某月某日、海外の方から電話があった。
ネットで検索して調べたらしい。
「あなたのギャラリーに草間彌生作品はあるか」、もちろん売るほどある。
「これから一時間ほどで伺いたい」、もちろん歓迎します。
ところが待てど暮らせど客は来ない。まあ、電話だけのことはしばしばあるので冷やかしだろうと店仕舞いし始めた夕刻、通訳を連れた客がやっと到着した。ショッピングやら何やらでお疲れの様だが、草間作品をご覧に入れ始めたらちょっと態度が変わった。
通訳と真剣な顔で「さっきのを全部キャンセルできないか」などと物騒な相談をしている。
きけば、ときの忘れものに来る途中、大通りに面したガラス張りのギャラリーにふらりと入ってしまい、そこにあった草間作品をあらいざらい現金で買ってしまったらしい。
どこで買おうとご自由だが、私の方が安いからといってそのお店での買い物をキャンセルするなんてことは困ります、とやせ我慢のお返事をした（とほほ、せっかく売れると思ったのに）。

ときの忘れものは南青山3-3-3という不動産屋さんが泣いて喜ぶようないい番地ですが、通りからはひっこんでおり、通りすがりの客が入ってくるなんてことは100％ない。
いまこのあたりの家賃は高騰し続けており、ここから僅か数百メートルの表参道の路面店の家賃は坪20万円なんて信じられないところもあるらしい。
ときの忘れものの広さは23坪だから、月の家賃460万円に相当する（ヒェー、年間5520万円！）。
とてもそんな資力はありませんが、上記のようなことがあると、なるほど路面店というのはフリの客が来てン百万円の買い物もするんだなあ、としみじみ感嘆した次第であります。
昔、大先輩の画商さんは「画廊と食べ物やは同じだ。うまくて安ければ遠くても客は電車にのってでもやって来る」とおっしゃいましたが、お客さま、どうか浮気しないでまっすぐに私の店に来てくださいね。

草間彌生149かぼちゃ白Ｔ
草間彌生 Yayoi KUSAMA
「かぼちゃ（白Ｔ）」
　　1992　Screenprint
　　Image Size 72.3×60.4cm
　　Ed.120　　Signed
　　＊レゾネ（阿部出版　2005年新版）No.149

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