君島彩子のエッセイ「墨と仏像と私」 第4回
「妙見菩薩」
先月、千葉市美術館で開催されていた特別展「仏像半島―房総の美しき仏たち―」を鑑賞してきた。千葉市美術館は、浮世絵から現代美術まで色々な企画の展覧会がされており、私の好きな美術館のひとつである。
房総半島の仏像で「仏像半島」というネーミングセンスもなかなか素敵であるが、展覧会のタイトルに負けないくらい、出品されている仏像も素晴らしいものばかりであった。その中でも「七仏薬師と妙見菩薩」は、房総半島にゆかりの深い仏像であり、千葉ならではの特集展示で、たいへん興味深かった。特に妙見菩薩は以前、千葉市立郷土博物館でも鑑賞していたので、千葉にゆかりの深い仏像であることは知っていたが、今回の展示は郷土博物館よりも、さらに充実した内容であった。
妙見菩薩は、北斗七星または北極星を神格化した菩薩である。古代中国の思想では、北極星は天帝と見なされた。「妙見」とは「優れた視力」という意味で、善悪や真理をよく見通す者ということである。星宿信仰に仏教思想が入り「菩薩」の名が付けられ、妙見菩薩と呼ばれるようになった。
中世には千葉氏、大内氏ら地方の豪族や武士の間で、守護神や軍神として多く信仰された。近世に入ると、星の信仰するところから商業の神、さらに「妙見」という名前から眼病平癒の神などとして、民衆に広く信仰されていた。つまり、特定の信仰のみの仏ではないのである。
妙見菩薩信仰には星宿信仰に道教、密教、陰陽道など様々な信仰の中から生まれたものであるため、像容も一定していない。二臂および四臂、忿怒形や童子形、菩薩形など基本的造形も様々である。また、甲冑を着けた武将形で玄武(亀と蛇の合体した想像上の動物で北方の守り神)に乗るもの、雲中に座ったり青龍の上のに立つもの、唐服を着て笏を持った陰陽道系の像など信仰の広がりとともに、様々な造形的要素が付け加えられた。
「仏像半島」では、多数の妙見菩薩が一同に展示され、その造形の多様性を改めて確認することができた。私は、童子形で玄武に乗った妙見菩薩が特に気に入っている。

妙見菩薩は様々な信仰の中から生まれた仏であり、本来仏典に書かれた仏とは異なる。そして星という形のないものに、具体的な形を与えることは、世界中の神話と共通するところである。経典に書かれた姿を忠実に再現するのではなく、信仰の中から様々な造形が生み出すことは非常にクリエイティブな作業であり、学ぶことが多かった。
そして自分自身の作品における、メタファー的な人物像について改めて考えてみたいと思っている。
(きみじまあやこ)
■君島彩子 Ayako KIMIJIMA(1980-)
1980年生まれ。2004年和光大学表現学部芸術学科卒業。現在、大正大学大学院文学研究科在学。
主な個展:2012年ときの忘れもの、2009年タチカワ銀座スペース ���tte、2008年羽田空港 ANAラウンジ、2007年新宿プロムナードギャラリー、2006年UPLINK GALLERY、現代Heigths/Gallery Den、2003年みずほ銀行数寄屋橋支店ストリートギャラリー、1997年Lieu-Place。主なグループ展:2007年8th SICF 招待作家、2006年7th SICF、浅井隆賞、第9回岡本太郎記念現代芸術大賞展。
◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
・大竹昭子さんのエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
・土渕信彦さんのエッセイ「瀧口修造の箱舟」は毎月5日の更新です。
・君島彩子さんのエッセイ「墨と仏像と私」は毎月8日の更新です。
・植田実さんのエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
同じく植田実さんのエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」は毎月15日の更新です。
「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
・鳥取絹子さんのエッセイ「百瀬恒彦の百夜一夜」は毎月16日の更新です。
・井桁裕子さんのエッセイ「私の人形制作」は毎月20日の更新です。
バックナンバーはコチラです。
・小林美香さんの新連載「母さん目線の写真史」は毎月25日の更新です。
・新連載「スタッフSの海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
・故・針生一郎の「現代日本版画家群像」の再録掲載は毎月28日の更新です。
