光嶋裕介のエッセイ 第5回

第五便:『Melody at Night/Keith Jarrett』(V/VIII)


父の影響でJAZZという音楽には
子供の頃から親近感を覚えてきた。
休みの日には、リビングルームのスピーカーから
いつも大音量でJAZZが流れていた。
マイルズ、エヴァンズ、コルトレーン。

大学生になって建築を勉強するようになり、
ドラフター(製図台)に向かう時間が増えるに連れて、
にぎやか過ぎるポップな音楽より、
落ち着きのあるJAZZの方が心地よかった。

そして、
今でも日付が変わった深夜になると
無性にJAZZが聴きたくなることがある。
なかでも敬愛するピアニストが
キース・ジャレットだ。

75年の『ケルン・コンサート』は
いつ聴いても新しい発見がある名盤中の名盤。
鍵盤の上をキースの身体全体が踊るようにして音楽が生まれ、
包みこまれるようにして彼が音楽と一体になってうなり出す。
神経を極限まで集中させ、研ぎすまされた感性でもって
心が溶けるような即興演奏をキース・ジャレットは披露してくれる。
そんな素晴らしい音楽に包まれると、
目をつぶっただけで、風景が脳裏に浮かんでくることがある。
僕はそんな風景を描き出そうとしているだけなのかもしれない。

まさに同じ時代に生きていて良かったと
思える希有な芸術家、キース・ジャレット。
彼のCDを聴きながら
僕も深夜に銅版画と向き合っている。
針でカリカリと夜の風景を彫り出している。
音楽の世界が導いてくれる世界は無限に大きい。

そんな銅版画シリーズのタイトルを決めるのには、
そう時間はかからなかった。
(こうしまゆうすけ)

銅版画007

光嶋裕介
"Landscape at Night NO.007"
2009年 エッチング、アクアチント
イメージサイズ12.0x30.0cm/シートサイズ27.0x39.5cm
Ed.8+20  サインあり
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