新しい学校にて
2021年から勤めていたスイス連邦工科大学(ETH)での仕事を6月で終え、今月から新たにクールにあるFachhochschule Graubünden (グラウビュンデン州応用科学大学)で一年生を教えることになりました。ETHでも一年生を教えていたので内容に大きな違いはないのですが、教授の元でアトリエチューターとして生徒を教えていたのとは違い、僕と同僚の二人で設計スタジオを運営することになったので、課題を考えたり、スケジュールをオーガナイズしたりと自分たちで決められる権限と責任が増えることになりました。
スイスではいわゆる建築を教える連邦工科大学がドイツ語圏のチューリッヒにETH Zurich, フランス語圏のローザンヌにEPFLとあり、さらにイタリア語圏のメンドリジオにあるUSIなどの州立大学があります。その他に今回僕が教えることになった9つの公立の応用科学大学が各地域にあります。
ETHがほぼゼロからのスタートで建築を学ぶ人たちが集まっているのに対して、応用科学大学に建築を学びに来る学生たちは、職業訓練学校で既に何かしらの職業を経験していたり、建築事務所でインターンをしています。例えばドラフトマンとして、大工として、もしくは塗装工や石工として学んだ人。全く分野外のことを学び、第二の学問として建築を学びに来る人たちもいます。つまり、全員がどこかで何かしら働いたり学んだりした経験がないと、入学できないのです。
先日は一週間毎日課題を出す集中講座がありました。手を動かす速さは仕事に慣れているだけあってETHの学生よりも早く、前知識があるので飲み込みも早いなと感じました。逆に言えば、すでに知識と経験がある分だけ、アカデミックな話、抽象的な話よりも、実践的な解決策に長けていて、やや紋切り型な即答をしがちな印象を受けました。
ともあれ、それぞれがすでに持っているバックグラウンドを武器として、それをいかに生かしながら建築という新しいフィールドに立ち向かい、また自分のフィールド内に持ち込めるか。という感じなのかもしれないな。と学生と話しをしていて思いました。多分本人たちはそんなこと全く意識せずにただ課題に取り組んでいるだけかもしれないのですが。。(笑)
初めの課題は粘土でスケールのない空間を思考し、それを次のステップでカードボードに置き換えて変容させ、そして最後に寸法を与えて図面に落とし込む。ということをしました。
それらのスリーステップを並べて見ると、スタート地点はそっくりなのに、ステップを追うごとに異なるアイデアの芯みたいなものが取り出されてきて、最後は全く別のものになっている。
その過程を見ているだけでも、とてもワクワクしてきます。
(すぎやま こういちろう)
■杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。
・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
“Library 01”
2020年
スプルース材、ブナ材、アルミ
29.0×22.0×12.0cm
Ed.1
サインあり
制作は家具職人Serge Borgmannと協働
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*画廊亭主敬白
歳をとると若い世代の方から質問を受けることが増えてきました。ありがたいことですが、今月は初旬に某県立美術館の学芸員さんから内間安瑆先生について、中旬にはあるグループの皆さんから磯崎新先生について、そして下旬には某市立美術館の学芸員さんから駒井哲郎先生についてのインタビューを受ける予定です。いずれも亭主が親しく接したことがある作家たちですが、いつものような漫談ですますというわけにもいかず、昔の資料をひっくりかえして準備に大童です。
ボケ防止になるからいいんじゃないのと社長はおっしゃっていますが・・・ さてどうなることやら。
◆「銀塩写真の魅力Ⅸ」
会期:2025年10月8日~10月18日 ※日・月・祝日休廊
主催:ときの忘れもの
出品作家:福田勝治(1899-1991)、ウィン・バロック(1902-1975)、ロベール・ドアノー(1912-1994)、植田正治(1913-2000)、ボブ・ウィロビー(1927-2009)、奈良原一高(1931-2020)、細江英公(1933-2024)、平嶋彰彦(b. 1946)、百瀬恒彦(b. 1947)、大竹昭子(b. 1950)
*出品作品の展示風景及び概要はHPまたは10月4日ブログをご覧ください。
●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。






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