テグ・アートフェア参戦記~浜田宏司
11月26日から最終日29日まで、大邱アートフェアに同行させていただきました。
ボランティア参加の身ですが、貴重な海外アートフェア体験をレポートしてみたいと思います。
先に乗り込んだチームから3日遅れて韓国入りしたのですが、利用した航空会社の機内誌に、ときの忘れものブースで作品を展示している安藤忠雄先生が見開き4ページにわたって紹介されている記事を発見。アテンダントの了解を得て展示資料用として会場に持ち込みました。韓国のメディアに紹介されている事で、作品に対するアテンションとなれば良いのですが・・・。


アートフェアが開催される「大邱(テグ)」は、ソウル~釜山をつなぐ交通の要所としての機能を担う、韓国で四番目に大きな都市です。至る所で高層マンション建設用のクレーンが立ち上がり、市内のあちこちで道路の舗装工事が進められています。今回のアートフェアが開催された展示会場「EXCO」の隣でも大規模な文化施設が建設中でした。
来年には市内に現代美術館も完成するとの事で、緩やかながらも上昇志向にある、経済の勢いが感じられる都市でした。

さて、いよいよ会場に到着。

ときの忘れものブースの三浦さんと合流後、早速会場内を散策しました。
アートフェア三日目(しかも、平日の午前中)という事もあり、閑散とした感じは否めないのですが、来場者は熱心に展示してある作品に見入っているようでした。
まずは、出展している韓国のギャラリーの印象からレポートしたいと思います。

韓国のアートシーンに関する予備知識がほとんど無いので初めて目にする作家も多く、全体的にはペインティングの作品が主流を占める傾向にあるようです。帰国後に気付いたのですが、韓国の画廊ではデッサンや版画の類いの作品をあまり見かけなかったように記憶しています(草間彌生などの海外アーティストと李禹煥を除く)。
取り扱い作家の傾向として、国内作家をメインに扱う画廊と著名な海外アーティストの作品を出展する画廊とに二分化することができるのではないかと感じました。

また、ストローや塩化ビニールのパイプを素材にした奇をてらった作品もいくつか見られました。デジタル系アーティストの作品や写真の展示は少なく、このジャンルのマーケットはまだ未成熟のようです。若手のアーティストの作品に混じって、「李禹煥」のペインティングが数点出展されていましたが、ストイックなその画風からは、風格さえ感じられました。

そういえば、展示スタイルに関して、一つ気付いたことがあります。
それは、総アクリル額裝を施されている作品がやたら多い事です。
以前、ソウルの展示会で訪れた際に知った事なのですが、アクリルの原材料の単価が日本に比べてかなり安い事がその要因の一つだと思います。しかし、中には額裝済みのタブローをアクリルで額裝している作品もありましたし、アルマンのオブジェに至っては、アクリルボックスにペイントした作品を更にアクリルボックスに入れて展示している有様で、個人的にはあまり馴染めない展示方法でした。

また、私見ですが、韓国のギャラリーがセレクトしている海外アーティストの作品にはある種の傾向があるように感じられました。アメリカのコンテンポラリー・アーティストの作家よりも、ヨーロッパの作家の比重が高いことです。
さらに、そのセレクションにも偏りがあるように感じられました。ジュリアン・オピーや、ダミアン・ハーストの作品も数点出展されているのですが、80年代に日本でも積極的に紹介されていた特定アーティストの作品が圧倒的に多い事です。
【会場で見かけた、主なヨーロッパのアーティスト】A.R.ペンク、ジャンピエール・レイノー、アルマン、カレル・アペル、Robret Conbas・・・など。
後に、地元の画廊関係者との会話の中でその理由が判明したのですが、これらの作家は韓国の新進の画廊がここ数年、積極的に展覧会を開催し、特定の作家に関しては、富裕層を中心とした顧客の市場が確立しているとの事です。懐かしいラインナップを目の当たりにして、80年代バブル期の西武美術館(池袋)や銀座の画廊の雰囲気を思い出してしまいました。
それにしても、アートフェア来場者の鑑賞スタイルに関しては、終始ハラハラさせられっぱなしでした。というのも、平然と飲食しながらブースを回ったり、雨の日は濡れっぱなしの傘を抱えたまま作品に近づくので、思わず声をかけてしまうシーンも少なからずありました。この辺りのマナーを、来場者にアナウンスする配慮が主催者側にあっても良いのではないかと思いました。
とかなんとか思いつつ、初日の展示サポートが終了。
ホテルに帰る前に、アートフェア事務局の要職に就かれている大邱画廊協会の会長との会食に参加したのですが、驚いたのはその飲みっぷり!
日本側のスタッフ十数人を相手に、「韓国式乾杯(一気飲み)」で杯を空けてゆくそのスピードたるや、ここは体育会系の合宿か?と圧倒されっぱなしでした。最後には、ご自身の奥様まで呼び出してもてなすそのサービス精神とバイタリティーに頭が下がります。


