『洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵』という長いタイトルの本が求龍堂から6月に刊行されました。
文・洲之内徹
画・洲之内コレクション「気まぐれ美術館」
320ページ、3,150円
―――どんな絵がいいかと訊かれて、ひと言で答えなければならないとしたら、私はこう答える。
「買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵なら、まちがいなくいい絵である」と。
―――洲之内徹
洲之内さんが亡くなったのは1987年(昭和62)10月、享年74でした。
ご存知ように生前の洲之内さんは銀座で現代画廊を経営しており、文章家としても『芸術新潮』に長期にわたりエッセイを連載され、多くのファンに囲まれていました。
今回出版された本には、佐藤哲三、梅原龍三郎、松本竣介、海老原喜之助、野田英夫、浅井忠、難波田龍起、萬鉄五郎、靉光、恩地孝四郎、吉岡憲、青木繁、北脇昇、長谷川利行、藤牧義夫、村山槐多など近代日本美術史を彩った作家たちに混じり、小野隆生作品も掲載されています。いわゆる「洲之内コレクション」といわれる作品群です。


左は本書の156~157ページに掲載された小野隆生の「少年(1976)」と「記憶(1977)」の2点。
1976年5月24日~6月2日の会期で小野隆生の初個展が洲之内徹経営の銀座・現代画廊で開催されました。
その当時の小野先生については、『芸術新潮』に連載された「気まぐれ美術館」に洲之内さんが詳しく書いているのでここでは触れませんが(新潮文庫『帰りたい風景 気まぐれ美術館』参照)、小野隆生の出発点が現代画廊にあり、その頃の作品を洲之内さんは死ぬまで自分のアパートに保管していました。没後それらは、他の作品とともに洲之内コレクション「気まぐれ美術館」として一括して宮城県美術館に収蔵されました。
1994年開催の宮城県美術館の「洲之内コレクションー気まぐれ美術館ー」図録には146点が収録されていますが、小野隆生作品は洲之内さんが最後まで手放さなかった、つまり盗んでも自分のものにしたかった絵ということになるでしょうか。
昨年、伊東の池田20世紀美術館で個展の開催が決定したとき、お手伝いの私たちはてっきり初期から近作までを網羅した回顧展になるものと思い、当然のことながら、宮城県美術館からもお借りすることになるのだろうなあと思っていました。
ところが、小野先生は「回顧展は俺が死んでからにしてくれ」とおっしゃり、ここ15年間の仕事に限定して出品作品を自選されました。だから1992年以前の作品は出品されていません。
愛すべき初期作品、洲之内コレクションの2点がのちの大作群とともに展示されるのは、いましばらく時間がかかりそうですね。
洲之内コレクションの一点「記憶」は姉弟らしき二人が描かれていますが、小野先生の記憶によれば同じようなモチーフの作品を当時8点ほど制作したようです。
ときの忘れものも一点所蔵しています。

小野隆生「失くした記憶」
1976年 油彩・画布 17.9×13.9cm
わがときのわすれものの家宝ともいうべき絵ですが、もともとの所蔵者はMORIOKA第一画廊の上田浩司さんです。盛岡の上田さんの画廊の事務所の壁に長い間、この絵が飾ってありました。私が小野隆生の才能にようやく気づいたのは1989年頃ですが、「売らない」という上田さんを再三再四口説いて「ときの忘れものが潰れない限り売りません」と宣言してようやく強奪に成功した絵です。(盗んだわけではありません)
小野先生は、現代画廊での初個展から30年経った昨年のときの忘れものの個展で、下のような、これも姉弟らしき肖像画を発表されました。
果たして、上の2点の作品とどういう・・・想像がふくらみます。

