「モダンアートの街・新宿」を企画して
古舘 遼(SOMPO美術館)
1976年7月、安田火災海上保険(現在の損保ジャパン)が新築した43階建て本社ビルの42階に東郷青児美術館は開館した。画家・東郷青児による協力のもとで生まれたことから、作家の名を冠している。その後、本社の改組等にともない何度か名称を変えて、2020年にはSOMPO美術館として現在の建物に新築移転。2026年に開館50周年を迎えた。「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」は、50周年を記念する展覧会の第一弾に位置付けられる。
私が同館に学芸員として着任したのは2023年7月。その直後(正確にいえば着任前)に企画したのが、本展である。そして本展は、SOMPO美術館50年の歴史において、初めて「地元」の新宿に焦点を当てた企画でもある(詳細は、同展図録に収録の拙稿「50年目の領野――新宿の美術展を新宿で開く」に譲りたい)。この事実は筆者にとって意外だったが、むしろこの企画を50年という節目で実現する上での好機だと考えた。
「モダンアートの街・新宿」という幾分変わった名称は、実をいうと、決めるまでに非常に悩んだ。
まずもって、新宿はどのようなイメージの街だろうか。高層ビルの立ち並ぶ大都会。交通網が錯綜するターミナル。歌舞伎町に代表される歓楽街。さまざまな文化の交差点として、サブカルチャーやアングラの象徴的な拠点のひとつとして機能してきたことの重要性は言うまでもない。一方で、本展の主眼は、「それだけではない」新宿を、モダンアートという切り口で浮かび上がらせることにある。したがって、モダンアートという語は必要であった。
ちなみに、関係者間では当初から「新宿展」と通称されていた。しかしながら、公式タイトルを「新宿展」とするのは、あまりに不正確である。かといって、副題で補強すれば、いよいよ煩雑になる。そうこう考えた結果、現在のタイトルに落ち着いた。
本展のメインビジュアルは、松本竣介《立てる像》(神奈川県立近代美術館所蔵)とした。「なぜ、この作品?」「竣介は池袋では?」といった声も、ないわけではない。しかしながら、静かで人影もまばらな新宿の街に、堂々と立ち上がりながらも不安をにじませる画家の姿は、本展の象徴として最もふさわしいと考えた。会場には、竣介のご子息である松本莞氏の絵をもとに竣介が手掛けた《象》《牛》《電気機関車》(いずれも神奈川県立近代美術館所蔵)もあわせて展示している。
グラフィックデザインは、三木俊一氏(文京図案室)に依頼した。先述の、“「それだけではない」新宿”を伝えたいという筆者の要望に対し、硬質な文字を緊密に編み込んだ、類稀なるビジュアルを構成いただいた。同氏デザインによる、落ち着いた風合いで手になじむ図録もぜひ手に取っていただきたい。

