三上豊「今昔画廊巡り」
第13回 ギャラリー葉
1984年2月某日、ギャラリー葉のある2階からの階段を降りると美術評論家の北澤憲昭氏に出会った。「どうだった」と聞かれ、「なんか黒い円柱が並んでて、その上に水があって、それほどのもんではなかった」と言うと、「え、遠藤だぜ」と返され、絶句したことがある。なぜこのエピソードを覚えているかというと、その遠藤利克作品は、後々図版や美術館などで何回も見ることになったからだ。私の作品を見る目がない一幕である。
ギャラリー葉は、望月良枝さんが子育ても一息つき、絵画教室に通っていたとき、銀座に閉じられる画廊があるが後をやらないかといわれ、なんとなく始めた画廊だそうだ。1980年1月21日から、開廊記念3人展を木村一生、田賀亮三、渡辺豊重で行っている。場所は銀座1丁目6の7、壁面は28メートル。84年からは、港区南青山2丁目2の15の103、ウイン青山1階に移転する。こちらの壁面は16メートル。銀座時代には近くにルナミ画廊などがあり、後にオーストラリア現代美術展などを共催していく、というか巻き込まれていったのだろう。開廊当初の発表にはちょっと年配の作家名が多かったが、しだいに若手が中心になっていく。かつて展覧会記録冊子『ギャラリー葉1980-1988』(2012年)を作成したことがあり、そこに記載された作家名を見ていくと、80年代に台頭してくるパワーを感じる。先の遠藤をはじめ、海老塚耕一、佐々木悦弘、芝章文、蓮池純治、今井瑾郎、奈良部泰三、安田奈緒子、紫牟田和俊、小山穂太郎らの名前があがってくる。インスタレーションの発表も増えて来る。ギャラリー葉が巻き込まれていく、いや積極的に絡んでいき事務局となった企画に「浜松野外美術展」がある。作家たちが主体的に声を掛け合った美術展だ。浜松の中田島砂丘に展示を試みるのだが、軟弱な構造だと風に吹き飛ばされてしまう。2回ほど見に行った記憶は「暑かった」ことだ。今井瑾郎、保科豊巳、戸谷成雄、辻耕二、武田康宏、中村ミナトら毎回10名ぐらいが参加、メンバーは固定されてなく、81年から87年までに6回開催されている。記録写真は2回展から写真家の山本糾が撮り、ギャラリーでは記録展が開催された。なお、展覧会記録資料は静岡市美術館の「浜松野外美術展アーカイヴ」で見ることができる。
ギャラリーに戻ろう。銀座の建物は変化が激しいなかでもまだ残っている。通りに面した2階には搬出入に使ったドアがまだあった。思い出せば1階の青汁を売るお店は近所の画廊のオーナーが二日酔いのためによく利用していた。青山のスペースはホンダ本社ビルの裏手にあたる。道路側のガラス壁面から展示風景が見られ、多くの作品が明るくなったような印象がある。また、熊谷優子、増田聡子、向井美恵、松井智恵ら女性作家も多くなったようだ。望月さんは今も「松井智恵の追っかけ」を自認している。振り返ると、ギャラリー葉は広い空間とはいえないが、コンパクトで作家にとって使いやすい場だったのではないか。その流れで80年代の実験的な発表を支えてきたと言えよう。ギャラリー葉は、青山のスペースを閉じたのち、88年7月から黒田悠子さんのギャラリー21と組み「ギャラリー21+葉」となり、銀座に戻る。現在は世田谷区等々力で「ギャラリー21yo-j」だが、そのあたりを語るには別の切り口が必要だ。



