磯崎アトリエのスタッフの慰労会にて、左から綿貫不二夫、磯崎新先生、小柄な後ろ姿は網谷淑子さん

左から綿貫令子、綿貫不二夫、アトリエOBの青木淳先生

 私にとって衣食住の順番は、食・住・衣だ。
わが社の新人スタッフが日記でしょっちゅう食べることを書くので(これがまた食べることになると文章が急に生き生きしてくるんですね)、私は美食家と思われているようですが、グルメではありません。
 昔から粗衣粗食に慣れており、カップラーメンで一ヶ月すごせといわれても動じません。
でも(ここが大事)、惨めなときに惨めな食事だけはしたくない。
今でもお金が苦しいとき、社長は「今夜はラーメンにしよう」などとつい口走りますが、私は断じて頷かない。そういうときこそとっておきのレストランに駆けつける。
私、倒産したときも奥さんにはいい部屋(清潔なアパート)とおいしい食事だけは約束しました。
食事は大切だ、とつくづく思います。
三度三度の食事だからこそ、精神に多大な影響を与える。
 数年前、今をときめく人気画家MTさんを特集したテレビ番組(情熱大陸? そのころはまだ我が家にテレビがあった)を見たのですが、プレハブの大きなアトリエで、大勢の若いスタッフがコンビニ弁当をほおばっているのをみて、即座に「こりゃあかん」と思いました。
いくら作品が1億円越す評価を得たとしても、食事があれじゃあね。
もちろんこれは偏見です。コンビニさんごめんなさい。
 花森安治は職場(暮しの手帖編集室)に食堂を備え、必ずスタッフ全員で食事をともにしていたといいます。広告に頼らず、購読料で維持し、科学的な調査で徹底的に商品のよしあしを取り上げた同誌の姿勢は、スタッフ全員が食事をともにする中で培われたものと確信します。
 私が最も敬愛する建築家・磯崎新先生は鮮やかな手つきで自身でも料理をつくりますが、アトリエには食堂を備え、凄腕のシェフがいます。スタッフは毎日の食事をこの食堂でする。
先日、磯崎新アトリエでちょっとしたパーティがあり、私達も呼ばれ、シェフたちが腕を振るった山盛りの山海の珍味に舌鼓を打ちました。内輪の会だったので、磯崎御大から、つい先日アルバイトに入ったばかりの青年までが、和気藹々とした雰囲気で飲みかつしゃべる。世界のイソザキに普段は緊張感で口もきけない若いスタッフがボスと食事をともにすることによって同じ空気を共有できる。
いいですね。わが社もかくありたい。さて今夜はどこに行こうか。