飯沢耕太郎「日本の写真家たち」第7回
小林紀晴(Kisei KOBAYASHI 1968~)
飯沢耕太郎(写真評論家)
長野県諏訪出身の小林紀晴は、1988年に東京工芸大学短期大学部写真学科を卒業後、日刊工業新聞社にカメラマンとして入社する。3年半後、息が詰まるようなルーチンワークに疲れ果てて辞表を提出し、タイ、インドネシア、ネパール、インドなどを放浪する旅に出た。この時期にアジア各地で出会った若い日本人たちについて、文章と写真で綴った彼の最初の著書『アジアン・ジャパニーズ』(1995年)は、この種の本では珍しく10万部を超えるという大ヒットになった。
その後、小林は『アジアン・ジャパニーズ2』(1996年)、『アジアン・ジャパニーズ3』(2000年)をはじめとして、写真集、エッセイ集、小説などを次々に刊行し、同時代の若者たちの生き方を代弁するような立場になっていった。2000~2002年にはニューヨークに滞在し、たまたま「9・11」の同時多発テロを間近で体験した。この時の衝撃は写真集『days new york』(2003年)にまとめられている。
小林のこの頃までの写真と文章の仕事は、無名の同世代の若者たちへの共感に裏づけられており、彼らとの関係を細やかに、「等身大の」親しみやすいスタイルで記述したものだった。それはたしかに社会に広く受けいれられやすいもではあったが、反面、表現の奥行きや強度においては、物足りないところがあったことは否定できない。だが、2000年代半ば以降、彼はもう一度自分自身を見つめ直して、そのルーツを確認し、一回りスケールの大きな表現のあり方を模索するようになっていった。
そのきっかけとなったのは、7年に一度、故郷の諏訪で開催される「御柱際」をはじめとする、日本各地に伝わる儀礼や祭礼を丹念に記録し始めたことだった。既に1999年には「御柱際」の前後を撮影した写真集『homeland』を刊行しているが、近年はその範囲が日本全国にまで広がりつつある。その成果は写真集『KEMONOMICHI』(2013年)と写真展「遠くから来た舟」(同)に結実し、後者で第22回林忠彦賞を受賞した。また、オーストリア在住の写真家、古屋誠一との交遊を軸に、「写真家であること」の意味を問いつめた『メモワール 古屋誠一との二〇年』(2012年)は、渾身のノンフィクションとして話題をさらった。
小林はいま一つの壁を乗り越え、写真家として、また文筆家として、さらなる未知の可能性にチャレンジしようとしている。
(いいざわ こうたろう)
小林紀晴
〈ASIA ROAD〉より1
1995年
ヴィンテージC-print
Image size :18.6x27.9cm
Sheet size :25.3x30.3cm
サインあり
小林紀晴
〈ASIA ROAD〉より2
1995年
Image size :18.7x28.2cm
Sheet size :25.3x30.3cm
サインあり
小林紀晴
「作品1」
1996年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
Image size :21.4x17.3cm
Sheet size :25.3x20.3cm
サインあり
小林紀晴
〈South〉より2
2002年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
Image size :32.0x25.7cm
Sheet size :35.6x28.0cm
Ed.20
サインあり
小林紀晴
「冬林」
2011年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
Image size :23.8x30.4cm
Sheet size :28.0x35.2cm
サインあり
■小林紀晴 Kisei KOBAYASHI(1968-)
1968年長野県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真科卒業。新聞社カメラマンを経て、1991年よりフリーランスフォトグラファーとして独立。1997年に「ASIAN JAPANES」でデビュー。1997年「DAYS ASIA》で日本写真協会新人賞受賞。2000年12月 2002年1月、ニューヨーク滞在。現在、雑誌、広告、TVCF、小説執筆などボーダレスに活動中。写真集に、「homeland」、「Days New york」、「SUWA」、「はなはねに」などがある。他に、「ASIA ROAD」、「写真学生」、「父の感触」、「十七歳」など著書多数。
公式サイト:http://www.kobayashikisei.com
小林紀晴(Kisei KOBAYASHI 1968~)
