「中山岩太のニュープリントを制作して」
講師 比田井一良氏(ラボテイク)
金子隆一氏(東京都写真美術館専門調査員)
日時 2009年1月25日(日) 18時30分~20時30分
会場 東京都写真美術館 創作室
昨日、東京都写真美術館で開催中の「中山岩太展」の関連イベントとして、上記の講演会があり、聴講してまいりました。当日の10時から整理券を配布したそうですが、10時に来た方もいらしたようで、用意した50席は、熱心な参加者でほぼ満席になりました。
会場には、今回の展覧会のために新たにプリントしたもののボツになったプリントや、同じネガから10年前にプリントしたものが用意されていて、講演が始まる前に各自じっくり見ることが出来ました。
金子先生の質問に比田井氏が答えるというかたちで進行しましたが、以下、お二人の言葉を便宜的にまとめてあります。今回の中山岩太展は、お二人の10年前からの企画で、最初はニュープリントのみでの開催を考えたのですが、最終的には中山自身がプリントした作品とともに展示することになったということで、そういった開催までの10年間も振り返りました。
比田井氏は1951年生まれ、写真のプリンターとして古いネガからのプリントに取り組んでいらっしゃいます。古いネガからのプリントをしようと思い立ったのは、写真美術館での「日本の近代写真の成立と展開」という展示を見て、「写真の青春時代」をそこに感じ、当時の写真家に成り代わってプリントしたいと思ったからだそうです。
金子先生と比田井氏の最初の仕事は、黒川翠山(1882-1944)の比叡山の写真をプリントするというもので、比田井氏は、撮影場所を見ようと比叡山まで出かけたそうです。オリジナルのプリントは、経年のため黄ばんでいたので、印画紙を染料で染めてオリジナルに近づけようとしたものの失敗に終わりました。それは、オリジナルのレプリカでしかなく、プリントとしての説得力がなくなってしまったからでした。ネガから素直にプリントしたものが良かったそうです。
次に、中山岩太の「上海から来た女」をイルフォードの純黒調の印画紙にプリントしましたが、非常にデリケートなネガで、バランスをとるのが難しく、完成を見ないままになりました。
その後、2001年、東京ステーションギャラリーでの「山本悍右展」の展示用と、カタログの特装版に挿入するプリントを制作。特装版のプリントは、キャビネサイズくらいでしたが、裏に著作権者、プリンター、ディレクター三名のサインを入れ、オリジナルと混同されないようにしました。また、これがこの後、ニュープリントを作る際のモデルとなりました。
次は、2004年の「安井仲治展」(松濤美術館)でのニュープリント制作。安井仲治(1903-1942)は、ピグメント印画からゼラチンシルバープリントに変わる時代の作家でした。オリジナルは、ブロムオイルでプリントされた写真を、ゼラチンシルバープリントでプリントし、それを雑巾掛け(プリント表面に油絵の具を塗り、ゼラチン層に染み込ませた後、拭き取り、ピクトリアリズム的な効果を出す方法)したものを作ったそうです。それは、比田井氏が、ブロムオイル印画法をマスターしてなかったのと、時間がなかったせいでそのような方法を取ったのですが、それは、オリジナルのレプリカでもなく、ネガのプルーフプリントでもないものでした。これは、ニュープリントへの、ひとつの答えではないか、と。
左:比田井一良氏、右:金子隆一先生
この続きは、また日を改めて。
◆ときの忘れものでは、1月9日[金]―1月31日[土]まで「エルンスト・ハース写真展」を開催しています。
◆オリジナルプリントを挿入した「ときの忘れものアーカイヴスVol.1 五味彬Yellows」特装版を創刊しました。限定175部、挿入されたプリントは技法、サイズ、イメージなど全てが異なります。
価格7,350円(税込)です。
講師 比田井一良氏(ラボテイク)
金子隆一氏(東京都写真美術館専門調査員)
日時 2009年1月25日(日) 18時30分~20時30分
会場 東京都写真美術館 創作室
昨日、東京都写真美術館で開催中の「中山岩太展」の関連イベントとして、上記の講演会があり、聴講してまいりました。当日の10時から整理券を配布したそうですが、10時に来た方もいらしたようで、用意した50席は、熱心な参加者でほぼ満席になりました。
会場には、今回の展覧会のために新たにプリントしたもののボツになったプリントや、同じネガから10年前にプリントしたものが用意されていて、講演が始まる前に各自じっくり見ることが出来ました。
金子先生の質問に比田井氏が答えるというかたちで進行しましたが、以下、お二人の言葉を便宜的にまとめてあります。今回の中山岩太展は、お二人の10年前からの企画で、最初はニュープリントのみでの開催を考えたのですが、最終的には中山自身がプリントした作品とともに展示することになったということで、そういった開催までの10年間も振り返りました。
比田井氏は1951年生まれ、写真のプリンターとして古いネガからのプリントに取り組んでいらっしゃいます。古いネガからのプリントをしようと思い立ったのは、写真美術館での「日本の近代写真の成立と展開」という展示を見て、「写真の青春時代」をそこに感じ、当時の写真家に成り代わってプリントしたいと思ったからだそうです。
金子先生と比田井氏の最初の仕事は、黒川翠山(1882-1944)の比叡山の写真をプリントするというもので、比田井氏は、撮影場所を見ようと比叡山まで出かけたそうです。オリジナルのプリントは、経年のため黄ばんでいたので、印画紙を染料で染めてオリジナルに近づけようとしたものの失敗に終わりました。それは、オリジナルのレプリカでしかなく、プリントとしての説得力がなくなってしまったからでした。ネガから素直にプリントしたものが良かったそうです。
次に、中山岩太の「上海から来た女」をイルフォードの純黒調の印画紙にプリントしましたが、非常にデリケートなネガで、バランスをとるのが難しく、完成を見ないままになりました。
その後、2001年、東京ステーションギャラリーでの「山本悍右展」の展示用と、カタログの特装版に挿入するプリントを制作。特装版のプリントは、キャビネサイズくらいでしたが、裏に著作権者、プリンター、ディレクター三名のサインを入れ、オリジナルと混同されないようにしました。また、これがこの後、ニュープリントを作る際のモデルとなりました。
次は、2004年の「安井仲治展」(松濤美術館)でのニュープリント制作。安井仲治(1903-1942)は、ピグメント印画からゼラチンシルバープリントに変わる時代の作家でした。オリジナルは、ブロムオイルでプリントされた写真を、ゼラチンシルバープリントでプリントし、それを雑巾掛け(プリント表面に油絵の具を塗り、ゼラチン層に染み込ませた後、拭き取り、ピクトリアリズム的な効果を出す方法)したものを作ったそうです。それは、比田井氏が、ブロムオイル印画法をマスターしてなかったのと、時間がなかったせいでそのような方法を取ったのですが、それは、オリジナルのレプリカでもなく、ネガのプルーフプリントでもないものでした。これは、ニュープリントへの、ひとつの答えではないか、と。
この続きは、また日を改めて。
◆ときの忘れものでは、1月9日[金]―1月31日[土]まで「エルンスト・ハース写真展」を開催しています。
◆オリジナルプリントを挿入した「ときの忘れものアーカイヴスVol.1 五味彬Yellows」特装版を創刊しました。限定175部、挿入されたプリントは技法、サイズ、イメージなど全てが異なります。
価格7,350円(税込)です。
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