「Under 30 Architects exhibiton 2013
30歳以下の若手建築家による建築の展覧会レポート」
杉山幸一郎


Under 30 Architects exhibition 2013
30歳以下の若手建築家による建築の展覧会
会期:2013年9月5日(木)―10月5日(土)
10:00~18:00 日曜・祝日休館
※9月7日(土)、9月28日(土)のみ20:30まで開場
会場:ODPギャラリー
〒559-0034 大阪市住之江区南港北2-1-10
アジア太平洋トレードセンター(ATC)ITM棟10階 ODP(大阪デザイン振興プラザ)
入場 1,000 ※先着1,000名様に限り、展覧会図録付き(定価1,000)
---------------------------------
今年で4回目を迎えるこのU30展覧会は、活動を始めたばかりの30歳以下の若手建築家に発表の場を。という目的で始められ、今では登竜門として認識されるようになっています。今年度は、岩瀬涼子、塚越智之、植美雪、小松一平、そして僕、杉山幸一郎の5組が公募によって選出され出展しています。同じ年代の建築家と言っても、考えていることはそれぞれに違い、もちろんそれを表現する方法も違います。複数の実施プロジェクトを体系的に展示して伝えようとする人。展覧会のためにコンセプチュアルなプロジェクトを創作し、その考えを公衆に問うた人。。。

(図版01:展覧会場入口)
展覧会の目玉は、会期中二回行われる(9月7日開催。次回は28日) 記念シンポジウムです。そこでは、世界的に活躍されている一世代上のA40(around 40)の建築家の方々とのトークセッションがあります。先日行なわれた第一回の記念シンポジウムではA40から、U30はテーマ設定が弱い、もしくは無理矢理にテーマ設定しているように見えてしまうという、僕たち世代の問題意識の持ち方とそのアウトプットとしての建築創造について、とりわけ大きな批評がありました。
例えば僕の場合、「凹んだ屋根の家/環境器」というタイトルで、建築が建てられることで必然的にできてしまう内外の概念や、それにまつわるプライベート、パブリックといった、社会との関係性とは別に、空間体験によってできる新しい価値観を提示しようと思いました。具体的には、プライベートという言葉を、僕は自分の責任の持てる範囲(責任領域)という言葉で定義し直します。すると、それは物理的な内外の境界線ではなく、頭の中でどんどん拡大できる概念として考えられます。自分の家の近くにあるゴミ収集所に毎週ゴミを放りこんで、そこが知らず知らずのうちに汚れていっても、自分の家(内うち)ではないから関係ない。と思える人は、きっと責任領域の線が自分のすぐ周りに引かれていて、その地域の公共ゴミ捨て場まで綺麗に保ちたいという配慮、他人への配慮が持てる人は、きっとそのゴミ捨て場まで自分の責任領域に取り込んでいるような人なのではないでしょうか。もちろん、責任領域に取り込む範囲は、地球規模にまで拡がる可能性だってあります。

(図版02:環境を受け入れる器)
僕はその責任領域を拡げるきっかけとしての建築を考えます。大きな屋根で環境・自然などの外的要因から内を守るのではなく、逆に凹ませて環境を受け入れる器にしようと考えました。普段は軒の外へ追いやってきた自然環境からの落とし物が、凹んだ頂点に集まり、僕たちの目に見えるものになる。これは言ってみれば、身の回りの環境を顕在化する器(環境器)です。

(図版03:環境器/夏の通り雨の後)

(図版04:環境器/落葉も積もる秋の宵)
夕方の通り雨の後、湿ったアスファルト舗装道路からは、ただ雨が降ったという事実しかわかりません。しかし、この環境器には、小さな池くらいはできているかもしれない。夏も終わりにかかった今日では、そろそろ焼き芋ができるくらいの落葉も溜まってくるかもしれません。もちろん、そこから小さな生態系だって始まるのです。
環境器を眺めることで、身の回りに存在していたけれど、気付かなかったものたちに初めて気付く。大きすぎる話かもしれませんが、ここで起きていることは、世界で起きていることの縮図であって、この環境器について考えることで、世界の環境を考えることができないか。小さなものの気付きから、自分の責任領域を拡大して、地球規模で世の中のことを考えられるようなきっかけがつくれないか。そういう思いを込めて僕はこの環境器を展示しています。

