美術展のおこぼれ 2

鹿島茂コレクション1 グランヴィル-19世紀フランス幻想版画展
会期:2011年2月23日―4月3日
会場:練馬区立美術館
練馬区立美鹿島C展

 目黒に行ったついでにもうひとつの区美術館にも寄ることにした。ついでに、と考えたのがまちがいだった。圧倒的な点数(約240)、しかも小さい版画や書籍だからひとつひとつ目を凝らして観賞することになる。その内容があまりに面白いので適当に端折って見ることもできない。さいわい練馬区立美術館はりっぱなソファを用意しているので、途中途中で休みながらだったが、圧倒されたのは版画点数そのもの以上に、それを集めたのが鹿島茂個人であることだった。
 フランス文学者としての、また古書愛好家としての彼のことはそれなりに知っていたし、迫力ある風貌にも著作にもなじんでいたつもりだが、これほどの徹底ぶりには唖然と頭が下がるばかりである。J.J.グランヴィルの版画はだれでもすこしは知っていると思うが、実はこの展示でやっとその一端を知ることになったのではないか。
 カタログを購入していないので、朝日新聞3月2日夕刊の記事に頼ると、この企画展は鹿島の「尨大なコレクションを3回にわけて順次公開する」という。あと2回も楽しめるわけだが、19世紀フランスの様相がさらに拡がりを見せるのだろうか。グランヴィルには諷刺画家の肩書がつくことがあるが、たとえばドーミエみたいな破壊的筆致ではなく、どこか穏やかな皮肉といった感じで、だから「ロビンソン・クルーソー」や「ガリバー」の挿絵や、動物や植物の人間化を描いた「幻想版画」への移行がより自然に思えるし、その先から新しいイメージがあふれ出ている。シュルレアリスムの画家たちに強い影響を及ぼしたというのにもうなずける。マックス・エルンストの描く植物のメタモルフォーゼ、あるいは動物と機械と人間とが合体したようなイメージはグランヴィルから触発されたとしたら、と興味は深まる一方なのだった。(うえだ まこと