板橋区立美術館で「戦後80年 戦争と子どもたち」展が開催中です。

紅葉の美しい11月上旬の板橋区立美術館
板橋区立美術館にて、「戦後80年 戦争と子どもたち」を拝見してきた。
戦後70年の企画展からコツコツと準備を進めてきたという渾身の展示である。

本展は「童心」「不安」「理念」「明日」「再建」という5つの章に分かれている。
東京国立近代美術館の「記録をひらく 記憶をつむぐ」展でも明らかにされていたが、
戦時中には、美術が戦争を美化し、継続させるために利用されていたのかがよく分かる展示であった。
特に1章「童心の表象」と3章「理念の表象」は顕著である。
前者は、前線で戦う兵士達に内地の平和な日常、つまり守るべきものを想起させる。
後者は銃後の人々の戦争への「正しい」向き合い方を示唆している。

青柳喜兵衛《天翔ける神々》1937 年 北九州市立美術館蔵
展覧会の第1章「童心の表象」より

北川民次《作文を書く少女(慰問文を書く少女)》1939年 名古屋市美術館蔵
第3章「理念の表象」より
もちろん陰鬱な面を描いた作品もある。
2章「不安の表象」は、親や教師が我が子・教え子を想って描いた作品が多いのが特徴的だ。
大本営発表は体のいいことばかり述べるが、どうやら戦況は拙いらしい。
隣の家の長男は小指の骨になったらしい。
息も詰まるような状況下で、身近な子供の5年後10年後に待ち受けるであろう漠とした不安を描いた作品群だ。
渦巻く濁りの色の中に取り込まれそうである。

浜松小源太《世紀の系図》1938年 板橋区立美術館
第2章「不安の表象」より
頼りなく揺れる背景の中に、具象の人間がポンと放置されているような絵も多い。
「童心の表象」「理念の表象」の作品が、ユートピアのイメージを背景まで詳細に描き、
平和を想起させようとしたのとは大きな違いである。
4章「明日の表象」は戦争とは直接関わらずに描こうとした作家たちの展示で、一番ほっと解放される。
この企画展は、本章の麻生三郎《一子像》をきっかけにしているとのことだ。
その他の作品も特に惹きつけられるものが多い章であった。

麻生三郎《一子像》1944年 板橋区立美術館
第4章「明日の表象」より
誰もが子供の像を描く中で、唯一松本竣介の作品にだけは影も形もない。そうではなく、「子供の描いた線」を描いている。
作家が子供をモチーフにするとき、多かれ少なかれ作家のフィルターを通した像が浮かび上がる。
彼らに理想を見出したり、自身の不安を投影させたりするのだ。
対して竣介の絵は、子供の内側に入り込む。
一本のストローク、一色の濃淡に込められた飛び跳ねるような心の動きを、自分の感覚として取り込もうとしている。
外から押し付けられたイメージではない、子供の心の自由さを感じられた作品であった。

松本竣介《せみ》について 桐生タイムス2019年5月1日の記事
大川美術館HPより(https://okawamuseum.jp/)
5章「再建の表象」は、戦争に傷つき疲れ果てた子供たちと、なにはともかく生き残ったことを祝福する絵の両極端である。
個人的には、大沢昌介《虚像を耕す》は、瓦礫を片付ける子供とめんこ遊びをする子供が
同じだけの真剣さとエネルギーで描かれているのが面白かった。
子供にとっての遊びは復興作業と同じくらい大事で、全力で取り組むものだという作者の姿勢が見えた気がした。

麻生三郎、北川民次も暮らしたという「池袋モンパルナス」の地図(板橋区立美術館作成)
板橋区立美術館「戦後80年 戦争と子どもたち」は2026年1月12日(月曜日・祝日)まで開催。
今の時期は併設する公園の紅葉も美しい。最寄り駅からの散歩も兼ねて、是非お訪ねください。
(スタッフMJ)
●ときの忘れもののコレクションから、松本竣介作品をご紹介します。
《人物(W)》
紙にペン、水彩
Image size: 22.0×16.0cm
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◆「作品集/塩見允枝子×フルクサス」刊行記念展
会期:2025年11月26日(水)~12月20日(土)11:00-19:00 日曜・月曜・祝日休廊
※11月28日(金)、29日(土)16~17時30分の間はイベント参加者以外はご入場いただけませんのでご留意ください。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。


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