(図版05:地球環境器)
それでもA40の建築家の方々の批評は鋭い。果たしてこの環境器は建築空間として本当に気持ちがいいのか。果たして僕が想定するように、みんなが環境と意識について考えてくれるほど優秀なのか。建築が人に多くを求めていないか。
詳しく知りたい方は、是非展示場に足を運んでみてはどうでしょうか。他の四人の展示もそれぞれに工夫が見られ、見応えがあります。遠方でどうしても伺えない方は、僕まで連絡をください。数に限りがありますが、展示会場にある、凹んだ屋根の家に関するパンフレットをお送りします。
最後に一言。建築を創ることと環境を考えること。それは紛れもなく同義です。
(すぎやま こういちろう)
詳しい会期情報はhttp://u30.aaf.ac/
文筆・図版提供: 杉山幸一郎(すぎやまこういちろう)
mail@koichirosugiyama.com
■杉山幸一郎 Koichiro Sugiyama
1984年浜松生まれ。日本大学高宮研究室で建築を学び、2008年東京藝術大学大学院北川原研究室に入学する。在学中にETH Zurichに留学し、世界の建築を見る。大学院修了後、建築家として活動する。 在学、留学中にいくつかの旅を経験したことが、ゆっくりと確実に僕の視野を大きくしてくれました。初めてインドを旅したこと。トルコからエジプトまで乗り合いバスで縦断したこと。イベリア諸国を2ヶ月かけてまわったこと。そして、フランス中部からピレネー山脈を抜けてイベリア半島の先まで約1400kmを歩いて巡礼したこと。 上手な言い回しをしようとするよりも、自分の経験からくる言葉を大切にしたいといつも思っています。
*画廊亭主敬白
杉山幸一郎さんとは、数年前ときの忘れものがチューリッヒのアートフェアに出展した折に会場で偶然出会いました。当時スイスに留学していた杉山さんは、私たちが建築家(磯崎新、安藤忠雄、石山修武、ル・コルビュジエ 他)の作品を扱っている珍しい画廊なので興味を持ったのでしょう、帰国後も連絡をくれるようになりました。
若手建築家の登竜門として注目を浴びてきた「Under 30 Architects exhibition 2013」に入選したという案内をいただいたので、早速ご自分の仕事の紹介と展覧会のレポートをお願いした次第です。今後の活躍が楽しみです。
30歳以下の若手建築家による建築の展覧会レポート」
杉山幸一郎


Under 30 Architects exhibition 2013
30歳以下の若手建築家による建築の展覧会
会期:2013年9月5日(木)―10月5日(土)
10:00~18:00 日曜・祝日休館
※9月7日(土)、9月28日(土)のみ20:30まで開場
会場:ODPギャラリー
〒559-0034 大阪市住之江区南港北2-1-10
アジア太平洋トレードセンター(ATC)ITM棟10階 ODP(大阪デザイン振興プラザ)
入場 1,000 ※先着1,000名様に限り、展覧会図録付き(定価1,000)
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今年で4回目を迎えるこのU30展覧会は、活動を始めたばかりの30歳以下の若手建築家に発表の場を。という目的で始められ、今では登竜門として認識されるようになっています。今年度は、岩瀬涼子、塚越智之、植美雪、小松一平、そして僕、杉山幸一郎の5組が公募によって選出され出展しています。同じ年代の建築家と言っても、考えていることはそれぞれに違い、もちろんそれを表現する方法も違います。複数の実施プロジェクトを体系的に展示して伝えようとする人。展覧会のためにコンセプチュアルなプロジェクトを創作し、その考えを公衆に問うた人。。。

(図版01:展覧会場入口)
展覧会の目玉は、会期中二回行われる(9月7日開催。次回は28日) 記念シンポジウムです。そこでは、世界的に活躍されている一世代上のA40(around 40)の建築家の方々とのトークセッションがあります。先日行なわれた第一回の記念シンポジウムではA40から、U30はテーマ設定が弱い、もしくは無理矢理にテーマ設定しているように見えてしまうという、僕たち世代の問題意識の持ち方とそのアウトプットとしての建築創造について、とりわけ大きな批評がありました。
例えば僕の場合、「凹んだ屋根の家/環境器」というタイトルで、建築が建てられることで必然的にできてしまう内外の概念や、それにまつわるプライベート、パブリックといった、社会との関係性とは別に、空間体験によってできる新しい価値観を提示しようと思いました。具体的には、プライベートという言葉を、僕は自分の責任の持てる範囲(責任領域)という言葉で定義し直します。すると、それは物理的な内外の境界線ではなく、頭の中でどんどん拡大できる概念として考えられます。自分の家の近くにあるゴミ収集所に毎週ゴミを放りこんで、そこが知らず知らずのうちに汚れていっても、自分の家(内うち)ではないから関係ない。と思える人は、きっと責任領域の線が自分のすぐ周りに引かれていて、その地域の公共ゴミ捨て場まで綺麗に保ちたいという配慮、他人への配慮が持てる人は、きっとそのゴミ捨て場まで自分の責任領域に取り込んでいるような人なのではないでしょうか。もちろん、責任領域に取り込む範囲は、地球規模にまで拡がる可能性だってあります。

