先日ご紹介した「からんどりえ」とともに駒井哲郎先生の名声を高めたのが安東次男との詩画集「人それを呼んで反歌という」です。
掲載した作品は、その中の一点「PL.6 年齢について」(29×72cm)の別刷りです。
しかし、この詩画集というもの、なかなか実物を目にする機会がない。
私自身『人それを呼んで反歌という』を完璧な形で触ったのは数回しかありません。
ところが実物を見てもこの詩画集の全貌はわからないのです。
この詩画集は、安東先生の詩9篇と、駒井先生の銅版画16点からなっていますが、詩画集本体には、不親切な奥付があるだけです。


人それを呼んで反歌という
著者 安東次男・駒井哲郎
発行者 竹内宏行
発行所 エスパース画廊
東京都千代田区神田駿河台2-4 電話(291)0802
発行 1966.9.15
本文印刷 株式会社精興社
用紙 B.F.K.RIVES
TSUGUO ANDO(サイン) TETSURO KOMAI(サイン)
人それを呼んで反歌という
限定60部の内第41番
以上が全文です。実に簡単ですね。これじゃあなんだかさっぱりわからない。
各作品のサインの有無、番外の部数、別刷りの有無、など一切記載がありません。
奥付には駒井と安東のお二人の署名がありますが、駒井の銅版画16点のそれぞれには、サインは入っていません。
各作品には詩画集のほかに、サイン入り別刷りが2タイプ(詩入りの別刷りと、版画のみの別刷り)があることは知られていますが、それがいったい何枚あるのか、上記の奥付だけでは皆目わかりません。
レゾネや東京都美術館カタログも(もしかしたら編者も実物を確認していないのかしら)その辺の記述が曖昧でした。さらに誤記もあります。
ずっともやもやしていたのですが、先年、私が某コレクターから拝借した詩画集(41/60)には、上記の本体奥付とは別に、12.9×24.5cmのぺらぺらのチラシ(カード)が挟み込んでありました。
不勉強で申し訳ないのですが、このチラシ自体の存在をそのとき初めて知りました。

以下が、その全文です。
<人それを呼んで反歌という・詩・安東次男・画・駒井哲郎・1966年9月15日発行・エスパース画廊・限定60部・内7部(Ⅰ~Ⅶ)には本詩画集を構成した銅版画別刷1組(16葉署名ならびに番号入り)付属,販価15万円・53部(8~60)販価6万円・ほかに非売8部(銅版画別刷1組付属)・内7部(1~7)はep. d'Artisteとし,1部はH.C.とする・またPL.4,9,11,12については,詩と併せて各5葉の別刷をつくる・本詩画集に使用した銅版は,画家より詩人に贈られたPL.1のそれを除き,いずれも刷了後刻線を以て消去した。>
2010年1月8日追記
約3年ほど前に書いた文章ですが、お恥ずかしいことに重大な誤りがありました。
上記の文章は、限定60部のうちの41番の作品(つまり普及版)を見て書いたのですが、本日某老舗古書肆のご主人の厚意で、限定60部のうちの6番(正確にはⅥ)の特別版を拝見することができました。その結果、以下の「このチラシの文章でようやく~」の文章は間違っていることに気がつきました。
実物を見ずに書くとこういうミスをする。深く反省しております。
某先生に倣い「全文削除」という手もあるのですが、自らの戒めとして、誤記のままこのブログには残し、近日中に正確なものを掲載します。
従って以下の文章は正確ではありません(誤りです)。
読者の皆様には心よりお詫びいたします。
1)詩画集(本)として制作されたのは、限定60部+ep7部+HC1部=68部
ただし、この68部の作品それぞれには、サインも番号も記入されていない。
2)別刷りAタイプ(版画のみ) 番号入り((Ⅰ~Ⅶ)7部+ep7部+HC1部=15部
これらの作品には、それぞれにサインと番号が記入されている。
3)別刷りBタイプ(版画と詩が一緒に刷られている)
16点の内の、4点(PL.4,9,11,12)についてのみ5部が別刷りされた
これらの作品には、それぞれにサインが記入されている。
重要なことは、16点の原版のうち、1点を除き、「刷了後刻線を以て消去した」とあることです。
いわゆる「レイエ」ですが、駒井先生の版については非常に珍しいことで、他の多くの原版はそのまま残され、生前、没後に何度も後刷りされていることは周知の事実です。
駒井先生の評価(特に価格)が生前あまり高くならなかったのは、次から次へと別の限定番号でセカンド・エディション、サード・エディションが出てくることへの、画商たちの密かな反発がその理由の一つでした。
しかし、この『人それを呼んで反歌という』に限っては、一点以外は廃版になったわけですから、今後それが広く知られれば、評価の修正がおこることと思います。
本来、作品としての価値(評価)と、刷られた部数の多寡は、別のもので、部数が多いからといって作品としての価値(評価)までもが低くなることはないと思いますが、しかし、データが不明なのは困ります。
つまり『人それを呼んで反歌という』の連作(16点中15点)は、ノーサインが各68部作られ、サイン入り別刷りは、15部、ないしは20部に過ぎない、ということがこれでわかります。ずいぶんと貴重かつ希少ですね。
ただし、これは『人それを呼んで反歌という』の刊行後の経緯で、刊行前、則ち16点の版画に取りくんでいた試作段階でのエプルーブについては、若干のものが存在することは事実です。
版画はほんとに難しい・・・・
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