新聞で知りましたが、19日に皇后さまが世田谷美術館で「生誕100年 松本竣介展」をご覧になったようですね。
日曜美術館の再放送もあり、若い世代のファンも増えているようで嬉しい。

ところで11月8日のブログで、千住大橋にある石洞美術館の駒井哲郎展をご紹介しました。
あのときは実物をまだ拝見していなかったので、展覧会を見てから詳しくご報告しようと思っていました。ところが画廊のイベント続きでなかなか時間がとれず、時間ができたと思ったら今度は体調を崩して寝込んでしまった。
12月16日(日)の最終日にようやく駆け込みで見てきました。
素晴らしい展覧会でした。
もっと早くきて皆さんにお勧めするべきでした、後悔しきりです。
20121103駒井哲郎銅版画展 表20121103駒井哲郎銅版画展 裏

駒井哲郎銅版画展
会期=2012年11月3日(土)~12月16日(日)
主催=公益財団法人美術工藝振興佐藤基金
会場=石洞美術館

亭主は駒井哲郎ファンとして今までいろいろな「駒井哲郎コレクション」をご紹介してきました。
質量とも最大最良といっていい「福原コレクション」、
異端のコレクター「S氏コレクション
珠玉の名品揃いの「ワタリウムコレクション
作家との親密な交流が偲ばれる「馬場駿吉コレクション
アートフル勝山の会のリーダーによる「荒井コレクション

もちろんこの他にも福原コレクションと双璧をなす東京都現代美術館をはじめ、埼玉県立近代美術館、大分市美術館にもそれぞれ名うてのコレクターが集めた駒井哲郎コレクションがあります。

コレクションの対象は同じ駒井哲郎なのに、どのコレクションも集めた方たちの情熱・執着・思想を反映して実にバラエティに富んでいる。

コレクターと作家の距離の置き方もコレクションに反映します。
福原さんは会おうと思えば会えるのに、あえて駒井先生と親しい関係を結ぼうとはしなかったらしい。
名古屋の馬場先生は反対に駒井先生と親交し、著書(句集)の装丁も駒井先生に依頼している。

さて今回の佐藤コレクションです。
企業経営者であり、(公財)美術工芸振興佐藤基金の初代理事長・佐藤千壽さん(1918~2008)の収集した駒井コレクションは1949年から1968年にいたる20年間の作品56点からなります。「束の間の幻影」はじめ点数はそう多くはありませんが名品がそろっています。
この時期、いかに佐藤さんが駒井先生の支えになっていたかが如実にわかるコレクションでした。
時間をかけてそれぞれじっくりと論じたいのですが、なにせこの師走。貧乏画廊のスタッフ全員が無事年を越せて、なおかつあまたある取引先への支払いをやりくりせねばならぬ。
次回の宿題とさせてください。
会場で老眼をしばたかせながら全作品の限定番号をメモしてきました。
epreuve d'Artiste 以外の限定番号が記載されているものは以下の作品でした。
1番が多いことは一目瞭然でしょう。駒井先生の最も近くにいたコレクターであることの証左です。
年賀状や書中見舞いにまで限定番号が入っているのには驚きました。
一枚一枚を心をこめて刷り上げ、それを持ってくださるコレクターの顔を思い浮かべながら丁寧に番号とサインを入れる。「版画」の原点を見る思いでした。
レゾネにはない限定番号もあります。駒井作品の限定部数の複雑さはこの連載で幾度も述べてきましたが、また宿題が増えてしまった・・・・

「夢の始まり」(星月夜)レゾネNo.35 1949年 Ed.1/20

「束の間の幻影 ※小さな幻影」レゾネNo.24 1950年 Ed.10/30

「小さな魚」レゾネNo.26 1950年 Ed.XVIII/XX

「ラジオ アクティヴィティ イン マイ ルーム」レゾネNo.23 1950年 Ed.XVII/L

「夢の終り」レゾネNo.47 1951年 Ed.2/20

「Labyrinthe d'heures〔時間の迷路〕」レゾネNo.54 1952年 Ed.17/27

「時間の迷路」レゾネNo.54 1952年 Ed.11/27

「風景」レゾネNo.75 1954年 Ed.5/20
  *レゾネ記載の限定部数はEd.25

「教会の横」レゾネNo.83 1955年 Ed.15/25

「ある空虚」レゾネNo.88 1957年 Ed.3/20

「樹」レゾネNo.90 1958年 Ed.12/20

「賀状(1960年)」レゾネNo.352 1959-60年 Ed.XXI/LXX

「海鳴り」レゾネNo.148 1960年 Ed.9/25

「妖」レゾネNo.156 1961年 Ed.1/20

「実」レゾネNo. 1961年 Ed.1/X
  *レゾネ記載の限定部数はEd.12

「笑う人」レゾネNo.150 1961年 Ed.1/X
*レゾネ記載の限定部数はEd.15

「暑中見舞」レゾネNo.354 1961年 Ed.XLII/L

「庭の小蟲」レゾネNo.206 1961年 Ed.1/20

「oiseau volant et feuilles〔飛んでいる鳥と木の葉〕」レゾネNo.163 1961年 deuxieme etat 6/15

「L'oiseau mort〔死んだ鳥の静物〕」レゾネNo.173 1962年 Ed.1/21

「貝」レゾネNo.162 1962年 Ed.1/X

「嵐」レゾネNo.175 1962年 Ed.1/20

「poisson ou poison(魚または毒)」レゾネNo.171 1962年 E.A. 4/14

「洪水 ※大洪水」レゾネNo.183 1965年 Ed.1/10

「Cirque〔サーカス〕」レゾネNo.188 1965年 Ed.9/11

「橋」レゾネNo.209 1966年 Ed.17/30

詩画集『人それを呼んで反歌という』PL.11「腐刻画」見本刷 レゾネNo.201 1966年 Bon a tirer

「人形」レゾネNo.211 1966年 Ed.1/50

「小鳥たち」1967年 Ed.3/25

「Feuille d'epreuve」レゾネNo. 1967年 Ed.I/X
*みづゑの為のオリジナル版画

「二樹」(雁皮刷り)レゾネNo.278 1967年頃 Ed.4/30

「泉」 1968年頃 ler etage 1/2

「constellation〔星座〕」レゾネNo.167 1962年(刷りは1968年) epr. unique 1968
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前回のブログでは、ある作品に非常に重要な「ある単語」が記入されていたと強調しましたが、それは「constellation〔星座〕」レゾネNo.167 1962年(刷りは1968年)に記載されたepr. unique のことです。
少々亭主の早とちりもあり、ユニークという言葉は他にも使った例があるようなので、これも宿題にしてください。

カタログ(1,500円)もとてもよくできています。

最後にひとつだけ、今回の佐藤コレクションで発掘された珍しい作品をご紹介します。
上(左)が佐藤コレクションの「二樹」(雁皮刷り)、下(右)がときの忘れものが所蔵する「二樹」です。
どこが違うか、どうぞじっくり較べてみてください。
「二樹」はプリント・アートが版元となり頒布し部数も多く(限定200部)ポピュラーな作品ですが、その作品が既にあった作品(限定30部、雁皮刷り)に手を加えたものだったなんて、亭主は全く知りませんでした。
石洞美術館カタログ駒井 二樹

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