小野隆生「時計の音だけが聞こえる」
2007年 テンペラ・画布
220.0×80.0cm
池田20世紀美術館カタログno.59
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆6月26日~9月30日までの三ヶ月間、伊豆の伊東にある池田20世紀美術館で「小野隆生展 描かれた影の記憶 イタリアでの活動30年」が開催されています。展示の様子はスライドショーでご覧になれます(コチラをクリックしてください)。
池田20世紀美術館発行の展覧会カタログ(1,800円、送料無料)のご注文はコチラからどうぞ。
文・洲之内徹
画・洲之内コレクション「気まぐれ美術館」
320ページ、3,150円
―――どんな絵がいいかと訊かれて、ひと言で答えなければならないとしたら、私はこう答える。
「買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵なら、まちがいなくいい絵である」と。
―――洲之内徹
洲之内さんが亡くなったのは1987年(昭和62)10月、享年74でした。
ご存知ように生前の洲之内さんは銀座で現代画廊を経営しており、文章家としても『芸術新潮』に長期にわたりエッセイを連載され、多くのファンに囲まれていました。
今回出版された本には、佐藤哲三、梅原龍三郎、松本竣介、海老原喜之助、野田英夫、浅井忠、難波田龍起、萬鉄五郎、靉光、恩地孝四郎、吉岡憲、青木繁、北脇昇、長谷川利行、藤牧義夫、村山槐多など近代日本美術史を彩った作家たちに混じり、小野隆生作品も掲載されています。いわゆる「洲之内コレクション」といわれる作品群です。


左は本書の156~157ページに掲載された小野隆生の「少年(1976)」と「記憶(1977)」の2点。
1976年5月24日~6月2日の会期で小野隆生の初個展が洲之内徹経営の銀座・現代画廊で開催されました。
その当時の小野先生については、『芸術新潮』に連載された「気まぐれ美術館」に洲之内さんが詳しく書いているのでここでは触れませんが(新潮文庫『帰りたい風景 気まぐれ美術館』参照)、小野隆生の出発点が現代画廊にあり、その頃の作品を洲之内さんは死ぬまで自分のアパートに保管していました。没後それらは、他の作品とともに洲之内コレクション「気まぐれ美術館」として一括して宮城県美術館に収蔵されました。
1994年開催の宮城県美術館の「洲之内コレクションー気まぐれ美術館ー」図録には146点が収録されていますが、小野隆生作品は洲之内さんが最後まで手放さなかった、つまり盗んでも自分のものにしたかった絵ということになるでしょうか。
昨年、伊東の池田20世紀美術館で個展の開催が決定したとき、お手伝いの私たちはてっきり初期から近作までを網羅した回顧展になるものと思い、当然のことながら、宮城県美術館からもお借りすることになるのだろうなあと思っていました。
ところが、小野先生は「回顧展は俺が死んでからにしてくれ」とおっしゃり、ここ15年間の仕事に限定して出品作品を自選されました。だから1992年以前の作品は出品されていません。
愛すべき初期作品、洲之内コレクションの2点がのちの大作群とともに展示されるのは、いましばらく時間がかかりそうですね。
洲之内コレクションの一点「記憶」は姉弟らしき二人が描かれていますが、小野先生の記憶によれば同じようなモチーフの作品を当時8点ほど制作したようです。
ときの忘れものも一点所蔵しています。

小野隆生「失くした記憶」
1976年 油彩・画布 17.9×13.9cm
わがときのわすれものの家宝ともいうべき絵ですが、もともとの所蔵者はMORIOKA第一画廊の上田浩司さんです。盛岡の上田さんの画廊の事務所の壁に長い間、この絵が飾ってありました。私が小野隆生の才能にようやく気づいたのは1989年頃ですが、「売らない」という上田さんを再三再四口説いて「ときの忘れものが潰れない限り売りません」と宣言してようやく強奪に成功した絵です。(盗んだわけではありません)
小野先生は、現代画廊での初個展から30年経った昨年のときの忘れものの個展で、下のような、これも姉弟らしき肖像画を発表されました。
果たして、上の2点の作品とどういう・・・想像がふくらみます。

小野隆生「時計の音だけが聞こえる」
2007年 テンペラ・画布
220.0×80.0cm
池田20世紀美術館カタログno.59
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◆6月26日~9月30日までの三ヶ月間、伊豆の伊東にある池田20世紀美術館で「小野隆生展 描かれた影の記憶 イタリアでの活動30年」が開催されています。展示の様子はスライドショーでご覧になれます(コチラをクリックしてください)。
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