大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」第132回

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なんだか危ない感じのする写真である。
彼女たちの足取りが、いや、漂っている雰囲気がアブナイ。

女性がふたり写っていて、一方は背が高くすらっとし、もう一方はややふくよかな体つきだ。
年齢は、右の「すらっとさん」のほうが若いように思えるが、どうだろう。

「ふくよかさん」は不思議なしぐさをしている。
胸の高さで組んだ両腕を前に突き出し、何かを押そうとしているようだ。
ふだんはしない格好だが、舞いの手の一部?
さっきまで、どこかでこうやって踊っていたのだろうか。

「ふくよかさん」の着物には帯が締められていない。
もしかして浴衣か、とも思ったが、裾から襦袢がのぞいているから着物だろう。
腰帯で縛っているだけなので、前がはだけている。
酔っているらしく、しどけない様子だ。

「すらっとさん」の着物はきちんとしている。
帯を締め、羽織もはおりって、手にタオルのようなものを抱えている。
もう片方の手は「ふくよかさん」の体を支えているのだろう。
彼女がよろけて倒れ込んできたところを、さっと助けたのだ。
あらまあ、と言いたげな、おっとりした笑顔。
「ふくよかさん」も笑っているが、こちらは爆笑という感じ。

ふたりはだれにむかって笑っているか?
写真を撮っている人に、である。

「撮っている人」は、彼女たちと一緒にここまで歩いてきたが、
急に撮ろうという気がおこり、さっと振り返ってシャッターを押した。
それで画面が傾いた。
いや傾いたのは、この人もまた酔っているからかもしれない。

ふたりの横に建っているのはお店のようだ。
幌がでている。
地面にドラム缶やバケツが置かれている。
バケツには細い棒切れが立っており、割りばしかと思ったが、もっと長そうだ。
その後ろにはむしろが見える。下から樽が覗いている。

足下には油が流れた跡のような染みがある。
暗かったときは、こんなふうになっているとは知らなかっただろう。
フラッシュが焚かれた瞬間に露になった。
アブナイ雰囲気は彼女たちのせいばかりではない。
この禍々しい染みがもたらしたのだ。

フラッシュが消え、あたりが暗くなり、声だけが聞こえる。
姿が見えなくなると、三人の輪郭が曖昧になり、気持が大きくなる。
それだけでなく、ひとつにまとまってもいく。

三人はどこかに一緒にいて、そこを出てきたいま、別のどこかに向おうとしている。
それぞれの家だろうか? 
いや、ちがうような気がする……。

このあとどうなるのか、とても気になる……。

大竹昭子(おおたけ あきこ)

作品情報
大久保 好六《女二人》〈大東京の丑満時〉より
1933年 ゼラチン・シルバー・プリント 東京都写真美術館蔵

関連イベント
fueki_flyer_omote「総合開館30周年記念 TOPコレクション 不易流行」
2025年4月5日(土)~6月22日(日)
会場:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
休館日:毎週月曜日(ただし5月5日は開館。5月7日[水]は休館)

●関連書籍
fuekicover1「TOPコレクション 不易流行」図録
B5 変型(182mm×240mm)192 ページ
編集・執筆:佐藤真実子、大﨑千野、室井萌々、山﨑香穂、石田哲朗(東京都写真美術館学芸員)
東京都写真美術館発行


●大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」は隔月・偶数月1日の更新です。

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◆「開廊30周年記念 塩見允枝子×フルクサス from 塩見コレクション
塩見允枝子×フルクサス案内状 表面
塩見允枝子×フルクサス案内状 宛名面  
ときの忘れものは6月5日に開廊30周年を迎えます。
30周年記念として塩見允枝子(b.1938)の2 回目となる展覧会を開催します。

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建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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