大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」第133回
歩道に長い行列ができている。
女性も男性もいるが、女性が圧倒的に多い。
みんなワンピースかスカート姿で、パンツルックはひとりもいない。
なんのための列だろうと思って見回すと、ショーウィンドウが目に入った。
看板文字はすべて英語で、こう書かれている。
WEEKLY NEWS PRESENTS
FOREIGNFILM BROADSHOW
映画の告知板である。
しかも書体がアメリカ風でここだけ見ると日本ではないようだ。
ウィンドウのなかには額入りのポスターとブロマイドが収まっている。
映画のタイトルは「Summertime」。
邦題はなんだっけ?と考えていたら、ライオンの左横に看板があるのが見つかった。
「旅情」である。それを見るためにみんな並んでいるのだ。
「旅情」という日本語は秋っぽく、夏とは無縁な感じだが、人々の服装を見れば夏である。
夏に見るにふさわしい内容なのだ。
キャサリーン・ヘップバーン演じる「オールドミス(死語)」が夏のバカンスにヴェニスにいく。
当時としては珍しい一人旅。現地の男性と淡い恋をする。
内容的にはカップルが好みそうだが、この列のなかにカップルはいるだろうか。
画面を拡大してひとりひとり見ていく。
先頭にいる学生帽をかぶった男とその仲間は通行人だろう。股が開いている。
そのうしろにひとりぽつんと立っている眼鏡の男性はなんだか気になる存在だ。
革鞄を横抱きにして、ウィンドウに片手をかけて立っているが、
女性に囲まれて居心地が悪いのか、我関せずという雰囲気がかえってわざとらしい。
すぐ後ろに同じ年格好の女性がいるが、連れではないだろう。
恋人かな?と思える人たちが見つかった。
後列の階段前の男女である。
男は丸めた紙を手にもち、にやけた顔で前をむいている。
髪をアップにした後にいる女性とカップルなのだろう。
車道に女性がふたりいるが、目をひくのは日傘の女性である。
もし彼女の姿がなかったら締まりのない写真になったと思えるほどの主役級。
画面にリズムと躍動感をもたらしている。
彼女まさに左足を車道に下ろしたところだ。
そのまままっすぐ歩道を進まなかったのは、電信柱があるせいだ。
日傘をさしているのでこれが邪魔になって余計に通りにくい。
彼女は動作が大きく、気が強そうだ。
ファッションも水玉模様のワンピース、チェックの楕円形のバッグ、格子柄の日傘、と隙がなく、
胸を張ってさっそうと列の後ろをめざす。
彼女もひとりで映画を見るのだろうか?
大竹昭子(おおたけ あきこ)
●作品情報
有楽町/ピカデリー劇場
1955年8月撮影
*写真集『GINZA|銀座』41頁所収作品
●作家情報
髙地 二郎(こうち じろう)1927–2010
写真愛好家。東京育ち。1950年明治大学卒業後、1990年までの40年間、銀座の天賞堂に勤務。カメラ、車、飛行機に興味を持ち、写真を撮る為のカメラを自作してしまうほどのカメラ小僧だった。多機種に及ぶ中古カメラを使い、中でもライカは延べ20機種以上を愛用した。
●写真集
『GINZA|銀座』
2025年8月11日 初版 第1刷 発行
著者 髙地 二郎
編集発行人 大田 通貴
ブックデザイン 加藤 勝也
企画・制作 髙地 治子
翻訳 ギャビン ガルサ
発行所 蒼穹舎
〒160-0022 東京都新宿区 新宿 1-3-5新進ビル3F
tel & fax: 03 3358 3974
印刷 ・製本 株式会社 サンエムカラー
定価 本体¥4,500+税
●大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」は隔月・偶数月1日の更新です。次回は12月1日更新の予定です。
●本連載の最初期の部分が単行本になった『迷走写真館へようこそ』(赤々舎)が発売中です。
赤々舎 2023年
H188mm×128mm 168P
価格:1,980円(税込) 梱包送料:250円
※ときの忘れものウェブサイトで販売しています。
◆「銀塩写真の魅力Ⅸ」
会期:2025年10月8日~10月18日
主催:ときの忘れもの
出品作家:福田勝治(1899-1991)、ウィン・バロック(1902-1975)、ロベール・ドアノー(1912-1994)、植田正治(1913-2000)、
ボブ・ウィロビー(1927-2009)、奈良原一高(1931-2020)、細江英公(1933-2024)、平嶋彰彦(b. 1946)、
百瀬恒彦(b. 1947)、大竹昭子(b. 1950)
●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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