(図版02:環境を受け入れる器)
僕はその責任領域を拡げるきっかけとしての建築を考えます。大きな屋根で環境・自然などの外的要因から内を守るのではなく、逆に凹ませて環境を受け入れる器にしようと考えました。普段は軒の外へ追いやってきた自然環境からの落とし物が、凹んだ頂点に集まり、僕たちの目に見えるものになる。これは言ってみれば、身の回りの環境を顕在化する器(環境器)です。

(図版03:環境器/夏の通り雨の後)

(図版04:環境器/落葉も積もる秋の宵)
夕方の通り雨の後、湿ったアスファルト舗装道路からは、ただ雨が降ったという事実しかわかりません。しかし、この環境器には、小さな池くらいはできているかもしれない。夏も終わりにかかった今日では、そろそろ焼き芋ができるくらいの落葉も溜まってくるかもしれません。もちろん、そこから小さな生態系だって始まるのです。
環境器を眺めることで、身の回りに存在していたけれど、気付かなかったものたちに初めて気付く。大きすぎる話かもしれませんが、ここで起きていることは、世界で起きていることの縮図であって、この環境器について考えることで、世界の環境を考えることができないか。小さなものの気付きから、自分の責任領域を拡大して、地球規模で世の中のことを考えられるようなきっかけがつくれないか。そういう思いを込めて僕はこの環境器を展示しています。

(図版05:地球環境器)
それでもA40の建築家の方々の批評は鋭い。果たしてこの環境器は建築空間として本当に気持ちがいいのか。果たして僕が想定するように、みんなが環境と意識について考えてくれるほど優秀なのか。建築が人に多くを求めていないか。
詳しく知りたい方は、是非展示場に足を運んでみてはどうでしょうか。他の四人の展示もそれぞれに工夫が見られ、見応えがあります。遠方でどうしても伺えない方は、僕まで連絡をください。数に限りがありますが、展示会場にある、凹んだ屋根の家に関するパンフレットをお送りします。
最後に一言。建築を創ることと環境を考えること。それは紛れもなく同義です。
(すぎやま こういちろう)
詳しい会期情報はhttp://u30.aaf.ac/
文筆・図版提供: 杉山幸一郎(すぎやまこういちろう)
mail@koichirosugiyama.com
■杉山幸一郎 Koichiro Sugiyama
1984年浜松生まれ。日本大学高宮研究室で建築を学び、2008年東京藝術大学大学院北川原研究室に入学する。在学中にETH Zurichに留学し、世界の建築を見る。大学院修了後、建築家として活動する。 在学、留学中にいくつかの旅を経験したことが、ゆっくりと確実に僕の視野を大きくしてくれました。初めてインドを旅したこと。トルコからエジプトまで乗り合いバスで縦断したこと。イベリア諸国を2ヶ月かけてまわったこと。そして、フランス中部からピレネー山脈を抜けてイベリア半島の先まで約1400kmを歩いて巡礼したこと。 上手な言い回しをしようとするよりも、自分の経験からくる言葉を大切にしたいといつも思っています。
*画廊亭主敬白
杉山幸一郎さんとは、数年前ときの忘れものがチューリッヒのアートフェアに出展した折に会場で偶然出会いました。当時スイスに留学していた杉山さんは、私たちが建築家(磯崎新、安藤忠雄、石山修武、ル・コルビュジエ 他)の作品を扱っている珍しい画廊なので興味を持ったのでしょう、帰国後も連絡をくれるようになりました。
若手建築家の登竜門として注目を浴びてきた「Under 30 Architects exhibition 2013」に入選したという案内をいただいたので、早速ご自分の仕事の紹介と展覧会のレポートをお願いした次第です。今後の活躍が楽しみです。
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