翌日には尾立さんも合流して、なんとか成果を出すべくリーフレットの配布や作品のセールストークに尽くしたのですが、セールスに繋がるような感触は今一つ得られませんでした。
しかし、小野先生の作品評価は高く、じっくりと時間をかけて鑑賞される方が多く、一度ブースを離れてからも再び訪れて作品を覗き込むように観た後でカタログを購入されるなど、異国でも評価されている事を実感できる場面が多々ありました。週末の来場者に期待したいところです。
そういえば、会期中、例の「ドバイショック」により円が一気に高騰しました。ときの忘れものブースでは、キャプションにUSドルとウオンで作品のプライスを表示していたのですが、為替の変動の対応のため価格表示をウオンに統一する対応に大童でした。
そして、最終日を目前にした土曜日。
遂に小野隆生先生の作品が立て続けに地元コレクターによって購入されました(しかも、大作を含めて3点も!)。接客をアシストしていただいた事務局の通訳さん曰く、大作を購入された一人は、地元の大手企業の社長夫人とのことでした。感心したのはその決断力。韓国国内ではほとんど紹介されていない事に加えて、アートマーケットの流行やオークションレコードに惑わされる事なく、作品のクオリティーのみを拠り所として購入を決断する、その判断と購入価格の交渉力には正直、敬服しました。
最初の一点の販売を皮切りに、草間さんの版画やカタログ類も順調に売れだしました。
なんとか実績を上げて、安堵の息をつく三浦さんの姿を目にして、微力ながら展示協力させていただいた甲斐があったと、こちらも一安心です。

夜の食事は、大邱で一番美味しいといわれているサンゲタン専門店で祝杯をあげて最終日に向けて鋭気を養いました。
今回のアートフェアに同行して気付いた私見をまとめると、少なくとも、作品が売れたこと(しかも、大作!)。そして、KIAFやその他のアートフェアへの参加要請があった事は初回の参加にしては大きな評価と言えるのではないでしょうか。
日本国内の景気の先行きは不透明ながらも、隣国では消費行動にアクティヴなコレクターが存在していて、しかもそのお眼鏡にかなった作品が三点もコレクションされました。一般市場のみならず、グローバル化するアートマーケットに於いて今後の画廊として課題は、如何に異国で評価された作家のコレクションをその地で増やしてゆく施策をとることが出来るか否かに掛かっている事は言わずもがなです。来年の大邱アートフェアへの参加を期待したいところです。
さて、最後になりますが、途中参戦とはいえ、隣国でのアートフェスティバルに参加するという貴重な機会を与えていただいた、ときの忘れものスタッフのご好意には本当に感謝いたします。また、三浦さんのレポートと今回のアートフェアを紹介していただいたギャラリー椿さんのブログに詳しいのですが、アートフェアの実行委員会及び、日本の参加ブースが集まっているエリアを担当していただいた通訳の方々の献身的なサポートには本当に助けられました。そして、日本から参加された画廊のみなさまとは、東京では考えられないほど深くお話をさせていただきました。
今回のアートフェアだけのお付き合いで終わる事無く、韓国でのマーケット開拓や企画展開のためにも継続的なコミュニケーションを図りたいと思っております。
*画廊亭主敬白
ボランティアでご自分の仕事もほっぽりだして参加してくださった浜田さんの渾身のレポートはいかがでしたでしょうか。テグのあと、ソウルにも行った浜田さんがソウルのアート事情も近日中にレポートしてくださるそうなので、そちらもご期待ください。
今回、チューリッヒ、東京、テグと続いたアートフェアは、出品作家やボランティアのお客様のご協力なしにはとても乗り切れませんでした。日本の美術を海外に紹介し市場を作っていくという思いを共にできたことは何より嬉しいことでした。あらためて皆さんに御礼申し上げます。
さて昨日は、「美しいセール」でお買い上げいただいた作品の梱包発送作業で社長は獅子奮迅の活躍(私は昔から不器用なもので足手まとい、力仕事は専ら社長にお任せ)、予想以上の売り上げでしたので発送作業も数日かかります。お客様にはしばらくお待ちくださいますよう。加えてチューリッヒやテグから大きな荷物が戻ってくるので、ここしばらくは画廊は足の踏み場もない惨状です。
週末には2009年最後の企画「細江英公写真展 新版・鎌鼬」(前期=2009年12月15日[火]―12月26日[土])、後期=2010年1月6日[水]― 1月16日[土])の展示作業もしなければなりません。当分はてんやわんやの毎日です。
11月26日から最終日29日まで、大邱アートフェアに同行させていただきました。
ボランティア参加の身ですが、貴重な海外アートフェア体験をレポートしてみたいと思います。
先に乗り込んだチームから3日遅れて韓国入りしたのですが、利用した航空会社の機内誌に、ときの忘れものブースで作品を展示している安藤忠雄先生が見開き4ページにわたって紹介されている記事を発見。アテンダントの了解を得て展示資料用として会場に持ち込みました。韓国のメディアに紹介されている事で、作品に対するアテンションとなれば良いのですが・・・。

