菅原一剛の写真
「Blue」の話 第一回

菅原一剛


この度、「Blue」と「Daylight」というタイトルで、それらが別々にまとめられ、写真集が完成しました。そして、それを記念して、2か所同時に展覧会を開催することとなりました。そこで、そのことについて、少しお話したいと思います。
ぼくが写真家として、デビューしたのが1985年ですから、早いもので、今年で28年の月日が流れました。略歴の詳細ははぶきますが、それでもその間に、多くのものと向かい合い、多くの展覧会を重ねてきました。
最初にこんなお話をすると誤解されるかもしれませんが、ぼくは最後まで、ひとりの写真家として生きていきたいと思っています。そして、そのことはぼくが20代の頃に、はっきりと意識的に決めたことでもあります。
ぼくのデビューは、まさにこの国においては、あの“バブル”と呼ばれていた時代と重なりますので、その中におけるアートの世界も、当然のことながらすっかりうかれていました。特にぼくは、早崎治先生の助手を経て、パリに行ってファッション写真などをやったりしていたものですから、帰国後はとてもちやほやされました。そのことが、少しこそばゆかったのと、もちろん今でもアートとよばれるものすべて、特に美術は大好きですが、あの時代はそんなすべてをミックスさせながら、その中に、まだよくわかっていないうちから、無理矢理写真も入れ込んでいるような気がして、かなり居心地のわるい時代でした。それでも、若かったこともあって、期待されれば、それに一生懸命応えようと、必死に制作を続けてきました。
そんな中、1989年の冬、ラフォーレミュージアムで大きな展覧会の企画を受けました。ぼくは、それまで撮り続けてきたもの、そして、そのために新作を制作し、展覧会を開催しました。その展覧会は、写真展としては会場構成も今までとは違って、ライティングもデザインしましたし、空間性も意識したこともあって、写真展ではあるのですが、インスタレーション的な展覧会になりました。結果的にはとても好意的に受け入れてもらえたような気がします。
しかし、ぼくの中には大きな違和感がありました。それは「ぼくはいったいなにものなんだ」ということでした。音楽を本気でやっていた美術好きのぼくが、写真に魅せられ、大学で写真を学び、その後プロを目指して、早崎治先生に弟子入りして、技術を学び、そんな風に始めたはずの写真が、どこかで、いきなり「アートのようなもの」になってしまったような気がしたのかもしれません。
写真というのは、世の中を見つめるための道具でもあります。そして、この世の中は、いきなり始まったわけではなく、歴史という大きな時間の流れの延長線上に存在しています。その上での“今”という時間と向かい合えるのが写真行為とも言えるわけです。少なくともぼくは、そのことにいつも、とても大きく心が動かされています。だから、いつだって世の中のど真ん中で写真を撮っていたいと思っています。かといって、それはけっして一般的にサブカルと呼ばれるようなものではなく、むしろ、オーセンティックなものに魅かれているように思います。
ぼくは東京という街が大好きです。しかし、そこにぼくのすべてがないこともよくわかっています。だから、そんな自身の居場所を探して、旅を繰り返しているのかもしれません。それは、デビューした時から変わっていないように思います。
ですので、そのラフォーレでの展覧会も、ぼくにとってはある意味では「旅の記録」でもありました。しかしそれは、ただの旅行ではなく、むしろかなり内省的な、自己探求の旅だったような気もします。それを必死に追いかけて、一生懸命かたちにしようとした展覧会ではあったのですが、とにかくその時は、その方法論もさることながら、未熟でした。
そんな展覧会の中で、自身の写真なのにも関わらず、その会場内でひと際異彩を放っていた写真がありました。それは、今回の写真集「Blue」の最初のページに展開する、ヴェネチアのサンマルコ広場の列柱の写真群でした。その時は、フレームを横4枚、縦2枚を隙間なく設置し、ひとつのブロックとして展示しました。他の写真が、どちらかというと、いかにも表現的な写真だとすると、これらの写真は「ただ柱が写っている」それだけの写真だったのですが、ぼくの未熟さを横に置いておいたとしても、「ただそれだけ」が、むしろそのことによって伝わってくるものが、より大きいことに気が付きました。そういった意味でも、あのサンマルコ広場の写真たちは、ぼくにとって、ふたたび写真的な写真の世界に呼び戻してくれた大切な写真なのです。
(すがわらいちごう)
#66
"Piazza SanMarco #66, Venice, Italy"
1988年
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ56.0x27.8cm
シートサイズ88.5x55.5cm
Ed.25  Signed

n21
"Piazza San Marco n21, Venice, Italy"
1988年
Gelatin Silver Print
イメージサイズ34.0x20.0cm
シートサイズ65.0x45.0cm
Ed.25  Signed

*画廊亭主敬白
写真家・菅原一剛さんのまとまった展示をするのは実は二度目です。
昔話になりますが、三潴末雄さんと秋薫里さんが中心になって立ち上げ、仲世古佳伸さんが綜合ディレクションをつとめた「モルフェ」というアートイベントがありました。
1995~2000年にかけて青山界隈で開かれ、その第一回は1995年の晩秋でした。
その年の6月に開廊したばかりだったときの忘れものも参加して「MORPHE '95 菅原一剛、大野純一写真展」を開催しました。
大野さん、菅原さんにはそのとき初めてお会いしました。
今春、久しぶりに大きくなった(笑)菅原さんと仲世古さんが訪ねてこられ、「Blue」と「Daylight」という二冊組の写真集を出すので、お近くのギャラリー360°と二会場で記念展をやってもらえないかという相談がありました。
ギャラリー360°の根本さんは1982年のウォーホル展以来の盟友だし、異存はない。
18年ぶりの本格的な展示なので、菅原さんにご自身の写真についてエッセイの執筆をお願いしました。
本日10月15日に続いて、10月17日、19日のブログに3回連載します。

また10月19日(土)午後3時より、菅原さんと仲世古さんと一緒に、2会場を周るギャラリーツアーを開催します(ときの忘れものスタート)。
ツアー終了後、18時からギャラリー360°にてオープニングレセプションを行います。
ぜひご参加ください。

◆ときの忘れものは2013年10月16日[水]―10月23日[水]「菅原一剛写真展―Blue」を開催いたします(※会期中無休)。
菅原一剛展Blue
写真集「Daylight|Blue」(2冊組)の出版を記念して、ときの忘れものとギャラリー360°の二会場で同時開催します。
ゲストキュレター:仲世古佳伸

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『Daylight|Blue』
価格:6,300円
2冊1組 各68P 320Hx257Wmm

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