サンジミアーノ

柳沢信 Shin YANAGISAWA
「サン ジミニャーノ郊外」
  1993  Gelatin Silver Print
  22x32.5cm signed
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◆ときの忘れものではただいま「柳沢信写真展」を開催しています(2008年1月11日[金]―1月26日[土])。
ご紹介するのは、柳沢信本人が、1993年イタリアから帰国してすぐに焼いたもの。作品の裏にフルネームでサインがしてあります。
ヴィンテージ・プリントは、体調不良のためイタリアの旅を途中で切り上げて帰国したあと、記憶が薄れないうちにとすぐに現像、プリントしたものです。2月5日に出発し、3月12日に帰国するまでにモノクロ・フィルム63本を撮影し、自分でもその多さに驚いたといいます。

◆話はまったくかわるが、先日、朝早く起きて東中野の映画館・ポレポレ東中野で柴田剛監督の「おそいひと」を観た。
重い映画だった。重度の身体障害者が殺人者となる物語だが、実際の重度身体障害者・住田雅清が主演している、その圧倒的な存在感がまた重い。

その数日前、突然若い人が画廊に訪ねてきた。イタリアのシチリアのワイン農場で働いており、それではなかなか食えなくてヨーロッパの骨董を仕入れて日本で売る仕事もやっているらしい。
ときの忘れもののことはネットで知り、たまたま彼の東京での居場所が(知人の事務所を間借りしている)偶然ときの忘れものから数秒の近くにあり、訪ねてきたとのこと。
彼がつい最近観た映画「おそいひと」にときの忘れものが協賛しているのを見て(映画の最後に流れるクレジットにときの忘れものの名前があった)、「そういうこともしている画廊なんだ」と興味を抱いたらしい。
聞いた私の方が驚いた。
この映画の製作に貧者の一灯を捧げたことなど、すっかり忘れていたからだ。
そういえば、しばらく前、ポレポレ東中野から映画の招待券が送られてきたような気がするなあ。

私の尊敬する画商に奈良の西田画廊の西田考作さんがいる。
美術に対する真摯な取り組みと深い愛情、豊かな感性に私はずっと教えられてきた。
その西田さんの友人に布忍神社の寺内成仁さんという宮司さんがいる。
西田さんと組んで現代作家たちによる絵馬の奉納展などユニークな企画をやっていた。
その寺内さんが、若手芸術家へのパトロネージュを主旨とする、『もちの木基金』というのを始めて、西田さんはそれにも協力していた。
それでこの映画も『もちの木基金』からの協賛を受けて製作され、西田さんから誘われ、私たちも僅かな支援をしたというわけだ。
この映画の完成は随分前なのだが、内容の過激さもあって賛否両論、公開の機会が遅れたらしい。私もすっかり忘れていた。

思わぬ若い人の訪問がなければ、そんなことを思い出すこともなかったろう。

■「障害者というだけで、過激な表現が暗黙の了解のもとに制約されてきた日本映画界において、障害者が常軌を逸した狂人として登場するこの映画は、優れた文化作品だと誇りを持って言えます。困難なことかも知れませんが、障害者が自分たちの文化を取り戻す作業が必要だと思います。そして、障害者も障害者の世界に閉じこもらず、もっと、いろいろな人たちと協力し合い、文化創造を力強くしていかねばならないと思っています。」 住田雅清(上映会挨拶より)