モノクロのネガフィルムが出てきました。
国立(国分寺)時代1990年、草間彌生の「夏の花」の製版のためのポジフィルムづくりの作業のようです。灯が点いているトレス台の向こうに立てかけてあるのが、キャンバスに描かれた元絵です。
撮影された製版フィルムをばらし、手を加えながら色ごとにジグソーのように組み立ててゆきます。(「夏の花」は21版20色21度刷り)
時計は午前2時55分近くを指していますね。もともとは夜型なので、シゴトが捗る時間帯です。
本土最東端のふるさと根室では、夏至の頃なら、この時刻くらいから夜が明けてきます。少し夜更しただけで、すぐ朝が来るので、ドラキュラも困惑です。
講堂にあるような大きな丸時計(直径60㎝)は、京都の古道具屋で見つけたもので、中野沼袋時代には、半間(幅・約90㎝)の壁に掛けてありました。
ダリの時計には適いませんが、なんとなくシュールな、そして劇画っぽい四畳半です。
文字盤にはTAKANO SEIMITSUと銘が打たれ、ゼンマイ式で右穴にネジを差して巻きます。左穴は時報のゼンマイです。下の蓋を開けて中を覗くと、柱時計のように振り子が揺れています。
時報のゼンマイが切れかかると、咳き込むように時を知らせ、分を刻む長針の下り(12~6)は静止するのが辛いのか大げさに落ちて行き、(6~12)は上がるのがやっとなのか、やっこら上っていくような人間味あふれる時計です。
中野沼袋時代 1976年 雑誌JJ 12月号より
時計の下にある留守電の応答メッセージも、確か、気取って「真夜中のプリンター」と名乗っていたような。
その真夜中のプリンターで思い出すのは、矢柳剛(1933ー)さんとの打ち合わせです。
沼袋駅前にあった喫茶「ザボン」で、午後1時の待ち合わせだったのに、なんと寝坊して遅刻!
昼過ぎでは寝坊とも言えず、身体の所為にするには顔色も良く、言い訳にしどろもどろでありました。
矢柳さんは一般的なマットインク(艶消し)より、光沢のある仕上がりを求めているようでしたが、当時の臭いのキツイ(艶のある)グロスインクを一式揃えることには、仕事場がアパートの2階だったことから躊躇われ、今まで通りに刷ってから、最後の仕上げにだけなるべく低臭の艶あり無色インクを刷る(コートする)という手法に行きつきました。
下刷りや重ね刷りなど、層の違いによる艶の変化も出て、後々の刷りのヒントになっていったのでした。
矢柳剛 376×527㎜ 11版13色11度刷り 1974年
(いしだ りょういち)
■石田了一(いしだ りょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、菅井汲、関根伸夫、田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。
●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は11月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。
*画廊亭主敬白
10月3日は元永定正先生の命日です(1922年11月26日 – 2011年10月3日)。
石田さんとの協働では元永作品のエディションは重要な位置をしめていますが、これについては別の機会をつくり詳述したいと思います。
本日は元永先生を偲び、石田さんが刷りを担当された元永定正作品をいくつかご紹介します。
●元永定正(いずれも現代版画センターエディション)
《ひだりうえにぐりーんのぎざぎざ》
1984年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:45.0×65.0cm
シートサイズ:55.0×75.2cm
Ed.150
サインあり
《せのひくいおれんじはまんなかあたり》
1984年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:46.0×66.0cm
シートサイズ:55.0×75.0cm
Ed.150
サインあり
《ふにゃらくにゃら》
1979年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:43.0×95.0cm
シートサイズ:50.0×104.0cm
Ed.85
サインあり
《のびるしろ》
1981年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:36.0×57.0cm
シートサイズ:45.0×65.3cm
Ed.150
サインあり
《しろいせんのあみめから》
1981年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0×38.0cm
シートサイズ:65.5×45.0cm
Ed.150
サインあり
《さいしょはぐりん》
1979年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:31.0×45.0cm
シートサイズ:45.5×59.0cm
Ed.170
サインあり
《さんかくしかくながいまる》
1981年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:36.0×57.0cm
シートサイズ:45.0×65.0cm
Ed.150
サインあり
《うえうえ》
1984年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:27.5×40.0cm
シートサイズ:44.5×59.5cm
Ed.150
サインあり
《さんかくしかく》
1984年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:33.0×23.0cm
シートサイズ:42.0×31.0cm
Ed.250
サインあり
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◆「銀塩写真の魅力Ⅸ」
会期:2025年10月8日~10月18日
主催:ときの忘れもの
出品作家:福田勝治(1899-1991)、ウィン・バロック(1902-1975)、ロベール・ドアノー(1912-1994)、植田正治(1913-2000)、
ボブ・ウィロビー(1927-2009)、奈良原一高(1931-2020)、細江英公(1933-2024)、平嶋彰彦(b. 1946)、
百瀬恒彦(b. 1947)、大竹昭子(b. 1950)
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。





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