三上豊「今昔画廊巡り」

第16回 フジテレビギャラリー


 都営新宿線曙橋駅を下車、あけぼのばし通りに入り、右手の急な階段を上ると左手にフジテレビが見えてくる。かつては。今では高層マンションが建ち、その高層階からは富士山が見えるのかと思う。1970年4月、フジテレビギャラリーはフジサンケイグループの企業ギャラリーとして、河田町7丁目、フジテレビの1階に開設された。壁面は70メートル。駐車場をもつギャラリーは珍しいが、車を降り、人々がギャラリーを通りスタジオなどに行くように動線をとるのは、作品に目を止めさせる仕掛けだった。

 初代社長は牧田喜義で後に池田20世紀美術館の館長を務める。経理担当の疋田昇の手腕も評価されていたが、私ら編集者に関係深いのは林紀一郎で、広報や作家折衝、社員教育などを担当し、後に新潟市美術館館長を務める。社員教育を受けたひとりに以前触れたお茶の水画廊の長谷川公男がいる。また、ギャラリー五辻の五辻通泰、スカイ ザ バスハウスの白石正美、タマダプロジェクツコーポレーションの玉田俊雄ら、業界で活躍する人々を輩出したギャラリーとしても知られている。また、社長を長く勤めた山本進の運営手腕も評価されていいのだろう。1990年には、ギャラリー20周年記念として2分冊の書籍を刊行している。展覧会記録集ではなく、取り扱った作品集であることが、このギャラリーらしく思えた。内容を見ていくと、国内のコレクターを応援する姿勢があり、高額な海外作品を扱うことがギャラリーの地位を高めることだとわかる。何千万、何億といった作品を扱う資本力がものをいう業界、また世界にでていく時代だった。その典型と言えるのが、子会社までつくり、89年11月の衛星オークションでのピカソの《ピエレットの婚礼》の取引だろう。日本のコレクターが当時3億フランで落札、しばらくしてコレクターの事業は倒産、作品は人々の目から消え、やがてテレビ番組「バブル美術館」に登場した。

 展覧会歴を見てみる。初期は欧米の巨匠の版画を扱い、日本人作家も成田禎介、北山泰斗、三宅輝夫ら団体展系の作家がめだつが、70年代末からは、難波田龍起、田淵安一、野田哲也靉嘔草間彌生岡本信治郎、清水九兵衛、中川直人、平沢淑子、横尾忠則、田窪恭治ら現代美術系の作家を扱うようになる。

 フジテレビギャラリーの特色といえるのが、画廊以外で国内外の企画展を年に数回行っている事業があるが、加えてメディアの発信がある。おそらく林紀一郎の発案だと思われるが、70年から80年までの月報の発行、縦長の月報は読み応えがあった。変わったところでは、中沢新一の『イヴ・クライン論』(1986)もある。

 玄関脇には井上武吉の彫刻が聳えていた。この作品を『美術手帖』に掲載したのが、83年2月号だった。「東京アートガイド」の特集で、肝心のギャラリーの紹介を怠り、五辻さんに怒られたことがあった。いまさらだが新宿地区担当は私ではなかったが、校正段階で気が付かなかった責任はある。1985年にギャラリーは河田町3丁目へ、テレビ局内の北側に移り、99年にはテレビ局本社が御台場に新築されると同時にギャラリーも本社ビル7階に移転、細江英公の写真展を見た記憶があるが、足の弁が悪く遠のいた。2006年には有楽町駅前の新有楽町ビル1階に移転してきている。最後に山本さんの姿を見たのがこの頃だったか。ここのギャラリーの閉廊年はいつだったか、記録が手元にない。いまでも御台場のフジテレビにはギャラリーがあるが、私にはなにか別のギャラリーとして見えてくる。

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井上武吉 電波は世界を変革する 1969年 フジテレビ前 『美術手帖』1983年2月号より

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現在の河田町 フジテレビ跡の高層マンション

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駐車券と地図 まだ都営地下鉄新宿線の曙橋駅がない

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月報の一部

(みかみ ゆたか)

■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。

・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回更新は2024年9月28日です。どうぞお楽しみに。

●本日のお勧め作品は難波田龍起です。
nambata_35_maboroshi《幻の館》
1978年
カラー銅版
21.0×12.0cm
Ed.75
サインあり
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●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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