君島彩子のエッセイ「墨と仏像と私」 第7回

「東北で感じたこと」


今年の夏は、東北の太平洋側に何度か足を運んだ。勿論、その中には東日本大震災で被災した地域も多く含まれていた。

あれからもう2年半が経過したのかと思うと月日の経つのが早く感じる。しかし、実際に被災地に足を踏み入れてみると、決して復興は進んでいるとは言えない状況であり、まだ地震や津波の爪痕が残されていた。津波で建物が流された地域では、殆ど再建が進んでいないため、草が生い茂っていた。植物の生命力を感じる反面、人工物の儚さも感じる。

数は多くないが、津波で流された家屋の基礎部分や防波堤、そして仮設住宅の壁などにボランティアによって描かれた絵を見かけた。それらの絵は被災された方の気持ちを明るくするためか、鮮やかな色で花などが描かれていた。このような活動は、すばらしいことだと思う。

しかし、これらの絵は、再建が進めば消えていく。もしかしたら災害の記憶と共に、絵の記憶も封印されていくかもしれない。可塑的でサイトスペシフィックな作品と捉えれば、それはそれで良いことだと思う。ただ私は、大災害を目の前にして美術家の出来ることが多くないのだという虚しさも感じた。

被災地では世界中の音楽家によるコンサートが様々な場所で開催されている。人から人へ、目をあわせて直接伝える事の出来る音楽が、少し羨ましい気分もあった。音楽なら、その場で人々の気持ちを明るくすることが出来るだろう。


私は東北で、様々な思いを巡らせた。そして東京に帰ったら新しいテーマで制作を行いたいと思っていた。東北でイメージを蓄えてきたが、自分自身の感じたものを形にする作業には時間がかかる。断片的ではあるが、今自分が感じたことを形に残していくことで、自分なりに震災と関わっていくことになると思う。

最近は、様々な紙を使用しており、墨が紙に浸透するような滲みのある作品も制作している。そのような滲みが、今の作品にあっているのかもしれない。

新作の画像を1点載せさせていただきます。まだこれから発展する可能性のある作品ではあるのですが。

01_600君島彩子
《site001》
2013年
紙、墨
17.0x25.0cm


(きみじまあやこ)

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君島彩子 Ayako KIMIJIMA(1980-)
1980年生まれ。2004年和光大学表現学部芸術学科卒業。現在、大正大学大学院文学研究科在学。
主な個展:2012年ときの忘れもの、2009年タチカワ銀座スペース ���tte、2008年羽田空港 ANAラウンジ、2007年新宿プロムナードギャラリー、2006年UPLINK GALLERY、現代Heigths/Gallery Den、2003年みずほ銀行数寄屋橋支店ストリートギャラリー、1997年Lieu-Place。主なグループ展:2007年8th SICF 招待作家、2006年7th SICF、浅井隆賞、第9回岡本太郎記念現代芸術大賞展。

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 ・大竹昭子さんのエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
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