杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第99回

グラウビュンデン州建築ツアー

ドイツのコーブルク大学(Coburg)の建築スタジオ一行が研修旅行でグラビュンデン州にやってきたので、二日間だけ案内することになりました。一日目はフリン(Vrin)へ向かい、ジョン・カミナダ(Gion Caminda)の建築を中心に、二日目はピーター・ズントーのベネディクト教会とピーター・メルクリのラ・クンジュンタ(彫刻の家)、建築に携わる人にとってはかなりのドリームツアーでした。

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村の体育館(Vrin)、設計事務所に隣接してある

フリンではカミナダさんのオフィスを訪れ、事務所内を歩きながらドローイングや模型を学生たちに説明していきました。設計事務所であるにも関わらず、人や動物のスナップショットが多く壁に貼り付けてあって、誌面から伺っていた職人的なイメージとは少し違う印象を受けました。

カミナダさんの事務所があるのは人口300人足らずの小さな村。そんな村の建築家がチューリッヒにあるスイス最高峰の大学で教えながら国内のプロジェクトを進め、日本でも雑誌やメディアを通してよく知られています。

一局集中ではない街の作られ方をしてきたスイスの村にとって、そこに住む建築家が世界的に活躍するのは、珍しくありません。ピーター・ズントーはハルデンシュタイン(Haldenstein)、ヴァレリオ・オルジアティはフリムス(Flims)、というようにグラウビュンデン州には小さな村を拠点にしている建築家が少なくありません。日本では、都市部に多くが集中して、ある村落に建築家が住んで活躍するというのは、まだ過渡期かもしれません。

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とある住宅(Vrin)

村を歩いていると、ヤギを見かけました。村の小さなカフェにいくと、年配の方々が集まって日常会話をしています。そんな風景を見ていく中で、事務所のスナップショットがなぜあったのか。その理由が少しわかってきた気がしました。

カミナダさんが設計した建築はフリンの村に多くあるのですが、それらは周りの建築と少しだけ違うだけで、一見するとなかなか区別が付きづらい。それは新しい建築が日常のコンテクストの上に建ち、既存の建築が築数百年という時間が積み重ねられてできているなかで、どう建てられるべきなのか?つまり、建築家がどう振る舞うかということが試された結果なのかもしれません。

(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
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2021年
水彩
21.0×14.8cm
サインあり
※展覧会カタログp.39掲載
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●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
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