写真研究の小林美香さんには毎月10日と25日に「写真のバックストーリー」と題したエッセイを連載していただいていますが、原稿が届くたびに「えっ、この写真はこういう具合に撮られたんだ」と驚くことばかりで、まるで碩学の名講義を拝聴している気分です。
毎回とり上げていただいている写真は全てときの忘れもののコレクションです。
つまり、当方のお仕着せで在庫のデータと画像を小林さんに送り、それを小林さんが調べ執筆されています。小林さんにとっては実に迷惑な話で、当方は新米なものですからほとんどの話が初耳でして(お恥ずかしい限り)、手前味噌ながら「我が社のコレクションって意外と名作なのね」などと一人悦に入っています(小林さん、すいません)。
昨日の第12回でとり上げていただいたルディ・バークハートの写真は亭主が1983年にジョナス・メカスさんからフィルムアーカイヴス賛助計画のために託され売った作品で、そのお客様から20数年ぶりに買い戻した作品です。亭主はあほなことに売ったことをすっかり忘れており、お客様に「いい作品ですね、どこから買ったんですか」などと尋ね失笑されてしまいました。
今後ともご愛読願います。

昨25日皇居前の東京會舘で辻佐保子さんのお別れ会が開かれ、社長とともに出席してきました。
会場の遺影の前には皇后陛下からの供花が飾られ、主に研究者、大学関係の多くの人たちが集まりました。
昨年末急逝されたときにも書きましたが、辻邦生・佐保子ご夫妻には長い間、お世話になりました。
辻邦生先生に初めて原稿をお願いしたのは1975年で、木村茂先生の銅版画シリーズ<日本の街>第二集『軽井沢』に挿入したエッセイでした。
軽井沢のお二人の別荘が磯崎新・宮脇愛子ご夫妻の隣りなものですから、磯崎先生との打合せに行くたびに辻先生たちにもお目にかかることが多いのでした。
磯崎新先生や宮脇愛子先生の私共での展覧会には必ず仲良くお二人でいらっしゃいました。
佐保子さんに最後にお目にかかったのは、亡くなる一月ほど前、これも悲しいことですが磯崎新先生を40年間にわたり秘書として支えた網谷淑子さんのお別れ会でした。
昨日の会では、青柳正規先生(東京国立近代美術館館長)と高階秀爾先生(大原美術館館長)が佐保子さんの中世美術史家としての業績を称え、男社会だった美術学界にオーソドックスな研究の手法で果敢に立ち向かった姿を偲ばれました。
4月には佐保子さんの育った名古屋のご実家に「辻邦生・辻佐保子記念館」(おひるね茶屋 中の郷/後藤科子工芸館)が開設されるとのことです。
長年親交のあった宮脇愛子先生や美術出版社OBの編集者・上甲みどりさんにもお目にかかり、お元気だった頃の辻ご夫妻の思い出を語り、ご冥福をお祈りした次第です。

湿っぽい話しになってしまいましたが、ときの忘れものでは明日から、大坂寛写真展―唖月色の森[あずきいろのもり](maroon)を開催します。
大坂寛展案内状画像600
Hiroshi OSAKA Photo Exhibition
会期=2012年3月27日[火]―4月7日[土] 
12:00-19:00 ※会期中無休

独創的なヌード作品で高い評価を得て、日本写真家協会展グランプリをはじめ、国内外で多数の賞を受賞し活躍を続ける大坂寛の久々となる個展を開催します。
2000~2002年にかけて撮影し、未発表だった作品ーー双子の姉妹の姿を自然に託し、そこに宿る気配を写し撮った新作シリーズ19点を展示します。
出品リストはホームページに掲載しましたのでご参照ください。
デジタル写真全盛の時代ですが、モノクロフイルムを使い、銀塩印画紙に硫化調色を施したプリントです。銀塩写真のしっとりとした美しさをご覧いただきます。
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この森にやって来ると、かすかに何かの気配を感じる。
そっと目をつぶって、その陰りの深くに耳を澄ませば、
決まって、あの頃描いた理想が聞こえてくる。

私はこれでいいんだ、、。

居場所はここにあって、キミの身体に宿ってはいない。

耳を塞いで、はね返ってくるささやきに心開けば、
変わらない森が、いつもここにある。


             大坂寛
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osaka_16_maroon22
大坂寛 Hiroshi OSAKA
"maroon 22"
2002年(2011年プリント)
ゼラチンシルバープリント
34.3x24.9cm
Ed.12 サインあり

osaka_20_maroon30
大坂寛 Hiroshi OSAKA
"maroon 30"
2001年(2011年プリント)
ゼラチンシルバープリント
33.0x24.0cm
Ed.12 サインあり

■大坂寛 Hiroshi Osaka
1956年山形県生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒業。
1978年JPS展(日本写真家協会)奨励賞、APA国際展(日本広告写真家協会)EUROPHOTO賞、
1982年JPS展(日本写真家協会)グランプリ、1984年JPS展(日本写真家協会)グランプリ、
1985年日本写真協会 新人賞。全国カレンダー展では大蔵省印刷局長賞、日本商工会議所会頭賞、日独交換カレンダー展 銅賞・同、コダック賞 シュツットガルト・ドイツなど多数受賞。
代表作の分身をテーマにしたヌードシリーズ(Syzygy) (Vénus,Végétal) ほか、浮世絵や蒔絵に見られる平面的遠近方表現で、花を通して自己の内面や生命観を投影した(botanic heart)など、多数のシリーズで個展を国内外で開催する。
作品は東京都写真美術館、京都国立近代美術館、日本大学芸術学部写真学科、日本ポラロイド社、美術館プティミュゼ、ポラロイド・インターナシャナル(USA)、ヒューストン美術館(USA)、グラハム・ナッシュ・コレクション(USA)などに永久保存されている。
公式ホームページ:http://www.geocities.jp/hiroshiosaka/

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3月31日[土]17時より大坂寛さんを囲んでレセプションを開きます。是非、お越しください。

写真評論の飯沢耕太郎さんには前回、福田勝治について書いていただきましたが、今回は「大坂寛の新作の行方」について執筆していただきました。明日、掲載予定ですのでぜひお読みください。