今回のお薦め写真は、現在開催中の「The NUDE」展より、大坂寛「妖精の森」をご紹介いたします。
大坂寛氏の初期の「Syzygy」や「Venus」のシリーズは、薄い膜を通して見える画像、つまり、被写体の輪郭がはっきりせず、周囲と溶解した感覚の写真でした。それはまさにエロスとタナトスの世界で、学生時代ハンス・ベルメールに魅了されたことにその心的ルーツを求めることが出来るでしょう。その後の「Recollection」のシリーズでは、より感覚が死へ向かって行きます。合間に撮影された山の風景のシリーズでも、まるで死の世界を撮ったようです。それ迄は世紀末的な衝動だったのか、2000年を過ぎて、カメラは森に入ります。その森の生気の中で撮影されたのが、この「妖精の森」のシリーズです。それまでとは違った気を感じる作品で、モデルと自然の均衡が取れていて、明らかに作家の意識の転換が見て取れます。この後、各地の巨木を撮りますが、作家の関心は「朽ちて行く」ほうでなく、「より長い生命・時間」のほうに向いています。そして、最新の「ボタニック・ハート」には、はかない花の生命を留めておきたいという、生への執着を感じるのです。常に次回作が楽しみな作家です。

大坂寛
1956年山形県寒河江市生まれ、東京で育つ。1981年日本大学芸術学部写真学科卒業。独創的なヌード作品で高い評価を得て、日本写真家協会展グランプリをはじめ、国内外で多数の賞を受賞。東京都写真美術館、ヒューストン美術館などに作品が収蔵されている。個展、グループ展を多数開催。2009年には、植物を美しいライティングによって捉えた「botanic heart」のシリーズを発表するなど、意欲的な作家活動を続けている。

osaka_01_yousei-1大坂寛
「妖精たちの森 1」
2001年(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
28.7×22.7cm Ed.20 サインあり

osaka_02_yousei-2大坂寛
「妖精たちの森 2」
2001年(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
28.7×22.7cm Ed.20 サインあり

osaka_03_yousei-3大坂寛
「妖精たちの森 3」
2001年(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
28.7×22.7cm  Ed.20 サインあり

osaka_04_yousei-4大坂寛
「妖精たちの森 4」
2001年(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
28.7×22.7cm  Ed.20 サインあり

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◆ときの忘れものは、2010年4月13日[火]―4月24日[土]「The Nude 写真展」を開催しています。
NUDE展DMロバート・メイプルソープ、細江英公、マン・レイ、植田正治、ジョック・スタージス、イリナ・イオネスコ、カリン・シェケシー、エレン・フォン・アンワース、中島秀雄、大坂寛、井村一巴、五味彬、服部冬樹、菅原一剛たちのヌード作品をご紹介します。