ゴッタルド・セガンティーニ
「湖を渡るアヴェマリア」
銅版 37.5×29.0cm
Signed
本棚から古いアルバムが出てきた。中に1980年代末に私がフランスを往来していた頃の写真が入っていた。
私が好きな作家にジョバンニ・セガンティーニがいる。
ある夏の日、パリでの仕事が一段落した折、相棒たちとチューリッヒに飛び、空港でレンタカーを借りてひたすらサン・モリッツを目指し、山道を駆け上った。

美しい湖のほとりに建つセガンティーニ美術館を訪ねるのが目的だった。
木立に囲まれた石造りの小さな美術館は私の長年の憧れだった。
日本人にもファンが多く、今ではホームページに日本語サイトがあるくらいだ。
41歳で亡くなったジョバンニ・セガンティーニ(Giovanni SEGANTINI 1858~1899)は、アルプスの画家として有名だが、版画作品はない。
しかし、その息子たちマリオとゴッタルドの手によって父の死後、20世紀の前半10年間に多くの銅版画が制作された。いずれも父ジョバンニ・セガンティーニの代表作の版画化である。
子供達が父親の作品を版画にする、例がないわけではないが、20世紀では珍しいかも知れない。
セガンティーニのオリジナルはめったに市場に出ないし、出ても高くて手が届かない。
セガンティーニのファンにとっては、息子たちのつくった版画は巨匠のイメージを共有できるかけがえのない作品なのである。

セガンティーニ美術館を訪ねたのは夏の真っ盛りで、行き当たりばったりの旅だった。
湖の周りのホテルは観光客でどこも満員で、仕方なく車を郊外に走らせた。
折から土砂降りの雨、どこをどう走ったのか思い出せないが、繁華なサンモリッツの町から随分と離れた(らしい)スキー場のある田舎町にさ迷い込んだ。
人っ子ひとりいない田舎道に忽然とあらわれたのは古色蒼然としたいかにも貴族の館といった趣の建物だった。
もしかしたらホテルかも・・・
冬のスキーシーズンには大変な賑わいを見せるらしいが、私たちが訪れたときは、極く少数の常連客しかおらず、静かなゆったりとした時間をすごすことができた。
機会があれば今度は奥さんと滞在したい。
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