池上ちかこさんが連載エッセイ<小野隆生の「断片」をめぐって>の最終回で上野の国立西洋美術館で開催されている「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展に触れられましたが、あまりの偶然に驚きました。
私も、小野隆生をハンマースホイと重ねてみていました。

最近記憶力がとみに衰えてよく思い出せないのですが、昔、20年くらい前、西武美術館だったかで北欧の美術展(3人か4人?)があり、静まり返った室内を描くハンマースホイ(当時はハンマーショイといったような気がする)の作品を見て強い衝撃を受けました。カタログもあったはずなのですが、見つかりません。例によって倉庫の奥深く埋もれているに違いない。
寒々とした暗いグレーの色調、端正な筆で描かれる室内にひっそりと佇む人、温度も音も無い孤独で静寂な世界に私はすっかり魅せられてしまいました。その後、仕事でヨーロッパに行く機会が増えたのですが、この作家の作品に巡り合うことはなく、コペンハーゲンに行く機会も持てませんでした。
その作家の大規模な展覧会が東京で開催されている、長生きするものですね。
今泉篤男先生は、展覧会の会場に入るとぐるっと見回し、これぞと目に入った作品に真っ直ぐに向かい、その他大勢の作品には目もくれず会場を後にしたといいます。それを真似するわけではありませんが、私も最初から一点一点順繰りに見ていくような仕方はせず、まず自分の目に飛び込んできた作品に向かい、その前後を見、おしまいまでいったら、また引き返して、入り口から出るという観覧方法をいつもとっています。
今回、いくつかの部屋に分けられて展示されたハンマースホイの作品を行きつ戻りつして、初めてこの画家の作品に出会ったとき、なぜあんなに衝撃を受けたのかを思い出していました。何の予備知識もなく私はハンマースホイの作品に接したのですが、気味の悪いほど静かな荒涼たる室内を描いていながら、よくある悪趣味の絵画とは異なる品格がある。確固とした絵画への信頼がある、写真では表現できない(写真を参照して描いていながら)世界を築いている。私は救われたような気持ちになりました。
私は偶然ともいえるきっかけから、美術の世界に入り、自分が美しいと信じた画家の絵を売り買いすることで生計をたててきたのですが、それが売れればいいけれど、なかなか売れない。そんな状態が続くと、自分の眼に自信がなくなる。美術そのものへの信頼さえもが揺らいでいた。
そんな時期に私はこの画家に出会いました。絵画の素晴らしさを再確認させてくれた。前後して私は小野隆生の作品を買い出しました。無意識にこの二人の画家を繋げて考えていたようです。小野隆生の作品を最初に買ったのは奈良の西田画廊さんからで素描でした。その後「ときの忘れもの」を開廊し、最初の個展が1995年秋の小野隆生展でした。
そんな昔を思い出しながら、西洋美術館の会場をあとにしました。ハンマースホイの絵の暗鬱な空と異なり、秋晴れの気持ちのよい一日でした。
私も、小野隆生をハンマースホイと重ねてみていました。

最近記憶力がとみに衰えてよく思い出せないのですが、昔、20年くらい前、西武美術館だったかで北欧の美術展(3人か4人?)があり、静まり返った室内を描くハンマースホイ(当時はハンマーショイといったような気がする)の作品を見て強い衝撃を受けました。カタログもあったはずなのですが、見つかりません。例によって倉庫の奥深く埋もれているに違いない。
寒々とした暗いグレーの色調、端正な筆で描かれる室内にひっそりと佇む人、温度も音も無い孤独で静寂な世界に私はすっかり魅せられてしまいました。その後、仕事でヨーロッパに行く機会が増えたのですが、この作家の作品に巡り合うことはなく、コペンハーゲンに行く機会も持てませんでした。
その作家の大規模な展覧会が東京で開催されている、長生きするものですね。
今泉篤男先生は、展覧会の会場に入るとぐるっと見回し、これぞと目に入った作品に真っ直ぐに向かい、その他大勢の作品には目もくれず会場を後にしたといいます。それを真似するわけではありませんが、私も最初から一点一点順繰りに見ていくような仕方はせず、まず自分の目に飛び込んできた作品に向かい、その前後を見、おしまいまでいったら、また引き返して、入り口から出るという観覧方法をいつもとっています。
今回、いくつかの部屋に分けられて展示されたハンマースホイの作品を行きつ戻りつして、初めてこの画家の作品に出会ったとき、なぜあんなに衝撃を受けたのかを思い出していました。何の予備知識もなく私はハンマースホイの作品に接したのですが、気味の悪いほど静かな荒涼たる室内を描いていながら、よくある悪趣味の絵画とは異なる品格がある。確固とした絵画への信頼がある、写真では表現できない(写真を参照して描いていながら)世界を築いている。私は救われたような気持ちになりました。
私は偶然ともいえるきっかけから、美術の世界に入り、自分が美しいと信じた画家の絵を売り買いすることで生計をたててきたのですが、それが売れればいいけれど、なかなか売れない。そんな状態が続くと、自分の眼に自信がなくなる。美術そのものへの信頼さえもが揺らいでいた。
そんな時期に私はこの画家に出会いました。絵画の素晴らしさを再確認させてくれた。前後して私は小野隆生の作品を買い出しました。無意識にこの二人の画家を繋げて考えていたようです。小野隆生の作品を最初に買ったのは奈良の西田画廊さんからで素描でした。その後「ときの忘れもの」を開廊し、最初の個展が1995年秋の小野隆生展でした。
そんな昔を思い出しながら、西洋美術館の会場をあとにしました。ハンマースホイの絵の暗鬱な空と異なり、秋晴れの気持ちのよい一日でした。
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