新連載「刷り師・石田了一の仕事」第1回「工房訪問記その1」

4月某日、刷り師・石田了一さんの工房をスタッフM、スタッフMJ、スタッフIの3人で訪ねました。

<1974年以来、版元人生を歩んできましたが、その間、刷り師としては石田了一さんが最も縁が深い、盟友といってもいい。石田さんに刷っていただいた作品には、森義利、菅井汲、元永定正、関根伸夫、磯崎新、安藤忠雄、アンディ・ウォーホル、・・・etc., 名前を挙げたらきりがない。>

綿貫オーナーがそう綴る、ときの忘れものにとっての超重要人物、石田さん。担当された作品の数々はもちろんギャラリーで拝見していましたが、工房にお邪魔するのは3人とも初めて。ドキドキしながら都内某所へと向かうと、入り口で石田さんがお出迎えしてくれました。

以前は国立に自宅兼工房を構えていたそうですが、磯崎新の大作を刷るため、1990年の冬に現在の場所へと越したのだといいます。石田さんと、工房の「会長」大谷京子さんが働くワンフロアは、30年以上使われているとは思えないほど綺麗に整頓されていました。

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左から:大谷京子さん、石田了一さん。大谷さんは「階調刷りのご意見番」の意も込めてカイチョウと呼ばれているのだそう

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工房内の様子

巨大な版たちに囲まれながら、まずは石田さんが手掛けた作品について、技法のことや制作時のエピソードをうかがいました。草間彌生のキャンバスの大作は3人がかりで刷ったこと、1枚5部を刷るために50種類の版をつくったこと、《無限の網》(赤)は網目を盛り上がらせるため3回刷っていること。磯崎新<闇>シリーズの色については本人から「素焼きの瓦色」と指定があったこと、使用するインクを「ヤミクロ」と呼んでいること。熊谷守一作品は色づくりが難しく、何度も美術館に通って作品の色を確かめ、頭の中で色の引き算をしてどの色を混ぜればよいかを考えたこと……他にも安藤忠雄、脇田愛二郎、アンディ・ウォーホル、鶴田一郎、萩原朔美、町野好昭などの作品例を交え、さまざまな版画との関わりをご紹介いただきました。

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脇田愛二郎作品をのぞき込むスタッフたち

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石田工房で長年使われているカレンダーは「ヤミクロ」インクで刷ったものなのだとか

そこから話はさらに具体的に。倉俣史朗が遺したスケッチをシルクスクリーンにおこしたエディション「Cahier(カイエ)」を例として、作業の様子を見学させてもらいました。

カイエに使われているのはフランスのアルシュ紙。石田工房では刷る前に必ず1日紙を干して湿度をなじませ、干した日との湿度差が10%以内の日に刷りの作業に移るのだとか。

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日々の湿度のメモ

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石田さんによる若かりし頃の時間割

実際の刷りの工程では、大きな版を1/4サイズずつ使用しているといいます。版の下に紙をセットするという一見シンプルな工程のなかにも、コンマ以下での位置調整といった、細やかな職人技が光っていました。

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刷られた作品は乾燥台へ

ちなみに「カイエ」制作にあたっては、まず倉俣氏の原画をスキャンしてフォトショップで階調変換し、だいたい4パターンほどをプリントアウト。その中で1番きれいに見える線を版にするのだそう。カラフルな線が40本以上つらなる《テーブルと引き出しダンス》制作の過程では、1本1本の線それぞれにとってのベストな階調を探ったのだそう。35度刷りを実現するため、本刷りでは1か月ほどの時間を要したそうです。

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《テーブルと引き出しダンス》

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ベストな階調を探った跡

スケッチに使用された色鉛筆のうつくしい色味は、石田工房オリジナルのインクで再現されます。透明なメジウムに、1割にも満たない油絵の具を混ぜて色を作り、これを紙コップに入れて保管。カイエ用の色は前もって全色分を大量に作っておくのだとか。作ったインクは1年ほど取っておくそうです。

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何度も完成品を目にしていた「カイエ」ですが、1枚1枚ができあがるまでの工程を目の当たりにすると、いっそう愛着がわいてきます。大興奮しながらメモを取り続けていたら、あっという間に1.5時間ほどが経過。石田さん、大谷さんが用意してくだったお茶をいただき、小休憩をはさむことになりました。

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いただいたのは金印えんめい茶に漢方をいれた工房オリジナルブレンド

休憩時間には、石田さんと映画のお話に。イメージフォーラム社長の富山加津江さんと同じ高校に通っていた縁で、以前「アンダーグラウンドセンター」の映画ポスターを刷っていた石田さん。当時は刷りだけでなくデザインも担当しており、金井勝監督の映画「無人列島」ポスターもその一つなのだとか。

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工房内には2台の8mm映写機が

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70年代前半の映画上映会のチラシには、石田了一工房の広告が!「四帖半絹ずれ秘技シルクスクリーン」はロマンポルノの響きをもじっていたそう。2~3件問い合わせの電話があったけれど、どれも映画関係の工房だと勘違いしていたのだとか

この時点で既に満足感たっぷりの工房見学でしたが、このあと、思いがけない展開がスタッフたちを待ち受けていました。その様子は、7月3日更新の第2回「刷り師・石田了一の仕事」で詳しくお伝えします。

●新連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は2024年7月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。

●本日のお勧め作品はアンディ・ウォーホルです。
warhol_04_kiku-1"KIKU 1"
1983年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:50.0×66.0cm
シートサイズ:50.0×66.0cm
Ed.300
サインあり
※現代版画センター・エディション

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取り扱い作家たちの展覧会情報(5月ー6月)は5月1日ブログに掲載しました。
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ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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