飯沢耕太郎(写真評論家)
長野県諏訪出身の小林紀晴は、1988年に東京工芸大学短期大学部写真学科を卒業後、日刊工業新聞社にカメラマンとして入社する。3年半後、息が詰まるようなルーチンワークに疲れ果てて辞表を提出し、タイ、インドネシア、ネパール、インドなどを放浪する旅に出た。この時期にアジア各地で出会った若い日本人たちについて、文章と写真で綴った彼の最初の著書『アジアン・ジャパニーズ』(1995年)は、この種の本では珍しく10万部を超えるという大ヒットになった。
その後、小林は『アジアン・ジャパニーズ2』(1996年)、『アジアン・ジャパニーズ3』(2000年)をはじめとして、写真集、エッセイ集、小説などを次々に刊行し、同時代の若者たちの生き方を代弁するような立場になっていった。2000~2002年にはニューヨークに滞在し、たまたま「9・11」の同時多発テロを間近で体験した。この時の衝撃は写真集『days new york』(2003年)にまとめられている。
小林のこの頃までの写真と文章の仕事は、無名の同世代の若者たちへの共感に裏づけられており、彼らとの関係を細やかに、「等身大の」親しみやすいスタイルで記述したものだった。それはたしかに社会に広く受けいれられやすいもではあったが、反面、表現の奥行きや強度においては、物足りないところがあったことは否定できない。だが、2000年代半ば以降、彼はもう一度自分自身を見つめ直して、そのルーツを確認し、一回りスケールの大きな表現のあり方を模索するようになっていった。
そのきっかけとなったのは、7年に一度、故郷の諏訪で開催される「御柱際」をはじめとする、日本各地に伝わる儀礼や祭礼を丹念に記録し始めたことだった。既に1999年には「御柱際」の前後を撮影した写真集『homeland』を刊行しているが、近年はその範囲が日本全国にまで広がりつつある。その成果は写真集『KEMONOMICHI』(2013年)と写真展「遠くから来た舟」(同)に結実し、後者で第22回林忠彦賞を受賞した。また、オーストリア在住の写真家、古屋誠一との交遊を軸に、「写真家であること」の意味を問いつめた『メモワール 古屋誠一との二〇年』(2012年)は、渾身のノンフィクションとして話題をさらった。
小林はいま一つの壁を乗り越え、写真家として、また文筆家として、さらなる未知の可能性にチャレンジしようとしている。
(いいざわ こうたろう)
小林紀晴〈ASIA ROAD〉より1
1995年
ヴィンテージC-print
Image size :18.6x27.9cm
Sheet size :25.3x30.3cm
サインあり
小林紀晴〈ASIA ROAD〉より2
1995年
Image size :18.7x28.2cm
Sheet size :25.3x30.3cm
サインあり
小林紀晴「作品1」
1996年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
Image size :21.4x17.3cm
Sheet size :25.3x20.3cm
サインあり
小林紀晴〈South〉より2
2002年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
Image size :32.0x25.7cm
Sheet size :35.6x28.0cm
Ed.20
サインあり
小林紀晴「冬林」
2011年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
Image size :23.8x30.4cm
Sheet size :28.0x35.2cm
サインあり
■小林紀晴 Kisei KOBAYASHI(1968-)
1968年長野県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真科卒業。新聞社カメラマンを経て、1991年よりフリーランスフォトグラファーとして独立。1997年に「ASIAN JAPANES」でデビュー。1997年「DAYS ASIA》で日本写真協会新人賞受賞。2000年12月 2002年1月、ニューヨーク滞在。現在、雑誌、広告、TVCF、小説執筆などボーダレスに活動中。写真集に、「homeland」、「Days New york」、「SUWA」、「はなはねに」などがある。他に、「ASIA ROAD」、「写真学生」、「父の感触」、「十七歳」など著書多数。
公式サイト:http://www.kobayashikisei.com
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