「モダンアートの街・新宿」ポスターイメージ
本展で新たに挑戦したのは、新宿ゆかりの美術を約50年にわたってたどることである。そしてこれは同時に、日本の近代美術に対するネガティブなイメージ――「地味」「難しそう」など――に対する、私なりの応答でもある。本展で取り上げる43名の芸術家の中には、日本の近代美術に親しむ人にとってはお馴染みの人物が多数含まれる。とはいえ、その「お馴染み」を共有できる層は、実はごく限られていることも、日々痛感している。それゆえ、できるだけ解説を付け、各作家の新宿との接点を示した。そして彼ら/彼女らをめぐる群像も浮かび上がらせることによって、「ここに挙げられている中の何人かは知っている」と誰もが感じられるような舞台作りを試みた。
本展には、全体を貫くストーリーとは別に、小さいテーマをいくつか用意している。その中のひとつに、《ひまわり》がある。
SOMPO美術館は、フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》をアジアで唯一所蔵する美術館である。そこで、本展にも《ひまわり》を「招待」した。
そのうちの一点は、小泉清《向日葵》(早稲田大学 會津八一記念博物館所蔵)である。東京美術学校出身の小泉は、画家としては遅咲きで、里見勝蔵の勧めにより46歳で初めて展覧会出品を果たした。本作はそのうちの一点である。里見譲りともいうべき燃えるような色彩のひまわり。小泉は、神戸の実業家である山本顧彌太が日本に初めてもたらしたファン・ゴッホによる作品《ひまわり》(通称「芦屋のひまわり」、第二次世界大戦下で焼失)を実見しており、本作はこれを参照している可能性が高い。
本展の最後を飾るのは、東郷青児《超現実派の散歩》(SOMPO美術館所蔵)である。日本におけるシュルレアリスムの最初期の作例としてよく知られているだけではなく、SOMPO美術館にとっても象徴的な一点といえる。2014年より、この人物像を当館のシンボルマークとして採用している。
開館50周年に際し、この「モダンアートの街・新宿」を皮切りに、「再発見」を共通テーマとして5本の企画展を2026年度にかけて開催する。その「再発見」に立ち会っていただければ、これ以上の喜びはない。
■古舘 遼(ふるたて りょう)
SOMPO美術館学芸員。専門は日本近代美術。
◆「モダンアートの街・新宿」展
会期:2026年1月10(土)~2月15日(日)
会場:SOMPO美術館
1976年7月、SOMPO美術館は新宿に開館しました。このたび、SOMPO美術館の開館50周年を記念し、新宿をテーマとした展覧会を開催いたします。
日本の近代美術(モダンアート)の歴史は、新宿という地の存在なくしては語れません。明治時代末期の新宿には新進的な芸術家が集まりました。そして、新宿に生きる芸術家がさらに芸術家を呼び込み、近代美術の大きな拠点の一つとなりました。本展は、中村彝、佐伯祐三から松本竣介、宮脇愛子まで、新宿ゆかりの芸術家たちの約半世紀にわたる軌跡をたどる、新宿の美術館として初めての試みです。
◆Tricolore 2026/藤江民・谷川桐子・釣光穂
会期:2026年1月9日(金)―1月24日(土) 11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
2010年から開催しているシリーズ企画「Tricolore展」は、ときの忘れものが選ぶ作家3名の展覧会です。
6回目となる本展は、女性アーティストの藤江民・谷川桐子・釣光穂の作品をご紹介します。
版画家・藤江民は、版画だけなく、オリジナル手法で制作した大作の油絵や、タイルの作品「割絵」などを出品します。
谷川桐子は、油彩で緻密に描いた砂利や地面の上にハイヒールやブラジャーなどを描いた作品を制作しています。
陶芸家・釣光穂は手びねりという陶芸の技法で、まるで編み物で編んだようなオブジェを制作しています。
三者三様のユニークな作品をご覧いください。
◆「綿貫不二夫 12作家の版画制作を語る半世紀 第1回オノサト・トシノブ 聞き手/三上豊」
開催日時:2026年1月24日(土)12時~(要予約)
会場:ときの忘れもの
私たちが現在までにエディションした約1000種類の中から、オノサト・トシノブ、菅井汲、内間安瑆、ジョナス・メカス、元永定正、アンディ・ウォーホル、宮脇愛子、草間彌生、靉嘔、磯崎新、安藤忠雄、関根伸夫の12点を選び、12作家とどうのように関わり、エディション作品をつくってきたかを公開で語ることとなりました。聞き手は現代版画センターを知る編集者の三上豊氏にお願いしました。
毎月1回、第4土曜日の12時から開催します(要予約)。
どなたでも参加できますが、事前予約制とします。
参加費:1,000円(資料代を含む)
参加ご希望の方は、お名前(フルネーム)、ご連絡先(住所)を明記の上、メールにてお申込みください。
会場の都合で(狭いので)定員は5名とします。

オノサト・トシノブ Toshinobu ONOSATO
《Ce 1》
1974年
シルクスクリーン(刷り:岡部徳三)
Image size: 21.8×27.1cm
Sheet size: 28.1×33.2cm
Ed.200 サインあり
*現代版画センターエディションNo.1
*オノサトのレゾネ98番ではタイトルが「G.H.C.5」(Gendai Hanga Centerの略)となっている
(『ONOSATO オノサト・トシノブ版画目録 1958-1989』ART SPACE 1989年刊)
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
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●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。




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