2026.3.3

「刷り師・石田了一の仕事」第20回「 一×3(いち かける さん) 」


上村一夫 日吉ミミ リサイタル ポスター(構成演出 寺山修司)
B全サイズ 1030×728mm 1973年 10版9色11度刷り(ぼかし2)
涙からルージュへの贅沢な3色の刷りボカシ。

 このポスター制作の頃(1973)、上村一夫は漫画アクションに『同棲時代』を連載中であった。
 四畳半フォークと呼ばれた『神田川』がリリースされた年でもある。
一緒に行った銭湯で、湯冷めするほど女性を待たせるとは、何て長湯(ながゆ)の男なんだと呆れていたら、実情は脱衣場で池の鯉やテレビに夢中になっていたとかで、ますます呆れ反ってしまった。風呂上がりの石鹸だって、濡れて石鹸箱にくっついているので、カタカタは鳴らないよなぁと、妙正寺川沿い・四畳半の刷り師、この時ばかりはリアリストに。


林静一 天井桟敷「邪宗門」ポスター 790×545mm
4 版4色4度刷り+大入りの紙片1色刷り 1972年

 ガロに連載されていた同棲生活の劇画『赤色エレジー』の林静一が、天井桟敷「邪宗門」のポスターをデザインしたのが1972年。
山形季央「日本のグラフィック100年」(2018年刊)には、スミ色を使っていない色違いバージョンが集録されている。
 当時はヘアも御法度の時代なのに、〈秘所〉も絶妙なタッチで描かれていて、お縄頂戴になるかもと脅かされたが、覚悟をきめてより丁寧に刷ったのを憶えている。
街での貼り出しは、大入袋をあてて隠すということになり、コストを考えて出来合いの袋を模した〈下貼り〉用の紙片も それらしい色で別刷りとした。

 ま、貼ってあると剝がしたくなるのも世の常で・・・。
なんとか塀の中には入らずに済んだ。
入らずには済んだが、どうも塀の近くをウロウロしているらしい。
最初の工房は中野刑務所のそば、今は府中刑務所の近く、ずっと遡って、中野の前は東京監獄があった新宿区富久町の隣に下宿していたこともあった。

 その塀の中に3年お勤めして、異色の獄中実録漫画「刑務所の中」(2000年刊)を著したのが花輪和一。天井桟敷のポスターはその四半世紀前、1974年のデザインである。


花輪和一 天井桟敷「盲人書簡」ポスター 723×513mmと1030×728mm
2 種類のサイズ 3版3色3度刷り 1974年

緑ベタとアミ、赤ベタとアミを効果的に使い、少ない色数で時代がかった雰囲気を出している。
 塀の中に入ることになった経緯について、「刑務所の前」第1集~第3集・異色の告白本に〈いたく錆びしピストル〉をいかに愛したかが濃密に描かれている。
センス・オブ・ワンダー、棗(なつめ)ちゃんのじゅりじゅりが いじらしい。

 寺山修司をめぐる三人の絵師の名、それを手掛けた刷り師の名にも一(いち)がつくので、正しい数式は、一×3+一(いち かける さん ぷらす いち)となるかな。

(いしだ りょういち)

■石田了一(いしだ りょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、菅井汲、関根伸夫、田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。

●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は2026年4月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。

■特集展示「安藤忠雄」

2026年2月27日(金)~3月7日(土)
11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
安藤忠雄の1988年の巨大版画「中之島プロジェクト(アーバンエッグ)」2点を展示するとともに、ル・コルビュジエ、磯崎新、槇文彦、マイケル・グレイヴス、六角鬼丈、佐藤研吾など巨匠から気鋭まで建築家の秀作を併せてご覧いただきます。

●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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