・浜田宏司さんのエッセイ「展覧会ナナメ読み」は随時更新します。
・荒井由泰さんのエッセイ「マイコレクション物語」は終了しました。
・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
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「妙見菩薩」
先月、千葉市美術館で開催されていた特別展「仏像半島―房総の美しき仏たち―」を鑑賞してきた。千葉市美術館は、浮世絵から現代美術まで色々な企画の展覧会がされており、私の好きな美術館のひとつである。
房総半島の仏像で「仏像半島」というネーミングセンスもなかなか素敵であるが、展覧会のタイトルに負けないくらい、出品されている仏像も素晴らしいものばかりであった。その中でも「七仏薬師と妙見菩薩」は、房総半島にゆかりの深い仏像であり、千葉ならではの特集展示で、たいへん興味深かった。特に妙見菩薩は以前、千葉市立郷土博物館でも鑑賞していたので、千葉にゆかりの深い仏像であることは知っていたが、今回の展示は郷土博物館よりも、さらに充実した内容であった。
妙見菩薩は、北斗七星または北極星を神格化した菩薩である。古代中国の思想では、北極星は天帝と見なされた。「妙見」とは「優れた視力」という意味で、善悪や真理をよく見通す者ということである。星宿信仰に仏教思想が入り「菩薩」の名が付けられ、妙見菩薩と呼ばれるようになった。
中世には千葉氏、大内氏ら地方の豪族や武士の間で、守護神や軍神として多く信仰された。近世に入ると、星の信仰するところから商業の神、さらに「妙見」という名前から眼病平癒の神などとして、民衆に広く信仰されていた。つまり、特定の信仰のみの仏ではないのである。
妙見菩薩信仰には星宿信仰に道教、密教、陰陽道など様々な信仰の中から生まれたものであるため、像容も一定していない。二臂および四臂、忿怒形や童子形、菩薩形など基本的造形も様々である。また、甲冑を着けた武将形で玄武(亀と蛇の合体した想像上の動物で北方の守り神)に乗るもの、雲中に座ったり青龍の上のに立つもの、唐服を着て笏を持った陰陽道系の像など信仰の広がりとともに、様々な造形的要素が付け加えられた。
「仏像半島」では、多数の妙見菩薩が一同に展示され、その造形の多様性を改めて確認することができた。私は、童子形で玄武に乗った妙見菩薩が特に気に入っている。

妙見菩薩は様々な信仰の中から生まれた仏であり、本来仏典に書かれた仏とは異なる。そして星という形のないものに、具体的な形を与えることは、世界中の神話と共通するところである。経典に書かれた姿を忠実に再現するのではなく、信仰の中から様々な造形が生み出すことは非常にクリエイティブな作業であり、学ぶことが多かった。
そして自分自身の作品における、メタファー的な人物像について改めて考えてみたいと思っている。
(きみじまあやこ)
■君島彩子 Ayako KIMIJIMA(1980-)
1980年生まれ。2004年和光大学表現学部芸術学科卒業。現在、大正大学大学院文学研究科在学。
主な個展:2012年ときの忘れもの、2009年タチカワ銀座スペース ���tte、2008年羽田空港 ANAラウンジ、2007年新宿プロムナードギャラリー、2006年UPLINK GALLERY、現代Heigths/Gallery Den、2003年みずほ銀行数寄屋橋支店ストリートギャラリー、1997年Lieu-Place。主なグループ展:2007年8th SICF 招待作家、2006年7th SICF、浅井隆賞、第9回岡本太郎記念現代芸術大賞展。
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・土渕信彦さんのエッセイ「瀧口修造の箱舟」は毎月5日の更新です。
・君島彩子さんのエッセイ「墨と仏像と私」は毎月8日の更新です。
・植田実さんのエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
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・鳥取絹子さんのエッセイ「百瀬恒彦の百夜一夜」は毎月16日の更新です。
・井桁裕子さんのエッセイ「私の人形制作」は毎月20日の更新です。
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・故・針生一郎の「現代日本版画家群像」の再録掲載は毎月28日の更新です。
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