小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第72回

熊野前という駅があります。
「いきなりなんの話?」と思われるかもしれませんが、当店にとっては開店以来いちばん大事な話かもしれません。まぁ、宣伝にはなりますが、どうかお付き合いいただければと思います。
熊野前は、日暮里から舎人ライナーで3駅、もしくは都電荒川線の駅でもあります。どちらも都営交通なので「東京都シルバーパス」をお持ちならば、なんと交通費はかかりません!
熊野前はJRの駅からは離れているのですが、熊野前駅前には、とても魅力的な商店街があります。「はっぴいもーる熊野前」とそれに続く「おぐぎんざ商店街」です。全長で800メートルほどの商店街。とても素敵なことに、かなり地元のお店が多い商店街です。昨今は商店街といっても、なかに入ると全国チェーンが幅を利かせている、という別に悪いことではないけれど、少し寂しい気がする商店街も多いですが、ここはおでん屋さんや喫茶店、洋服屋さんや大正から続くおせんべい屋さんなど、地元のお店が頑張っている!という感じです。コンビニはセブンイレブンの一軒のみという、便利なのか便利じゃないのかよくわからない感じになります。居心地がとてもいい。JRという大資本、というか今もむかしも街づくりに必須の巨大な資本から少し離れているからでしょうか。
本屋さんも一軒あり、むかしから文房具と本を半分半分で売っていたのだろうな、というこちらも地元の方々に愛されているお店です。
なんどか通ううちに、その本屋さんにお金を持って駆け込みマンガを買う小学生、雑誌を買いに来るおじいちゃんおばあちゃんの姿がとてもすてきに思えて、ここで前々から計画していた古本屋をやってみたい!と思えてきたのです。
その本屋というのは「100円均一のお店」です。
自分が本屋をやり始めて、続けている理由の大きなひとつは「読書の裾野を広げたい」ということ。もっと簡単に言うなら「本を読む人を増やしたい」と言うこと。これにつきます。最近は増やすどころか、減らさないことのほうが大事なのですが、減らさないためには、駒込でやっているように、本が好きなお客さんのニーズに応えられるように全力を尽くすまでです。しかし、8年やってきて思うのですが、それは近所に本が買える場所があること、がいかに重要かということです。特に最近の新刊書の値段の上がり方は、それが適正であると(新刊書を長いこと売っていた、いる経験から)わかってはいます。わかってはいるもののこれだけ急激に何もかもが上がってしまうと、もちろん紙価格やコストの上昇で一気に上がっているのは理解していても、ふだん本を読まない人にとっては「買うのやめた」という状況になってしまいます。またよく読む人であっても「打率」を上げなくてはならない状況でしょう。
古本屋のひとつの効用は「100円で本を買って、たくさん失敗できること」にもあると思っています。読んで「こんな本買うんじゃなかった!」って思っても「100円なら良いか」とも思えるのです。大切なのは、気軽に手を出せて、気軽に失敗できる状況。実はその側面も、雑誌や文庫が担っていた大切なものだったと思うのです。失敗の数があるからこそ、その人にとって「ホンモノ」に出会った時の喜びも大きい。それこそが未来の読者を育てると思っています。
よく図書館や古本屋は、著者や出版社に何も還元していない、という議論があります。
その側面もあるでしょう。でも、ぼくたちは未来の読者には、大いに還元していると思っています。
と言うわけで宣伝。
都電荒川線、日暮里舎人ライナー「熊野前」駅から徒歩5分程度の場所に、青いカバの均一のみのお店「カバラボ」がオープンします。
このブログが出るころは、まだ不定期営業かもしれませんが、スタッフ無人の券売機で精算していただく10坪ほどのお店です。
100円とはいえ、手は抜いていません。
商品もたくさん入れて毎日来てもたのしいお店を作ります。
よろしくお願いします。

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(おくに たかし)

●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」隔月、奇数月5日の更新です。次回は2025年7月5日です。どうぞお楽しみに。

小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。

●GW中の営業日について
ときの忘れものの休廊日は下記となります。
4月29日(火・)「昭和の日」
5月3日(土・)「憲法記念日」
4日(日・)「みどりの日」
5日(月・)「こどもの日」
6日(火)振替休日
※4月30日(水)~5月2日(金)は通常営業

●本日のお勧め作品は元永定正です。
motonaga-65《うえはうえむき》
1983年
シルクスクリーン
イメージサイズ:13.9x10.0cm
シートサイズ:27.0x20.0cm
Ed.115
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。


*画廊亭主敬白
小国さんの今月の原稿を読んでぎょっとしました。
「まさか移転?」
ときの忘れものがそもそも青山から駒込に移転した理由の一つは「BOOKS青いカバ」があったからといっても過言ではありません。
本屋さんの無い街に画廊が根付くのは難しい、と思っていたからです。
よく読むと、どうも移転ではないらしい(ですよね、小国さん)。
ぜひ今後とも駒込の名書店としてながく続いて欲しいものです。
あらためて「BOOKS青いカバ」さんのご案内をいたします。

山手線駒込駅から徒歩7分、東洋文庫の隣に実店舗がある古書&新刊の本屋です。
「ずっと GOOD BOOKS」をテーマに、10年後も本棚に入れておきたい、
そんな本をセレクトしています。
現在火曜日木曜日お休み
営業時間 11時~19時(当面の間)
住所 東京都文京区本駒込2-28-24 電話 03-6883-4507 
Twitter @hippopotbase


◆「2025コレクション展2/瀬木愼一旧蔵作品他
会期:2025年5月7日(水)~5月10日(土) 11:00-19:00
collection2_表面瀬木愼一先生(1931~2011)は、1950年代から岡本太郎、花田清輝らの「夜の会」に参加、海外美術の紹介やテレビ東京の「開運!なんでも鑑定団」に出演するなど、幅広い批評活動を展開し、美術市場の調査・研究にも積極的に携わり、他の批評家にはない独自の存在感を発揮されました。瀬木先生のもとには必然的に多くの作品が集まり、貴重な資料群は没後に国立新美術館に収蔵されています。
今回、瀬木先生とU氏の旧蔵コレクションを4日間のみの特別価格にて頒布します。
瀬木先生自身が制作された珍しい陶芸作品などもあり、是非この機会に皆様のコレクションに加えていただければ幸いです。詳しい出品内容は5月4日ブログに掲載しました。
出品作品:宮脇愛子、岡本一平、望月菊磨、草間彌生谷川晃一、吹田文明、吉仲太造、吉田勝彦、利根山光人、脇田愛二郎、松崎真一、針生鎮郎、橋場信夫、筆塚稔尚、井上公雄、鶴岡義雄、篠原有司男、山高登、大沢昌助吉原英雄、岩渕俊彦、藤森静雄、元永定正磯辺行久、永井勝、村瀬雅夫、中村義孝、平塚運一、オノサト・トシノブ、瀬木愼一、 ナイマン、サミュエル・マーティン、J.F.ケーニング、Julius Bissier、Jean Deyrolle、他

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は原則として休廊ですが、企画によっては開廊、営業しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。