このブログが公開される頃、まだ私たちはチューリッヒです。三浦は18日に帰国、直ちにTCAFの搬入作業に入ります。
私たちは19日に帰国して、翌20日(金)から始まる『S氏コレクション駒井哲郎PartⅠ展』に備えます。
とはいってもさすがに一日で展示できるわけはなく、所蔵者のS氏と一緒になって展示作業を行なったのは出国前の11月7日でした。従ってこのブログも7日に予約書き込みしておいたものです。会場スナップも7日撮影のもので、まだ額装ができていないものがあり、正式な展示風景ではありません。全部で29点が出品されます。
一見して「ヘンな展示」だとお思いになりませんか。
同じ作品が、例えば「死んだ鳥の静物」が4点もある、「<人それを呼んで反歌という>表紙」が3点、「食卓にて、夏の終わりに」も3点、「球根たち」が2点、・・・・・
いったいこれはどういうコレクションなのでしょうか。
Sさんは私がまだ現代版画センターをやっていた頃からの駒井ファンですから、かれこれコレクション歴35年になります。
こつこつと集め続けた駒井作品を見たいと私が言うと、Sさんが会社が休みの週末に数点づつご自分で抱えて運び込んだ作品は全部で56点、それ以外にも多数お持ちですから、個人蔵の駒井コレクションとしては屈指のものだと思います。
しかし、ご自分でそれら全部を並べてみたことがない、というところから今回のコレクション展の話がスタートしました。
私は長い間駒井作品を扱ってきて、いくつかの大コレクションも調べていますから大抵のことには驚かない。ところがSさんが持ち込む作品群がだんだん増えて行くのを見ながら私は不思議な感覚に囚われて行きました。個々の作品は既にどこかで見ており、新発見や超珍しいものがあるわけではない、世田谷美術館に寄託されている福原コレクションのような色彩作品群があるわけでもない。
かなり特異なというか、面白いコレクションです。
同じ作品を複数、故意に集めています。
刷りのコンディションなど微妙に異なる、実際に比べてみなければわからない差異を意識的にコレクションの原則としているわけです。
当初、Sさんが提示した展示プランは以下の27点でした。
●「丸の内風景」1938年 レゾネNo.8
●「足場」1942年 レゾネNo.10
●「化石」1948年 レゾネNo.15
●「肖像」1948年 レゾネNo.19
●「月の兎」1951年 レゾネNo.31
△「貝」1962年 レゾネ未収録、都美カタログNo.166
●「肖像 Un Portrait」(<からんどりえ>より、道化)
1960年 レゾネNo.127
●「蝕果実 Fruit gate」<からんどりえ>より、球根たち別刷り
1960年 レゾネNo.128
△「化石」1960年 レゾネNo.135
●「食卓」1962年 レゾネNo.168
△「審判」1962年 レゾネNo.169
●「毒又は魚」1962年 レゾネNo.171
●「鏡」1962年 レゾネNo.172
●「死んだ鳥の静物」1962年 レゾネNo.173
●「黒い鏡」1964年 レゾネNo.177
●「<人それを呼んで反歌という>表紙」別刷り 1965年 レゾネNo.190
●「<人それを呼んで反歌という>より、PL.10 食卓にて、夏の終わりに」
1965年 レゾネNo.200
△「<人それを呼んで反歌という>より、厨房にて」1966年 レゾネNo.199
●「<人それを呼んで反歌という>より、PL.12」1965年 レゾネNo.202
●「<人それを呼んで反歌という>より、PL.7 夕立 原版2点組」
1965年 レゾネNo.197
△「<人それを呼んで反歌という>より、PL.8 夕立」1966年 レゾネNo.198
△「通過」1966年 レゾネNo.208
△「橋」19年 レゾネNo.
●「小鳥たち」1962年 レゾネNo.213
△「囚人」1969年 レゾネNo.238
●「大きな樹」1971年 レゾネNo.288
△「パピヨン」1974年 レゾネNo.308
初期1938年から晩年の1974年までの作品がバランスよく選ばれており、これを見ただけでSさんのコレクションのレベルの高さは一目瞭然です。
私たちは、Sさんが画廊に運び込んだ56点をすべて並べ、先ず、同じ絵柄で複数あるものを優先して選びました。一度に全てを展示できない以上、Sさんのコレクションの特徴を一発でわかる展示にしたかったからです。
久しぶりに多くのものから「選ぶ」醍醐味を味わうことができました。
実際に展示したのが●印のついた作品です。△は今回は外し次回に展示する予定です。
Sさんが当初選んだリストにないものも選びました。
同じものを展示しても少しも飽きない。さすがと思いました。小さな画像ではわからないでしょうが、ぜひ実物を見て、「版画の原点」を追い求めた一人のコレクターの軌跡をぜひお楽しみください。
個々の作品については、後でじっくりご説明しましょう。
展覧会は20日(金)~28日(土)まで、会期中無休です。
コメント