スタッフSの海外ネットサーフィン No.13 「Henri Matisse: The Cut-Outs」
Tate Modern
読者の皆様こんにちわ。夏本番を前にして沖縄より北海道が暑かったり、梅雨と呼ぶにはいささか激しい雨が関東で降り注いだりと、妙な天気が続く中、いかがお過ごしでしょうか。スタッフSこと新澤です。
今年で帰国10周年を迎えた自分ですが、相変わらず夏の間だけは心の故郷であるイギリスに逃げ帰りたくなります。聞いた話では、あちらは現在最高気温が17度とか。ここ一月ほど、既に夜寝る時は窓を全開にして扇風機を回している身としては羨ましい限りです。
ロンドンに住んでいた頃は、学生寮を含めて4回ほど住居を変えましたが、どの家でも暖房はあっても冷房はありませんでした。何せあちらは夏でも湿度が低いので、日陰に入っていれば充分に涼しかったのです。とはいえ自分が帰国する前年は30度以上の記録的猛暑で、イギリス中の家電製品店から扇風機が売り切れるということもありました。店の入り口にわざわざ「当店の扇風機は全て売り切れです」などと張り紙がしてある風景が珍しくなかったのですから、どれだけ品薄だったのやら。当時私は一軒家の屋根裏部屋に住んでいたのですが、階下で温まった空気と屋根から伝わってくる太陽熱のせいで終日サウナ状態だったので、夏の間は居間のソファで寝ていました。……あれ、この話の流れだと、扇風機がない分、あちらにいた方が状況が悪い?
ともあれ、今回の話のタネは前回と同じくイギリス、ロンドンにある美術館、その中でも新顔のテート・モダンです。
テート・モダン全景
手前にあるのが、美術館と同時に作られたミレニアム・ブリッジ
テート・モダンは以前「バンクサイド発電所」だった建物を改造して美術館として使用しており、もともとの発電所は、イギリスの赤い電話ボックスで有名なサー・ジャイルズ・ギルバート・スコットの設計によるものです。テムズ川をはさんだ北側には金融街シティ・オブ・ロンドンやセント・ポール大聖堂が聳え立つ立派な街並みが広がっていますが、南側のサウス・バンクは長年ロンドンの裏方的な存在の工場・倉庫街であり、この発電所も戦災復興の際にロンドンの電力不足を解消するために急遽建てられたという背景があります。発電所は1981年に閉鎖後、建物を保存せよという市民の声もありましたが、歴史的建築物リストへの掲載は拒否され、1993年の段階では機械搬出のために建物の一部取り壊しが始まるなど保存の見通しは絶望的な状態でした。
一方、テムズ川上流のミルバンク地区にある「テート・ギャラリー(現テート・ブリテン)」はイギリス美術および世界の近代・現代美術の美術館として運用されていましたが、展示・収蔵スペースの不足に悩まされたため、1980年代にスペース拡充と役割分担のため近現代美術館の機能を新しい建物に移す計画が立てられていました。建物の新築費用と場所が最大の問題でしたが、理事会はシティの対岸の荒廃した地区にある発電所建物に目を付け、1994年春、これを改造して再利用することが発表されました。同年夏に安藤忠雄などが参加したコンペの結果、1995年1月にスイスの新鋭建築家コンビ、ヘルツォーク&ド・ムーロンの案が選ばれました。
発電機のあった巨大なタービン・ホールを大エントランスホールにして、屋上に採光窓やレストランなどのあるガラス張りのフロアを設けるなどの工事が行われ、2000年の5月12日、新世紀を祝う新施設の一つとしてオープンして以来、地元の人々や観光客に非常に人気のあるスポットとなっています。
エントランス『タービン・ホール』
私も開館の折に友人と一緒に行って来ましたが、かつて発電機が置かれていた七階分の高さの吹き抜けと、3,400平方メートルの広さを誇るエントランス『タービン・ホール』は壮観でした。個人的には建物前から対岸に伸びる「ミレニアム・ブリッジ」も渡りたかった(というか、こちらがメインでした)のですが、風でグワングワン揺れているせいで通行禁止になっていました。
このテート・モダンで現在開催中なのが「Henri Matisse: The Cut-Outs」。ときの忘れものでも扱っている20世紀の巨匠、アンリ・マティスの切り絵を主題にした展覧会です。開催期間は4月17日から9月7日まで。入場料は大人1名£18.00、12歳以下は無料です。

60代後半、体調の問題から筆を置いていた時、絵画の草案として始まり、やがて新しい技法へと昇華されたのがマティスの切り絵作品です。
この展覧会では1934年から1954年にかけて制作された120点の作品を展示しており、これらの作品が初めて一堂に会する記念碑的展示です。マティスのスタジオ写真などからこれらの作品は本来総体として扱われるものだと言われており、今回50年の時を経てついにそれが実現しました。
アンリ・マティス
Blue Nude (II)
1952
切り絵
アンリ・マティス
The Snail
1953
切り絵
今回展示されている作品は、後にアメリカのMoMAへ巡回し、その後それぞれが所属する美術館や個人へ返却されることになっています。
夏休みにイギリスを訪れる予定があれば、是非お出かけいただきたいイベントです。
(しんざわゆう)
Tate Modern公式サイト:http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern
展覧会紹介ページ:http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-modern/exhibition/henri-matisse-cut-outs
●ご紹介するのは、テート・モダンのコンペで敗れた安藤忠雄先生の版画作品。
安藤忠雄
《テート・モダン》
2002年
シルクスクリーン
イメージサイズ:33.0×86.0cm
シートサイズ :75.0×106.0cm
Ed.15
サインあり
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Tate Modern
読者の皆様こんにちわ。夏本番を前にして沖縄より北海道が暑かったり、梅雨と呼ぶにはいささか激しい雨が関東で降り注いだりと、妙な天気が続く中、いかがお過ごしでしょうか。スタッフSこと新澤です。
今年で帰国10周年を迎えた自分ですが、相変わらず夏の間だけは心の故郷であるイギリスに逃げ帰りたくなります。聞いた話では、あちらは現在最高気温が17度とか。ここ一月ほど、既に夜寝る時は窓を全開にして扇風機を回している身としては羨ましい限りです。
ロンドンに住んでいた頃は、学生寮を含めて4回ほど住居を変えましたが、どの家でも暖房はあっても冷房はありませんでした。何せあちらは夏でも湿度が低いので、日陰に入っていれば充分に涼しかったのです。とはいえ自分が帰国する前年は30度以上の記録的猛暑で、イギリス中の家電製品店から扇風機が売り切れるということもありました。店の入り口にわざわざ「当店の扇風機は全て売り切れです」などと張り紙がしてある風景が珍しくなかったのですから、どれだけ品薄だったのやら。当時私は一軒家の屋根裏部屋に住んでいたのですが、階下で温まった空気と屋根から伝わってくる太陽熱のせいで終日サウナ状態だったので、夏の間は居間のソファで寝ていました。……あれ、この話の流れだと、扇風機がない分、あちらにいた方が状況が悪い?
