小林美香のエッセイ「写真のバックストーリー」第24回

オリビア・パーカー「羽のあるコンポジション」

羽のあるコンポジション600(図1)オリビア・パーカー
Olivia Parker
「羽のあるコンポジション」
1981年 カラー・ダイ・トランスファー
33.7×39.4cm
Ed.75 signed
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白い紙の上に置かれた三本の羽根。それぞれの羽根の下にはうっすらと光沢を放つ薄片が敷かれています(この作品は、写真集『Under the Looking Glass』(1983)の中で、「Three Feathers, Three Crystals(三本の羽根、3つの結晶)」というタイトルがつけられています)。羽根と鉱物の箔、それぞれの繊細な質感が精緻に捉えられていて、三本の羽根をまっすぐに横に並べてきっちりと収めるようなフレーミングの仕方は、その羽根を宝物として小箱の中に大切にしまっておくような所作を連想させます。
オリビア・パーカー(Olivia Parker,1941-)は大学で美術史を学んだ後、画家として活動を始め、1970年頃から独学で写真を習得し、さまざまなフォーマットのカメラを用いて作品制作に取り組むようになりました。彼女の制作手法は、スタジオの中で被写体を構成して撮影するというもので、初期の作品から植物や果物、鳥、人形、貝殻、本といったモチーフが頻繁に登場します。パーカーのモチーフの選び方には、美術史を学ぶ中で、とくに17世紀のオランダやフランドル派、スペインの静物画の中で、描かれているものが視覚的な要素として象徴的に表していることに興味を持つようになったことが反映されています。彼女は静物画を丹念に描くように、慎重にものを配置し、手を加え、組み合わせることによって、ものとものの間、ものと空間の間に微妙なバランスや関係を作り出していきます。

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 (図2) Shell Beans (1980年頃)
 (図3) Four Pears (1979年)
たとえば、豆の鞘を開いて並べ、ところどころ鞘から豆の粒が外れているように配置した「Shell Beans」(図2)や、洋なしの芯の付け根に赤い紐を結び、上から吊しているかのように垂らした「Four Pears」(図3)のように、モチーフとなるものの形や配置に手を加えて、ものの量感や存在感が手近に感じられるような演出を施しています。周囲の空間や配色の関係と相まって、モチーフの中に微妙なリズムや力の作用が感じられるような画面が作り出されています。
パーカーは単体のモチーフに焦点を合わせるだけではなく、さまざまな要素を画面の中に多層的に組み合わせるような作品も制作しています。古写真や石、薔薇のつぼみを組み合わせた「Gravity」(図4)は、彼女が影響を受けたというジョセフ・コーネルの箱に作品を連想させ、独特の詩的な感覚を喚起させます。

parker23600(図4) Gravity

オリビア・パーカーのように、撮影するものを自分で構成し、綿密な演出を施した上で撮影を行う制作の仕方は、ステージド・フォトグラフィと呼ばれ、1970年代以降、写真表現の展開として注目を集めるようになりました。このような展開は、絵画や彫刻などさまざまなジャンルの芸術家たちが、写真を表現手段の一つとして取り入れるようになったことをも反映しています。パーカーが制作活動を始めた時期に、ジャン・グルーヴァー(1943-2012)バーバラ・カスティン(1936-)サンディ・スコグランド(1946-)のような近い世代の女性の芸術家たちが、それぞれの独自のスケールやヴィジョンを備えたステージド・フォトグラフィを繰り広げ、写真表現の多様性を広げていったということも興味深いことです。
(こばやしみか)