殿敷侃 遺作展

ときの忘れものでは、本日から「殿敷侃 遺作展」を開催します。
殿敷DM
会期=8月21日[水]―8月31日[土]
※会期中無休

広島に原爆が投下されて68年が経過しました。
殿敷侃は1942年広島市に生まれました。45年8月6日の原爆投下で広島中央郵便局に勤務していた父は爆死。母は投下2日後に3歳の殿敷侃を背に、9歳の姉の手を引き、夫を探して爆心地に入り、二次被爆し5年後に病死します。
侃は26歳で画家を志し、77年久保貞次郎(1966年ヴェネチアビエンナーレ・コミッショナー、町田市立国際版画美術館初代館長などを歴任)の勧めにより銅版画の制作を始めます。 作家自身の被爆体験にもとづき、父母の形見の品や原爆ドームのレンガなどのをモチーフにした細密な作品で注目され、79、80年に安井賞連続入選。
1982年にヨーロッパやアメリカを旅行、ドクメンタ7でヨーゼフ・ボイスに衝撃を受け、以後、今までの絵画表現から離れ、古タイヤ、テレビ、自動車、傘、ゴミ回収袋などの廃棄物で会場を埋めつくすという過激な表現によるインスタレーションを行なうようになります。多数の人々をまき込んで行なうイベントを表現方法とし、現代社会とその中での人間の意識について厳しく問い続けました。
1991年第14回現代日本彫刻展では車椅子から指示を出しながら、立木18本にタイヤ800個をくくりつけ社会への強烈な批判的・挑発的なメッセージを発信しますが、原爆二次被爆に起因する肝臓がんで1992年2月11日50歳の短い生涯を閉じました(享年50)。

殿敷さんのことはこれまで幾度か取り上げてきました。
私たちにとって殿敷侃の遺作展をすることは長年の宿題でした。
1977年、私たちの恩師・久保貞次郎先生は銀座の飯田画廊で偶然作家に出会い(このとき殿敷さんは35歳)、微細な点描で克明に描かれたレンガの作品にほれ込んで、プレス機一式を作家のアトリエに送りつけ、銅版画の制作を勧めます。
その頃、私たちは市ヶ谷にあった久保邸に足しげく通っていましたから興奮気味の久保先生から殿敷作品を見せられ、「綿貫さん、凄い作家を見つけました」とコレクションを強く勧められたのですが、未熟者の悲しさ、何となくひいてしまい、悔いを残すことになりました。
同世代で会おうと思えば会えたのですが、遂に会わずに終わってしまいました。

久保貞次郎先生が亡くなり、ご遺族から先生の蔵書や版画作品などの整理を依頼される中で、殿敷作品をあらためて手にする機会を得ました。
遅ればせながら殿敷さんの歩んだ道をふりかえり、初期の原爆ドームのレンガや、鋸、蟹、小さな生き物など、点描で精緻に描かれた油彩と版画を22点を展示できることになりました。

殿敷さんの版画制作の経緯、久保先生の殿敷評は「久保エディション第4回~殿敷侃」でご紹介しましたのでお読みください。

本展を準備しているなかで、いくつかの偶然に導かれ、あらたな発見もありました。
ある日、このブログでも小野隆生論を執筆されている池上ちかこさんから殿敷さんの著作権者についての問合せがありました。聞けば編集に参加している書籍で70年代を代表する作家の一人として殿敷さんを取り上げるので、ということでした。
私たちの知らないところで再評価の動きが起こっているのだと、嬉しくなりました。

殿敷さんの表現が大転換するきっかけになったのは、1982年の半年にわたる欧米旅行のおり、カッセルの<ドクメンタ7>でボイスに衝撃を受けたことだと年譜にあります。
そういえばあのときのカッセルには奈良の西田考作さんも行っていたなあと思い出し、ボイスの写真など参考までにお借りできればと西田画廊に電話したのですが、「殿敷さんにはカッセルで会いました。帰国後に私が韓国で企画した版画展にも出品してもらいました」と言われ絶句してしまいました。亭主は西田さんとは40年近い付き合いで、現代美術の目利きとして深く尊敬しています。
ときの忘れもののコレクションでは、森村泰昌も、小川信治も、小野隆生もみんな西田さんから譲っていただいたのが最初です。まさか殿敷さんまで西田さんの視野に入っていたなんていままで知りませんでした。

このときの旅ではボイスや西田さんだけでなく、殿敷さんは土屋公雄さんとも出会いました。またただ一度だけですがダニ・カラヴァンにも他日に出会っています。それらについては、山口県在住の友利香さんと、彫刻家の土屋公雄さんのブログからお二人のご許可を得て、再録させていただきます。

カタログを制作するため、2002年に没後10年の回顧展を開催している下関市立美術館館長の濱本聰先生に電話をかけ「どなたかテキストを執筆してくださる方をご紹介してください」と頼んだところ「私が書きましょう」と言ってくださり、お忙しい中、「殿敷侃ー失われたものからのメッセージ」をご執筆いただきました。
濱本先生から広島のはつかいち美術ギャラリーに連絡が行き同ギャラリーの山田博規先生が出品作品を見るために上京してくださったことも嬉しいことでした。

●展覧会にあわせカタログを刊行しました。
『殿敷侃 遺作展』図録
価格:800円(税込) ※送料別途250円
発行:ときの忘れもの/有限会社ワタヌキ
B5判、16ページ、モノクロ
執筆:濱本聰(下関市立美術館館長)
図版:21点掲載
略歴
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08_block殿敷侃
《ドームのレンガ》
1977
銅版、雁皮紙摺り
23.2×32.3cm
Ed.50
サインあり

05_kani殿敷侃
《カニ》
c.1977
銅版
13.3×16.0cm
Ed.30
サインあり

23_kai_2_ed55殿敷侃
《貝》(2)
銅版
7.7×9.8cm
Ed.55
サインあり

21_kani殿敷侃
《カブトガニ》(仮称)
油彩
49.5×24.5cm
サインあり

19_saw4殿敷侃
《ノコ》(白地)(仮称)
シルクスクリーン
43.0×61.0cm
Ed.12
サインあり

14_insect殿敷侃
《地中の虫》
リトグラフ
21.2×35.9cm
Ed.30
サインあり

展示風景
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