新空間の共有展リーフレット 1985年12月

2024年現在、銀座のギャラリー葉があった建物。

2024年現在、青山のギャラリー葉があった所。
(みかみ ゆたか)
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回更新は2024年6月28日です。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は、宮脇愛子です。
「Golden Egg(A)」
1982年 ブロンズ
H4.5×21×12cm
限定 50部
本体に刻サイン、共箱(箱にペンサイン)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●取り扱い作家たちの展覧会情報(5月ー6月)は5月1日ブログに掲載しました。
ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
第13回 ギャラリー葉
1984年2月某日、ギャラリー葉のある2階からの階段を降りると美術評論家の北澤憲昭氏に出会った。「どうだった」と聞かれ、「なんか黒い円柱が並んでて、その上に水があって、それほどのもんではなかった」と言うと、「え、遠藤だぜ」と返され、絶句したことがある。なぜこのエピソードを覚えているかというと、その遠藤利克作品は、後々図版や美術館などで何回も見ることになったからだ。私の作品を見る目がない一幕である。
ギャラリー葉は、望月良枝さんが子育ても一息つき、絵画教室に通っていたとき、銀座に閉じられる画廊があるが後をやらないかといわれ、なんとなく始めた画廊だそうだ。1980年1月21日から、開廊記念3人展を木村一生、田賀亮三、渡辺豊重で行っている。場所は銀座1丁目6の7、壁面は28メートル。84年からは、港区南青山2丁目2の15の103、ウイン青山1階に移転する。こちらの壁面は16メートル。銀座時代には近くにルナミ画廊などがあり、後にオーストラリア現代美術展などを共催していく、というか巻き込まれていったのだろう。開廊当初の発表にはちょっと年配の作家名が多かったが、しだいに若手が中心になっていく。かつて展覧会記録冊子『ギャラリー葉1980-1988』(2012年)を作成したことがあり、そこに記載された作家名を見ていくと、80年代に台頭してくるパワーを感じる。先の遠藤をはじめ、海老塚耕一、佐々木悦弘、芝章文、蓮池純治、今井瑾郎、奈良部泰三、安田奈緒子、紫牟田和俊、小山穂太郎らの名前があがってくる。インスタレーションの発表も増えて来る。ギャラリー葉が巻き込まれていく、いや積極的に絡んでいき事務局となった企画に「浜松野外美術展」がある。作家たちが主体的に声を掛け合った美術展だ。浜松の中田島砂丘に展示を試みるのだが、軟弱な構造だと風に吹き飛ばされてしまう。2回ほど見に行った記憶は「暑かった」ことだ。今井瑾郎、保科豊巳、戸谷成雄、辻耕二、武田康宏、中村ミナトら毎回10名ぐらいが参加、メンバーは固定されてなく、81年から87年までに6回開催されている。記録写真は2回展から写真家の山本糾が撮り、ギャラリーでは記録展が開催された。なお、展覧会記録資料は静岡市美術館の「浜松野外美術展アーカイヴ」で見ることができる。
ギャラリーに戻ろう。銀座の建物は変化が激しいなかでもまだ残っている。通りに面した2階には搬出入に使ったドアがまだあった。思い出せば1階の青汁を売るお店は近所の画廊のオーナーが二日酔いのためによく利用していた。青山のスペースはホンダ本社ビルの裏手にあたる。道路側のガラス壁面から展示風景が見られ、多くの作品が明るくなったような印象がある。また、熊谷優子、増田聡子、向井美恵、松井智恵ら女性作家も多くなったようだ。望月さんは今も「松井智恵の追っかけ」を自認している。振り返ると、ギャラリー葉は広い空間とはいえないが、コンパクトで作家にとって使いやすい場だったのではないか。その流れで80年代の実験的な発表を支えてきたと言えよう。ギャラリー葉は、青山のスペースを閉じたのち、88年7月から黒田悠子さんのギャラリー21と組み「ギャラリー21+葉」となり、銀座に戻る。現在は世田谷区等々力で「ギャラリー21yo-j」だが、そのあたりを語るには別の切り口が必要だ。



新空間の共有展リーフレット 1985年12月

2024年現在、銀座のギャラリー葉があった建物。

2024年現在、青山のギャラリー葉があった所。
(みかみ ゆたか)
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回更新は2024年6月28日です。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は、宮脇愛子です。
「Golden Egg(A)」1982年 ブロンズ
H4.5×21×12cm
限定 50部
本体に刻サイン、共箱(箱にペンサイン)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●取り扱い作家たちの展覧会情報(5月ー6月)は5月1日ブログに掲載しました。
ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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