日和崎・金子「日本人の悲劇」表紙

コレクターのHさんが古本屋で見つけたといって旺文社文庫の金子光晴「日本人の悲劇」をもってきてくれた。掲示板にその顛末を投稿してくださったので、以下全文再録します。

「先日古書店の文庫の棚を覗いていたら、見覚えのある黒と白の絵柄の表紙を見つけました。あれっと思って見返しを見ると「版画:日和崎尊夫」とありました。タイトルは『日本人の悲劇』。詩人の金子光晴の評論集で旺文社文庫として1976年(昭和51年)に出版されたものでした。表紙が「Mの肖像」(レゾネ351)、裏表紙が「鳥と・・・」(同346)。中を開くとに29頁に「瞳」(同357)、57頁に「花の精」(同348)、87頁に「樹木」(同284)、115頁に「海溝より・・・・」(同350)、145頁に「花」(同292)という、(印刷はもちろんそれなりですが)結構贅沢な作りでした。ただ、この文庫の装幀については、レゾネ(高知県立美術館)にも記載がないのが不思議でした。文庫のように刷り部数も多く、印刷のクオリティも高いとは言えないものは、装幀の仕事としては考えられていないのでしょうか。また、他にもこうした装幀のお仕事をされていたのでしょうか(たとえば他の旺文社文庫の金子光晴の作品『金子光晴詩集』『詩人』等)。私としては本書は金子光晴の文章と日和崎尊夫の装幀・挿画か相乗効果を発揮して独特の雰囲気を醸し出している逸品(同時期に出版された他の旺文社文庫と比べると歴然)だと思うのですが。」

なるほど、表紙だけでなく、挿画にも使われた日和崎さんの木口木版は居場所を見つけたごとくじつにしっくりしています。
私、昔から濫読、積読、手当たり次第なのですが、どうも食わず嫌いなところがあり、金子光晴は晩年の「エロじいさん」という世評に惑わされてか、全く読みませんでした。
ところがHさんがプレゼントしてくださり、お客様からのお中元(?)とあっては読まないわけにはいかない。昨夜から読み出したのですが、これがめっぽう面白い。
本文に前に、まず17ページにもわたる茨木のり子さんの「解説」を読んだのですが、これがまたいい。歴史教科書なんかよりこの「日本人の悲劇」を日本通史として採用すべしと、茨木さんてこんな骨のある人だったんだと、これも食わず嫌いを恥じた次第です。

そんなわけで昨夜は遅くまで寝床で読みふけって、すっかり睡眠不足で出社したら、旧知の某地方都市の画廊さんから電話が入って、「おたく、日和崎さんの展覧会だよね、うちに<Mの肖像>という作品があるんだけど、買ってくれない」。
いや驚きましたね。
Hさんが見つけてくれた文庫本の表紙作品<Mの肖像>が、偶然にも入ってくる。
なんかこりゃあ幸先がいいぞ。

日和崎・金子「日本人の悲劇」挿画1


日和崎・金子「日本人の悲劇」挿画2