ときの忘れものは本日12月30日(日)より新春1月7日(月)まで冬季休廊です。

ただしこのブログは年中無休。
休み中も発信しますので、どうぞお読みください。

数年前どこかでテレビを見た(我が家にはテレビはない)。
いまや世界的な評価を獲得した画家のMさんのドキュメンタリー番組だったが、巨大スタジオで働く大勢の若いスタッフたちの食事がコンビニ弁当だったのに驚いた。
古今東西「食」を粗末にする組織にはろくなものがない、というのが亭主の偏見です。
亭主が知る「食」を大事にする組織には、花森安治の「暮しの手帖」と、磯崎新アトリエがある。
というわけで(なんだかこじつけ)、某月某日磯崎アトリエの忘年会に社長とおしかけてきました。正確にいうと磯崎アトリエは組織を改変、設計事務所としては「イソザキ・アオキ アンド アソシエイツ」になりました。
越年しそうな企画の積み残しの中でも磯崎新先生の作品は最重点企画なのでこの機会を逃すことはできません。
磯崎忘年会1
エディションが途中でストップしたままの磯崎新連刊画文集『百二十の見えない都市』の原稿を社長が必死に催促するも、磯崎先生泰然として聞き流す(涙)。
持参した「まめ」屋の豆大福をうまそうに食べ、若いスタッフやOBたちと談論風発。
残念ながら来年に再アタックしましょう。
いつもは腕自慢の女性スタッフによる豪華な料理がならぶ忘年会、今年は「料理をしたことのない男性スタッフによる鍋料理」でした。さすがグルメ・イソザキの率いるメンバー、味も腕も確かで美味しくいただきました。

さて残り2日となった2012年をいくつか思いつくままに振り返ってみたいと思います。

1)毎月の企画展
画商というのは文字通り「絵(画)を商う」商売ですが、要は仕入れた美術作品を何らかの方法でお客様に納めるのが仕事です。
昔から画商はその方法に苦労してきました。
特定の大パトロンがいてその客だけに売るだけで成り立つようなお金持ち画商ならいいのですが、私たち弱小画商はそうはいかない。
ギャラリーという空間をつくり、そこで企画展(個展やグループ展)を開く。不特定多数のお客に来てもらい、作品を買っていただく、というのが一般的ですね。最もオーソドックスな形態です。
近年はアートフェアへの出展や、ネットでの販売も増えてきました。
ときの忘れものは今年はなんと20回の企画展を開催しました。一日だけ、あるいは三日間だけの特別展などもあったとはいえ、20回というのはときの忘れもののキャパシティからいうとかなり多い。老人の体にはもろにこたえ、亭主は幾度も寝込みました。
第212回)第22回瑛九展 1月13日~1月21日
第213回)銀塩写真の魅力Ⅲ/裸婦は美しい 1月27日~2月4日
第214回)ジョナス・メカス写真展 2月10日~2月25日
第215回)究極のポータブル・ミュージアム“The New York Collection for Stockholm” 
     3月2日~3月10日
第216回)ジョック・スタージス一日展~3.11を忘れない 3月11日
第217回)大坂寛写真展―唖月色の森[あずきいろのもり] 3月27日~4月7日
第218回)ロバート・ラウシェンバーグ展 Part1 4月13日~4月21日
第219回)AKIRA GOMi 1972-2012/ 倉俣史朗&村上麗奈 5月11日~5月19日
第220回)光嶋裕介銅版画展―Landscape at Night 5月29日~6月9日
第221回)アンリ・カルティエ=ブレッソンとロベール・ドアノー写真展 6月15日~6月23日
第222回)宮脇愛子展 6月25日~7月12日
第223回)ロバート・ラウシェンバーグ展 Part2 7月20日~7月28日
第224回)ジョック・スタージス写真展 8月10日~8月18日
第225回)君島彩子新作展―今生縁起 8月24日~9月1日
第226回)野口琢郎展 10月5日~10月13日
第227回)大竹昭子写真展―Gaze+Wonder/NY1980 10月19日~10月27日
第228回)ハ・ミョンウン(河明殷)展 11月2日~11月10日
第229回)井桁裕子作品展―加速する私たち 11月22日~12月1日
第230回)『ジョナス・メカス―ノート、対話、映画』出版記念展 12月6日~12月8日
第231回)松本竣介展(前期) 12月14日~12月29日

