ILLUMINANT SCENE 1 作家のアトリエから その三

空にドローイングするというそんな自由なものが欲しい

宮脇愛子×植田実(1982)

1982年7月14日宮脇愛子氏宅にて宮脇真鍮

植田 あと、質問が断片的になるんですけど、建築の中で仕事をされたのはやはりこの辺り(一九六〇年代初頭)になりますか。
宮脇 いえ、私が最初にやったのは剣持(勇)先生から頼まれた、例の東京会館のパイプの間仕切りですね。あれは剣持先生が瀧口(修造)先生のところで、私のこんな小さい作品をご覧になったのね。それがきっかけなんです。すごく面白いとおっしゃって下さって。
植田 ただあの時は、作品をポンと置くという感じでもなかったんですか。
宮脇 いや、あの時は場所を見に行って、ここに合うような作品をつくってくれといわれて。で、計算したんです。35階から向うが、こう見えるんじゃないかと。逆さまに蜃気楼のような感じで見えるんじゃないかということを一応想定したんです。
植田 じゃあ、もう建築とのつきあいはながいですね。やはり建築のなかで仕事をするというのは、何らかの影響はありますか。あるいは建築家との協同、あるいはもっと具体的に磯崎さんでもいいですけど、建築側からの考え方にいろいろと――。
宮脇 あんまりないんじゃないかしら。それほどやってないでしょう。例えばこれなんか(東京会館の作品)建築はまったく関係ないという感じで。だからむしろ磯崎の方が非常に合ってますよね。秀巧社の例みたいに。
植田 そうですね。磯崎さんも強引に組み込んでくるというか、そこに置いてくるという以上のものがありますね。
宮脇 建築というのは非常に広いでしょう。アートというのは建築と密接な関係があるし、例えばわたくし、卒論は桃山時代の障壁画をやったんですが、それはもう建築と美術とは切り離せないものですね。だから現代の建築もそうあってほしいですね。

限定された彫刻というのは つまらない
植田 建築というのは非常に実学的というか、システマチックに都市なら都市を考えるというところがありますよね。そうすると僕なんか建築やってる人とつき合っててどうしても影響を受けちゃって、自分がどっちか分らなくなっちゃうんですよね。建築の外の人と会ったりすると、おまえの属してる建築の領域はもっとしっかりしろと言われるし、建築の内では、おまえはどうせ文学出身だからというわけで、非常に中途半端なんですよね。まあ、それだけ影響を受けちゃうわけですが、その辺で彫刻の置かれ方で気になるのは、やはり建築が前程としてポンと置かれるとかですね、役割りというか、都市のなかにひとつ置くというかたちが、あまりどうもうまくいってないという気がするんです。で、宮脇さんの場合は、非常に特殊なかたちで、かなり深いところで建築なら建築と関わり合って、それで表現されてると思うんですね。その辺はどうなんだろうと。
それは例えば、さっきも出ましたこの《Golden Egg》に台座をつけるかつけないかという問題まで含んでると思うんですけどね。
宮脇 えゝ、私はこういう場合、これに台座をつけるとそれで限定されるんですよね。これだけだったら、置くということで完全に広いスペースを占領できるわけ。この“たまご”ひとつで。
植田 置いてある状態だけでね。
宮脇 えゝ、何でも限定するのが嫌いなのかもしれない。すごく自分がこう、不自由なせいか、自由が欲しい(笑)。だからこのワイヤーの仕事をFlying Heartじゃないけども、やはりDrawing in the airという感じでね、空にドローイングをするというような、そういう自由なものが欲しかったという。だから彫刻でも、いわゆる限定された彫刻というものはすごくつまらない。例えばそこにあるガラスの彫刻(割った板ガラスを何枚も重ね合わせた作品《MEGU》――光線の当り方によりイメージが微妙に変化する)でも、これもサイズとしては限られてますけども、これを通して深い海の底に自分が入ってゆくような、そんな感覚を見る人に与えることができればという感じで。拡がりというか、そんなものを常に欲しいんです。希望してるというか、切望してるという感じね、むしろ。(笑)
(了)
宮脇うつろひ

『PRINT COMMUNICATION No.84』 現代版画センター 1982年9月より再録
その一
その二
その三
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宮脇愛子新作展2013」もいよいよ明日が最終日です。
連日たくさんのお客様がいらしていますが、皆さん宮脇先生の「新作」ということで驚かれています。
出品作よりご紹介します。
出品番号1番
miyawaki_01
宮脇愛子"Work"
2013年
ミクスドメディア
イメージサイズ:47.5×41.0cm
シートサイズ :53.6×46.3cm
サインと年記あり

出品番号2番
miyawaki_02
宮脇愛子"Work"
2013年
ミクスドメディア
イメージサイズ:54.5×47.5cm
シートサイズ :56.7×47.5cm
サインと年記あり

出品番号3番
06
宮脇愛子"Work"
2013年
ミクスドメディア
イメージサイズ:45.5×43.5cm
シートサイズ :56.3×43.5cm
サインと年記あり

◆ときの忘れものは2013年12月4日(水)ー12月14日(土)今秋84歳を迎えられた宮脇愛子先生の新作ドローイング及び立体による「宮脇愛子新作展2013」を開催しています。
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●『宮脇愛子新作展2013』カタログを制作しました
表紙『宮脇愛子新作展2013』
2013年 ときの忘れもの 発行
16ページ
25.7x18.3cm
図版:16点

※現代版画センター刊『PRINT COMMUNICATION No.84』(1982年9月)に収録された宮脇愛子と植田実の対談を再録
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