の書籍『未現像の風景』の半分以上が静岡に関連する内容であることからも、この地域との強い結びつきが見て取れます。また、静岡には彼の仕事を記憶している人々がおり、例えば過去に倉俣史朗作品の制作に関与した女性は、今も木工場に勤務しているそうです。
倉俣史朗は株式会社三愛に所属していた際、レンダリングの仕事も行っており、グラフィックデザインにも親しみを持っていたといいます。特に《タカラ堂》のプロジェクトでは、天井から吊るされたグラフィックが特徴的でした。彼は長友啓典氏と黒田征太郎氏の事務所であるK2とも関係が深く、長い交友関係を持っています。
《ティールーム・アンカー》では、オーナーの船好きを反映して船をテーマに取り入れ、船舶照明を含むキャビンの要素が取り入れられたのだそうです。壁に世界地図を貼るなど、余計な装飾を排除したシンプルなデザインが特徴的でした。
倉俣氏がデザインした《トンボヤ》の天井には、宇野亞喜良のグラフィックが。オーナーが倉俣の考えをよく理解していたからこそ、そうしたチャレンジが可能になったのだそうです。《スナック田園》、《ティールーム・アンカー》、《トンボヤ》の天井にもし宇野亞喜良の絵がなければ、それらはただの北欧風な空間になっていたでしょう。
倉俣史朗は常に違和感を取り入れることを重視しており、例えば《サパークラブ・カッサドール》では、壁に描かれた影によって違和感を演出しました。この壁を高松次郎が描いたきっかけは、東京画廊での高松次郎展だったのだそう。
また、透明なショーケースに顕著なように、1970年代頃からのデザインには浮遊、光、表情というキーワードがあります。1970年代には浮遊からミニマルなデザインに移行し、白だけの空間をデザインするなどの試みが行われました。倉俣史朗は嗅覚も大切にしており、作品を通じて昔の記憶を呼び起こすことを目指していたといいます。
倉俣史朗がさまざまな場所でデザインした空間の多くを、初めに試作したという静岡。静岡は彼にとってデザインの試験場であり、一瞬を永遠に変えるような体験を提供する原点の土地なのかもしれません。
静岡市を訪れたのは今回が初めてでしたが、またゆっくりとコンブレの空間を体験し、静岡市に倉俣史朗が残した跡を見つけに行きたいと思います。

●本日のお勧め作品は倉俣史朗の名作"Cabinet de Curiosite(カビネ・ド・キュリオジテ)"です。
倉俣史朗"Cabinet de Curiosite(カビネ・ド・キュリオジテ)"
1989年(1989~2014年製造)
アクリル
46.0×46.0×190.0cm
Ed.40
*倉俣美恵子夫人の証明書付
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●『倉俣史朗 カイエ4集』の予約受付を開始しました。
特別価格での予約受付は5/31まで。〇A版 シルクスクリーン 10点組/44万円
予約特別価格:35万円(税込)
〇B版 《68.ミス ブランチ(1988)》入り11点組/55万円
予約特別価格:45万円(税込)
監修:倉俣美恵子、植田実(住まいの図書館出版局編集長)
製作 2024年技法 シルクスクリーン
用紙 ベランアルシュ紙
用紙サイズ 37.5×48.0cm
刷り:石田了一工房・石田了一
たとう製作 小林薫
発行 ときの忘れもの
*詳細については、2024年3月8日ブログをご参照ください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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