多すぎてへろへろになったのですが嬉しいことも多かった。
画商にとって企画展の成功とは「作品がばんばん売れて来場者も多い」ということですが、昨年(2011年)を振り返ると(震災の大きな影響もあり)そういう展覧会は僅かに一回しかなかった。
おかげさまで今年は、宮脇愛子展など重量級の展覧会はもちろん、特に光嶋裕介展、野口琢郎展など若い作家の新作個展が大好評でほぼ完売に近い成績でした。その他にも大入りの展覧会が続き、ときの忘れものにしてはかつてないことでした。
反対に「売り上げゼロ、来場者も少ない」という展覧会もあるにはありました(泣きっ面に蜂)。画商にとってまことに辛いものではありますが、美術史をひもとくと巨匠たちの若き日の展覧会には往々にしてそういうものが多い。
「生前一点も売れなかった」という話は美術史定番のエピソードですね。
そう思って辛かった展覧会も未来へつながる夢が持てたと納得したいものです。

2)ギャラリートーク、イベント
企画展に関連して13人のゲストをお招きしてギャラリー・トークや映画の上映会を開催しました。知性とユーモアあふれる人たちの含蓄あるやり取りは刺激的で、いずれも大盛況でした。
参加して下さった先生方にはあらためて御礼を申しあげます。

●2月18日飯村昭子×植田実(ジョナス・メカス写真展)
DSCF1992植田、飯村、森國20120218

●5月13日五味彬トーク「ウサギのことはウサギに聞け、写真のことは写真家に聞け」(AKIRA GOMi 1972-2012/ 倉俣史朗&村上麗奈)
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●6月1日光嶋裕介×伊熊泰子(光嶋裕介銅版画展―Landscape at Night)
DSCF2842光嶋GT1

●10月12日野口琢郎×浜田宏司野口琢郎展
野口GT2

●10月24日大竹昭子×福岡伸一(大竹昭子写真展―Gaze+Wonder/NY1980)
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●11月24日坪川拓史監督の映画「アリア」(2006年、人形制作で井桁裕子が参加)の上映会
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●12月8日吉増剛造×木下哲夫(『ジョナス・メカス―ノート、対話、映画』出版記念展)
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3)アートフェアへの出展と海外向け陣容強化
ART KYOTO 2012 4月27日~4月29日
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Busan Alternative Market of Art 2012 6月8日~6月10日
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ART OSAKA 2012 7月7日~7月8日
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ART NAGOYA 2012 8月4日~8月5日
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KIAF2012 Korea International Art Fair 9月13日~9月17日
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ULTRA005 10月27日~10月30日
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今年は国内4、海外2の6つのアートフェアに参加しました。
それぞれ新しい出会いや発見もあり、参加してよかったと総括しています。
ただ国内は経費はそうかかりませんが売り上げも少ない。
それに比して海外(ソウルとプサン)は、語学堪能な新人スタッフの活躍で作品もそこそこ売れたのですが、輸送費や飛行機代など経費の負担がばかにならない。痛し痒しですね。

ここ数年の課題は、海外への発信力の強化でした。
ときの忘れものの英文サイトは中身が薄っぺらで、アクセスも極端に少なかった。
何とかせねばと思っても日本語しかできない亭主には手も足も出ない。
ようやく新澤悠と李秀香という、ともに海外生活が長く語学に堪能なスタッフが入社し、英語、フランス語、ハングルに対応できる態勢になりました。
2013年は一層の海外への展開を目指したいと思います。

◆最後に、21世紀の日本を襲った未曾有の悲劇は昨年3月11日の東日本大震災でした。
なかなか復興の進まない被災地の皆さんには心よりお見舞いを申し上げます。
3.11の直後に写真家ジョック・スタージスさんから被災地の皆さんへの支援のために作品が無償で提供されました。展覧会やアートフェアでそれらのスタージス作品を販売し、その全額及び私たちの義援金を合わせ、復興支援のために寄付いたしました。
第一回義援金として、2011年7月1日に1,020,000円を「日本赤十字社」に、
第二回義援金として、2011年12月28日に485,285円を「桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」に、
第三回義援金として2012年11月30日に607,000円を「桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」に、合計2,112,285円を寄付いたしました。
ジョック・スタージスさんに深甚の謝意を表するとともに、私たちは今後も出来ることを続けて行くつもりです。