アートフェアが開催される「大邱(テグ)」は、ソウル~釜山をつなぐ交通の要所としての機能を担う、韓国で四番目に大きな都市です。至る所で高層マンション建設用のクレーンが立ち上がり、市内のあちこちで道路の舗装工事が進められています。今回のアートフェアが開催された展示会場「EXCO」の隣でも大規模な文化施設が建設中でした。
来年には市内に現代美術館も完成するとの事で、緩やかながらも上昇志向にある、経済の勢いが感じられる都市でした。
さて、いよいよ会場に到着。
アートフェア三日目(しかも、平日の午前中)という事もあり、閑散とした感じは否めないのですが、来場者は熱心に展示してある作品に見入っているようでした。
まずは、出展している韓国のギャラリーの印象からレポートしたいと思います。
取り扱い作家の傾向として、国内作家をメインに扱う画廊と著名な海外アーティストの作品を出展する画廊とに二分化することができるのではないかと感じました。
それは、総アクリル額裝を施されている作品がやたら多い事です。
以前、ソウルの展示会で訪れた際に知った事なのですが、アクリルの原材料の単価が日本に比べてかなり安い事がその要因の一つだと思います。しかし、中には額裝済みのタブローをアクリルで額裝している作品もありましたし、アルマンのオブジェに至っては、アクリルボックスにペイントした作品を更にアクリルボックスに入れて展示している有様で、個人的にはあまり馴染めない展示方法でした。
さらに、そのセレクションにも偏りがあるように感じられました。ジュリアン・オピーや、ダミアン・ハーストの作品も数点出展されているのですが、80年代に日本でも積極的に紹介されていた特定アーティストの作品が圧倒的に多い事です。
【会場で見かけた、主なヨーロッパのアーティスト】A.R.ペンク、ジャンピエール・レイノー、アルマン、カレル・アペル、Robret Conbas・・・など。
後に、地元の画廊関係者との会話の中でその理由が判明したのですが、これらの作家は韓国の新進の画廊がここ数年、積極的に展覧会を開催し、特定の作家に関しては、富裕層を中心とした顧客の市場が確立しているとの事です。懐かしいラインナップを目の当たりにして、80年代バブル期の西武美術館(池袋)や銀座の画廊の雰囲気を思い出してしまいました。
それにしても、アートフェア来場者の鑑賞スタイルに関しては、終始ハラハラさせられっぱなしでした。というのも、平然と飲食しながらブースを回ったり、雨の日は濡れっぱなしの傘を抱えたまま作品に近づくので、思わず声をかけてしまうシーンも少なからずありました。この辺りのマナーを、来場者にアナウンスする配慮が主催者側にあっても良いのではないかと思いました。
とかなんとか思いつつ、初日の展示サポートが終了。
ホテルに帰る前に、アートフェア事務局の要職に就かれている大邱画廊協会の会長との会食に参加したのですが、驚いたのはその飲みっぷり!
日本側のスタッフ十数人を相手に、「韓国式乾杯(一気飲み)」で杯を空けてゆくそのスピードたるや、ここは体育会系の合宿か?と圧倒されっぱなしでした。最後には、ご自身の奥様まで呼び出してもてなすそのサービス精神とバイタリティーに頭が下がります。
翌日には尾立さんも合流して、なんとか成果を出すべくリーフレットの配布や作品のセールストークに尽くしたのですが、セールスに繋がるような感触は今一つ得られませんでした。
しかし、小野先生の作品評価は高く、じっくりと時間をかけて鑑賞される方が多く、一度ブースを離れてからも再び訪れて作品を覗き込むように観た後でカタログを購入されるなど、異国でも評価されている事を実感できる場面が多々ありました。週末の来場者に期待したいところです。
そういえば、会期中、例の「ドバイショック」により円が一気に高騰しました。ときの忘れものブースでは、キャプションにUSドルとウオンで作品のプライスを表示していたのですが、為替の変動の対応のため価格表示をウオンに統一する対応に大童でした。
