1989年(平成元年)の今日4月26日、タミジ先生が亡くなられた、95歳でした。

ただいま開催中の「野田英夫・北川民次・国吉康雄展~太平洋に架けた夢」から、北川民次作品をご紹介します。

北川民次を知る人は先ずメキシコを思い浮かべるでしょう。
1914年、北川はアメリカのオレゴン州在住の兄を頼り渡米します。ニューヨークのアート・ステューデンツ・リーグの夜学に通い、ジョン・スローンに師事、学友には国吉康雄がいました。その後1921年にメキシコに渡り、ダビッド・アルファロ・シケイロス、ディエゴ・リベラらと交友を持ち、メキシコ革命を標榜する彼らの壁画運動に影響を受けます。北川は革命後の美術を民衆のものにすることを目指した野外美術学校の教師として活動し、メキシコの児童画に取り組むなかで、アカデミックな美術概念から開放された独自の作風を形成します。

tamiji_06出品No.11)
北川民次
「男」
1934年
素描
46.5x34.0cm
サインあり

この作品は北川が日本に帰国する2年前に描かれました。穏やかな男の表情が印象的です。ところどころ太く引いた線は流動的で、すこし丸まった背中や足に手を掛けているポーズなどからリラックスしているように感じます。メキシコで一人の生活者として日々を送り絵を描いていた北川だからこそ、何気ない人々の一瞬を捉えることが出来たのでしょう。

1936年に帰国し、メキシコの風土や人々をダイナミックな構成によって描いた作品が注目を浴び、二科会に迎えられます。当時ヨーロッパ絵画の影響が強かった日本洋画界の中で北川の作品は異彩を放っていました。社会性や人間性を積極的に作品に取り込んでいたことも北川芸術の象徴といえます。
その頃出会った久保貞次郎は大きな影響を受け、以後生涯にわたり北川芸術の支援者として様々な活動をともにします。

tamiji_03_tekagami出品No.16)
北川民次
「手鏡を持つ母子像」
1947年
油彩
92.0x73.0cm
サインあり

1943年には妻の実家がある瀬戸に移り住みます。戦時中は逼塞していた北川民次が戦後ようやく自由な空気を吸うことによって生まれたこの作品は、他のいわゆるメキシコ風のスタイルとはかなり違います。風刺とユーモアがきいていて、そこが面白いですね。

1978年には二科会の会長に就任するなど日本の画壇を牽引し、1989年に95歳で亡くなるまで、精力的に創作活動を行いました。
社会と向き合い、時代に生きる画家として先駆的な、一つの具体的な可能性を示したことはもっと評価されていいでしょう。労働、母子、戦争、公害、沖縄、教育など北川民次が描いたテーマは、現在もなお、いやむしろ深刻さが増している今日的な問題であり、北川絵画は少しも古びていません。

◆この他の出品作品は下記の通りです。
tamiji_07出品No.12)
北川民次
「女」
素描
52.5x39.0cm
サインあり


tamiji_08出品No.13)
北川民次
「花」
素描
47.5x31.5cm
サインあり


tamiji_09出品No.14)
北川民次
「山を背景に座る母と娘」(原画)
1941年頃
素描
31.0x24.5cm
サインあり


tamiji_10出品No.15)
北川民次
「見物人」(表紙図案或ハ口絵)
1941年頃
素描
24.5x17.0cm
サインあり


tamiji_11出品No.17)
北川民次
「メキシコの浴み」
1941年頃
木口木版
37.5x45.0cm
Ed.100
サインあり
※レゾネNo.32


tamiji_12出品No.18)
北川民次
「浴み」
1957年
木口木版
27.4x39.5cm
Ed.80
サインあり
※レゾネNo.72


tamiji_13出品No.19)
北川民次
「花と二人の女」
1961年
リトグラフ
37.0x27.0cm
Ed.10
サインあり
※レゾネNo.96


tamiji_14出品No.20)
北川民次
「果物を売る女」
1976年
リトグラフ、手彩色
38.0x28.0cm
A.P.(Ed.75)
サインあり
※レゾネNo.329


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北川民次 Tamiji KITAGAWA(1894-1989)
1894年静岡県生まれ。早 稲田大学を中退して1914(大正3)年渡米。ニューヨークのアート・スチューデ ンツ・リーグでジョン・スローンに師事、学友に国吉康雄がいた。1923(大正 12)年メキシコに渡り、シケイロス、リベラ等と交友、メキシコ・ルネサンス を標榜する壁画運動に賛同、またメキシコ郊外のトラルパムで児童美術教育に携わる。1931(昭和6)年タスコに野外美術学校を移して校長となる。1936(昭和 11)年帰国。翌年の第29回二科展に《タスコの祭》ほかを出品し注目を浴びる。
メキシコの風土や人々を描く独特の画風は多くのファンを集め、二科展、日本国際美術展で活躍した。1979(昭和53)年二科会会長となるも同会を退会、以後、悠々自適の生活を送り、明治、大正、昭和、平成の四代を見事に生き抜き、1989年瀬戸で歿した。
まさに大人の風格をもった作家でした。生涯に400点近い版画を制作しています。

◆ときの忘れものでは、2013年4月19日[金]―4月27日[土]「野田英夫・北川民次・国吉康雄展~太平洋に架けた夢」を開催しています(※会期中無休)。
野田北川国吉展太平洋を往来し、アメリカの新天地で芸術家として自己を形成していった野田英夫・北川民次・国吉康雄の油彩、素描、版画など25点を出品します。

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