ともあれ、今回の話のタネは前回と同じくイギリス、ロンドンにある美術館、その中でも新顔のテート・モダンです。
テート・モダン全景手前にあるのが、美術館と同時に作られたミレニアム・ブリッジ
テート・モダンは以前「バンクサイド発電所」だった建物を改造して美術館として使用しており、もともとの発電所は、イギリスの赤い電話ボックスで有名なサー・ジャイルズ・ギルバート・スコットの設計によるものです。テムズ川をはさんだ北側には金融街シティ・オブ・ロンドンやセント・ポール大聖堂が聳え立つ立派な街並みが広がっていますが、南側のサウス・バンクは長年ロンドンの裏方的な存在の工場・倉庫街であり、この発電所も戦災復興の際にロンドンの電力不足を解消するために急遽建てられたという背景があります。発電所は1981年に閉鎖後、建物を保存せよという市民の声もありましたが、歴史的建築物リストへの掲載は拒否され、1993年の段階では機械搬出のために建物の一部取り壊しが始まるなど保存の見通しは絶望的な状態でした。
一方、テムズ川上流のミルバンク地区にある「テート・ギャラリー(現テート・ブリテン)」はイギリス美術および世界の近代・現代美術の美術館として運用されていましたが、展示・収蔵スペースの不足に悩まされたため、1980年代にスペース拡充と役割分担のため近現代美術館の機能を新しい建物に移す計画が立てられていました。建物の新築費用と場所が最大の問題でしたが、理事会はシティの対岸の荒廃した地区にある発電所建物に目を付け、1994年春、これを改造して再利用することが発表されました。同年夏に安藤忠雄などが参加したコンペの結果、1995年1月にスイスの新鋭建築家コンビ、ヘルツォーク&ド・ムーロンの案が選ばれました。
発電機のあった巨大なタービン・ホールを大エントランスホールにして、屋上に採光窓やレストランなどのあるガラス張りのフロアを設けるなどの工事が行われ、2000年の5月12日、新世紀を祝う新施設の一つとしてオープンして以来、地元の人々や観光客に非常に人気のあるスポットとなっています。
エントランス『タービン・ホール』私も開館の折に友人と一緒に行って来ましたが、かつて発電機が置かれていた七階分の高さの吹き抜けと、3,400平方メートルの広さを誇るエントランス『タービン・ホール』は壮観でした。個人的には建物前から対岸に伸びる「ミレニアム・ブリッジ」も渡りたかった(というか、こちらがメインでした)のですが、風でグワングワン揺れているせいで通行禁止になっていました。
このテート・モダンで現在開催中なのが「Henri Matisse: The Cut-Outs」。ときの忘れものでも扱っている20世紀の巨匠、アンリ・マティスの切り絵を主題にした展覧会です。開催期間は4月17日から9月7日まで。入場料は大人1名£18.00、12歳以下は無料です。

60代後半、体調の問題から筆を置いていた時、絵画の草案として始まり、やがて新しい技法へと昇華されたのがマティスの切り絵作品です。
この展覧会では1934年から1954年にかけて制作された120点の作品を展示しており、これらの作品が初めて一堂に会する記念碑的展示です。マティスのスタジオ写真などからこれらの作品は本来総体として扱われるものだと言われており、今回50年の時を経てついにそれが実現しました。
アンリ・マティスBlue Nude (II)
1952
切り絵
アンリ・マティスThe Snail
1953
切り絵
今回展示されている作品は、後にアメリカのMoMAへ巡回し、その後それぞれが所属する美術館や個人へ返却されることになっています。
夏休みにイギリスを訪れる予定があれば、是非お出かけいただきたいイベントです。
(しんざわゆう)
Tate Modern公式サイト:http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern
展覧会紹介ページ:http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-modern/exhibition/henri-matisse-cut-outs
●ご紹介するのは、テート・モダンのコンペで敗れた安藤忠雄先生の版画作品。
安藤忠雄《テート・モダン》
2002年
シルクスクリーン
イメージサイズ:33.0×86.0cm
シートサイズ :75.0×106.0cm
Ed.15
サインあり
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