そして、最終日を目前にした土曜日。
遂に小野隆生先生の作品が立て続けに地元コレクターによって購入されました(しかも、大作を含めて3点も!)。接客をアシストしていただいた事務局の通訳さん曰く、大作を購入された一人は、地元の大手企業の社長夫人とのことでした。感心したのはその決断力。韓国国内ではほとんど紹介されていない事に加えて、アートマーケットの流行やオークションレコードに惑わされる事なく、作品のクオリティーのみを拠り所として購入を決断する、その判断と購入価格の交渉力には正直、敬服しました。
最初の一点の販売を皮切りに、草間さんの版画やカタログ類も順調に売れだしました。
なんとか実績を上げて、安堵の息をつく三浦さんの姿を目にして、微力ながら展示協力させていただいた甲斐があったと、こちらも一安心です。
夜の食事は、大邱で一番美味しいといわれているサンゲタン専門店で祝杯をあげて最終日に向けて鋭気を養いました。
今回のアートフェアに同行して気付いた私見をまとめると、少なくとも、作品が売れたこと(しかも、大作!)。そして、KIAFやその他のアートフェアへの参加要請があった事は初回の参加にしては大きな評価と言えるのではないでしょうか。
日本国内の景気の先行きは不透明ながらも、隣国では消費行動にアクティヴなコレクターが存在していて、しかもそのお眼鏡にかなった作品が三点もコレクションされました。一般市場のみならず、グローバル化するアートマーケットに於いて今後の画廊として課題は、如何に異国で評価された作家のコレクションをその地で増やしてゆく施策をとることが出来るか否かに掛かっている事は言わずもがなです。来年の大邱アートフェアへの参加を期待したいところです。
さて、最後になりますが、途中参戦とはいえ、隣国でのアートフェスティバルに参加するという貴重な機会を与えていただいた、ときの忘れものスタッフのご好意には本当に感謝いたします。また、三浦さんのレポートと今回のアートフェアを紹介していただいたギャラリー椿さんのブログに詳しいのですが、アートフェアの実行委員会及び、日本の参加ブースが集まっているエリアを担当していただいた通訳の方々の献身的なサポートには本当に助けられました。そして、日本から参加された画廊のみなさまとは、東京では考えられないほど深くお話をさせていただきました。
今回のアートフェアだけのお付き合いで終わる事無く、韓国でのマーケット開拓や企画展開のためにも継続的なコミュニケーションを図りたいと思っております。
*画廊亭主敬白
ボランティアでご自分の仕事もほっぽりだして参加してくださった浜田さんの渾身のレポートはいかがでしたでしょうか。テグのあと、ソウルにも行った浜田さんがソウルのアート事情も近日中にレポートしてくださるそうなので、そちらもご期待ください。
今回、チューリッヒ、東京、テグと続いたアートフェアは、出品作家やボランティアのお客様のご協力なしにはとても乗り切れませんでした。日本の美術を海外に紹介し市場を作っていくという思いを共にできたことは何より嬉しいことでした。あらためて皆さんに御礼申し上げます。
さて昨日は、「美しいセール」でお買い上げいただいた作品の梱包発送作業で社長は獅子奮迅の活躍(私は昔から不器用なもので足手まとい、力仕事は専ら社長にお任せ)、予想以上の売り上げでしたので発送作業も数日かかります。お客様にはしばらくお待ちくださいますよう。加えてチューリッヒやテグから大きな荷物が戻ってくるので、ここしばらくは画廊は足の踏み場もない惨状です。
週末には2009年最後の企画「細江英公写真展 新版・鎌鼬」(前期=2009年12月15日[火]―12月26日[土])、後期=2010年1月6日[水]― 1月16日[土])の展示作業もしなければなりません。当分はてんやわんやの毎日です。
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