書き始めて気がついた。
都庁コンペが、40年前(1986年)の2月だったのだ。
その顚末は、平松剛著「磯崎新の『都庁』 戦後日本最大のコンペ」文藝春秋(2008年サントリー学芸賞受賞)に詳しい。
コンペ提出のシルクスクリーン(大半が1200×800mm)の14種類の刷り作業の真っ只中、提出資料の表紙に刷り込むシンボルマークもカッティングしていた。
心鎮める時間などあったのだろうか? でも、呼吸を整え0,3ミリ幅でキメテヤロウとしたことは憶えている。

都庁コンペ資料表紙 カッティングしたスミ版のフィルム
スチールの定規は測るだけではなく、カッター刃のガイド役でもあり、時には、やすり(砥石)の代役にもなる。
昔々の替刃はしっかり〈鉄して〉いたが、だいぶ前からステンレス製の繊細なものに代わってしまった。その繊細さゆえに、刃先のめくれ(バリ)があったりして、刃が行きたい方向に逆らってしまうことがよくある。
そんな時は、使っているスチール定規の0,5ミリ刻みの目盛りの上をシュッ、シュッと滑らせて刃先を真っすぐに整える。お行儀よくオイルストーン(砥石)や紙やすり(耐水ペーパー)の登場を待つまでもなく、定規でシュッシュッ、いい塩梅だ。
そのシュッシュッで思い出すのが、床屋さんの皮砥のシュッシュッ。
あれも、剃刀の刃を整える顔剃り前のルーティンである。
最近、見なくなったが、古い映画の中でお目にかかった。
小津安二郎の『浮草』(主演・中村鴈治郎、京マチ子、カメラはあの宮川一夫)
床屋の娘にちょっかいを出した旅役者の男に母親が威嚇するように剃刀をシュッシュッする場面があった。
京マチ子といえば、1966年に勅使河原宏の『他人の顔』に出演。この映画のパンフレットには美術に前衛建築家 磯崎新とあった。
金属がこすれ合うシャッシャッもある。
お肉屋さんの主人が持ち出す剣のような研ぎ棒。寄らば斬るぞの二刀流のようだ。
子供の頃お使いに行った精肉店は、正面のガラスケースの左右の壁が合わせ鏡になっていて、左に私々々々々々々々々々々々々々、
右を見ても私々々々々々々々々々々々々々、
田舎の街のワンダーランドだった。

スミ版と△〇□の色版のフィルム2枚を重ねた状態
〇は金、△は銀、□は赤で刷ると4色刷りのマークとなる。
前述の「磯崎新の『都庁』戦後日本最大のコンペ」の扉にも小さくカラーで印刷されている。
注意深く見ないと極薄色の方形のベタがあるのに気づかない。

(いしだ りょういち)
■石田了一(いしだ りょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、菅井汲、関根伸夫、田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。
●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は2026年3月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。
◆松本竣介と舟越保武
2026年2月6日(金)~2月21日(土)11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
洋画家・松本竣介と彫刻家・舟越保武の二人展を開催します。 1912年生まれの二人は、岩手県立盛岡中学(現在の県立盛岡第一高等学校)の同級生で、ともに絵画俱楽部に所属し、終生の友情を結びました。
その後二人はそれぞれの道を歩みますが、1941年と45年に盛岡・川徳画廊にて松本竣介と舟越保武の二人展を開催。
現在、岩手県立美術館には二人の常設展示室が設置されています。
本展では松本竣介の素描と舟越保武の彫刻・版画作品をご紹介いたします。
●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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